幼い頃から、犬と暮らしてきた私。真夏に我が家の玄関に迷い込んできた子を保護して育てたり、もらい手がなく保健所に引き取られそうになった子を保護したり。
そんな私がずっと憧れていたのが大型犬との暮らしです。はちゃめちゃに元気な大型犬との暮らしやひとり息子との関係。16歳を目前に虹の橋を渡ったラブラドールのお話です。

2003年生まれのラブラドール・レトリーバー「リク」が、新築の我が家にやってきたのは生後2ヶ月。その頃はまだ、実家や我が家の近所で大型犬を見かけたこともなく、知り合いに飼っている方も全くいませんでした。
盲導犬や介助犬としてのイメージが強いラブラドール。「賢くて穏やかで、大人しいんだろうな。」そんな勝手な私の思い込みは、リクを我が家に迎えて過ごすうち、きれいさっぱり吹き飛ぶことになります。
我が家に来てからのリクは、毎日たくさん食べ、たくさん遊び、元気いっぱい過ごしました。成長期には、1週間で1キロずつ体重が増えるそのスピードにはびっくり。あっという間に25キロを超えるほどに成長しました。
体は大きくても中身はまだまだ子どもです。遊ぶおもちゃは5分で破壊し、大型犬用の丈夫なおもちゃを探し回る日々でした。椅子の脚など木製のものをガジガジしたり、CDケースやプリンターなど、家中のいろいろなものも破壊してはあり余るパワーを発散させておりました。
中でも一番驚いたのが、玄関の手すりです。外出先から帰宅した私が玄関に入ると、辺り一面おがくずだらけ!なんと、リクが囓った玄関の手すりが、3分の1ほどなくなっているではありませんか!あまりの豪快さに、怒る気力もなくし思わず笑ってしまいました。
こうしてリクは、新築の我が家を破壊して、自分好みにリフォームしていったのでした。
そんなはちゃめちゃなパワフル犬だったリクが、6歳の時に「お兄ちゃん」になりました。
出産を終えて、息子と一緒に帰宅した私に、喜びを発散させるリク。と同時に、私が大切そうに抱っこしていた息子を、しばらくクンクンしてその存在を確かめます。ベビーベッドで眠る息子、あーあーと何かしゃべりながら動く息子を、不思議そうに見ていたリク。
息子が泣くと「ワォーン」と遠吠えしながら一緒に鳴いたり、少し距離をとってそばにいたり。あんなにやんちゃだったお兄ちゃんは、優しく弟を見守るお兄ちゃんに変わっていきました。

リクは家族といるのも好きですが、ひとりの時間もリラックスできる貴重な時間のようでした。息子から逃れて玄関に避難して眠る時には、邪魔をせずそっとしてあげました。
人間だってひとりになりたい時があるものです。犬にもそういう時間が必要なのかもしれませんね。
毎日の散歩を欠かさなかったことで、リクにはお友達がたくさんできました。誰にも会えない日は、大好きなお友達の家を目指して歩くこともあるほど、お友達に会うのが大好きな犬でした。散歩中にバッタリお友達に会い、気がついたら5頭で一緒にお散歩、そんなこともよくありました。
そんな時のリクは、目をキラキラさせて見るからに楽しそう。リクのその表情を見ている私まで嬉しくなりました。
息子が生まれたことで、リクがストレスを感じないよう、リクのための時間をしっかりとるよう心がけました。平日のお散歩は、常に息子が一緒です。息子が「こっちへ行きたい!」というとそちらへ向かい、大好きな車を観察している間、リクは待ちぼうけ。そんな日も多々ありました。息子がご機嫌斜めになって大泣きすると、散歩を早めに切り上げることも。
そんな状態が続くと、リクも十分に散歩ができずストレスが溜まるはず。そう考え、休日は公園に行って、リクの大好きなボール遊びにとことん付き合うなど、リクが楽しめる時間を大切にしたのです。
ラブラドールはかなり体力があり、しっかり体を動かすことが必要です。子どもが生まれてストレスを感じ、体調を崩す愛犬の話も聞きますが、幸いリクは、たくさん遊んで、めいっぱい体を動かすことで、心の健康も保つことができました。

愛犬と過ごしていると、幸せを感じる瞬間はたくさんありますね。「甘えてくる時」、「散歩中嬉しそうに飼い主を見上げる時」、「寒い時期に愛犬のぬくもりを感じた時」、「体調不良で寝込んでいたら、そばにいてくれた時」など。
飼い主の数だけ、幸せを感じる瞬間もたくさんあるでしょう。
帰宅した時に、笑顔で出迎えてくれる愛犬の存在は、何より嬉しいものです。疲れて帰って来ても、リクがブンブンしっぽを振って「おかえり!」と玄関まで出迎えてくれると、疲れが一気に吹き飛びます。
一方、主人が帰宅した時はソファから動かず、顔だけ向けて「おかえり~」と迎える様子を見ると「私の時の方が、リクの喜び方は激しいぞ」と、心の中で勝利宣言することも。
私の膝枕で眠っている時、ソファでスヤスヤ眠っている時、ひなたぼっこしながらウトウトしている時。リクの穏やかな寝顔を見ていると、私も温かい気持ちになりました。ずっと見ていたくなる寝顔です。同じように感じる飼い主さんも多いのではないでしょうか。

ラブラドールはとても運動量の多い犬種です。リクも若い頃は1日2回の散歩はかかさず、それぞれの散歩で2時間ほど歩いていました。それでも物足りない時には、公園に寄ってボールで遊んだり、家での「紐の引っ張りあいっこ」や「風船遊び」が恒例となりました。
大型犬であるリクと遊ぶには、こちらも体力が要ります。私が今健康でいられるのは、リクのおかげなのかもしれません。
ラブラドールは泳ぎも得意です。夏には海へ行ったり、川でボール遊びをしたり。ダブルコートの犬種ということで、冬の寒さにも比較的強いことから、冬のゲレンデにも毎年行きました。
リクのおかげで私たちもアクティブになり、季節ごとの遊びをめいっぱい楽しめました。たくさんの思い出ができたのは、リクがいたからこそです。
毎日の散歩やご飯、遊び。一緒の時間を何年も過ごすことで、リクは私を心から信頼してくれました。私がこれまでリクにしてきた接し方、過ごし方が間違っていなかったんだと、私に自信と喜びを与えてくれました。それは、これからも生き続けていく飼い主にとって、とても大きな支えだと私は思います。

リクは16歳を目前にしたある日、静かに深い眠りにつきました。ラブラドールという大型犬にしては、とても長生きをした、よく頑張った、と動物病院の先生も褒めてくれました。
「あなたは長年に渡り、家族を癒やし続けてくれました」と、表彰状まで頂きました。私たちを癒やし続けてくれてありがとう、その思いはリクが亡くなってからもずっと、私の胸の中にあります。
リクは寝たきりになっても、食欲は旺盛でした。歯が丈夫だったこともあり、体を起こして支えてあげ「フセ」の状態にすると、カリカリのフードをパクパク食べていました。それなのに体はどんどん痩せていきました。
獣医師によると、内臓の機能が衰え、食べてもその栄養を吸収できない、と言われました。30キロあった体重は、最期13kgにまで減り、ガリガリになった体を見るたび、胸が痛みました。
リクはだんだんと視力も衰え、耳も遠くなり、匂いも感じなくなっていたようです。真っ暗な中、音も匂いもない世界。想像しただけでも不安で泣きたくなります。声帯の筋肉が衰え、声も出せなくなったリクが、たまに「ヒュンヒュン」と鳴くことがありました。
そんな時は、そっと体に触れて「そばにいるよ」と伝えると、すぐに鳴き止んでくれました。そばに私がいることで、安心してくれたならいいな、そう思い続けた日々でした。

これまでも愛犬を亡くしたことがありますが、一番身近に「死」を思ったのは、リクが亡くなった時でした。今までで最も長く一緒に過ごしてきたのがリクでしたから、それも当然なのかもしれません。16年弱という年月をともに過ごしてきたリクを亡くし、思うことがたくさんあります。
家族として迎えた時にはまだ子どもだったリクが、いつの間にか私の年齢に追いつき、気が付いた時には私より年上になっていました。徐々に遊ぶ時間が減り、動きがゆっくりになり、散歩中につまずくことが出てきて、「老い」を感じる日々。きっとリク自身、戸惑うことも多かったでしょう。
そんな状況であっても、いつも通りに日々を楽しみ、息子の相手をし、穏やかに過ごすリクを見て、老いてもなお、私たちを癒やし続けてくれていることに気付きました。そして、自分が年を重ねていく姿を私たちにさらけ出すことで、身をもって「老い」というものを教えてくれたのだと思います。
リクは寝たきりになっても、一生懸命毎日を生きていました。ぼんやりと目を開けたり、かと思えばウトウトしたりを繰り返していましたが、そっと触れて「ご飯だよ」と伝えると、パクパクと口を動かし食べる意欲を見せました。目の前のその瞬間を、リクは全力で生きているようでした。深い眠りにつくその日まで、リクの生き抜く様を、私は尊敬の念をもって見守っていたように思います。

リクを迎えることができて、私は本当に幸せでした。私たちの元に来てくれて、時には私たちを笑わせ、時には癒やしてくれたリク。そして、一人息子のお兄ちゃんになってくれて、本当にありがとう。リクは最高の家族だよ、いつかリクに会えたら、そう伝えたいと思います。
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