読書の秋ですね。久しぶりに犬の本を買ってみました。獣医師の阿部美奈子さんの「犬と私の交換日記」です。なぜ交換日記?!と初めは不思議に思ったのですが、50の質問に答えながら、その合間に書かれたエピソードを読んでいくうちに、なぜこの本が「交換日記」なのかがわかってきました。
思い出をたどって懐かしむだけでなく、未来の愛犬との生活を豊かにできるヒントを見つけることができる一冊です。

この本の主人公は「このコ」と「私」、つまり愛犬と飼い主さんです。全部で5章あり、出会いから始まって少しずつ未来へと進んでいきます。
初めの章は、このコと私の出会いの場面から始まります。どうしてこのコを選んだの?名前はどうやって決めたの……?犬と暮らす飼い主さんなら、懐かしい思い出がよみがえる質問がたくさん並んでいます。
犬と暮らしていると、どうしてこのコだったんだろう、でもこのコでよかったなぁって思うことがありませんか?それはきっと、偶然を装った必然的な出会いだったのでしょうね。
代々犬と暮らしている飼い主さんでも、このコとふたりで経験したことはたくさんの初めての連続ですよね。みんな少しずつ性格が違うから、同じことをしても反応は違ったと思います。
みんな違う、その違いこそがこのコの個性で、誰かと比べて良いとか悪いとかの順位をつけるものではないんだなぁということがわかってきます。

グリーフとは、直訳すると「悲嘆」「深い悲しみ」という意味になります。普段生活している中で悲嘆に暮れるような場面は少ないように感じますが、実はささいなところでグリーフは発生しています。
愛犬がいつもより元気がない、お腹を壊した、病気やケガをした、散歩に行きたがらないなど、飼い主さんはいつもと違う愛犬の様子を見て不安になることがありますよね。
同時に愛犬も、飼い主さんに元気がない、家に帰って来ないなど、いつもと違う様子を感じると不安になってしまいます。
この「いつもと違うこと」に不安や寂しさを感じることもグリーフです。でもそれは当たり前の気持ちの変化です。そんな時どんな風に考え、どう切り替えていくかで、幸せの感じ方は大きく変わってきます。
グリーフは、愛犬を想う気持ちや飼い主さんを想う気持ちが強いほど感じやすいものです。大好きだから心配になるし、失うことを考えるとつらくて仕方なくなるんですよね。
その気持ちを理解しながら、大好きな気持ちを笑顔に変えていこうというのがグリーフケアなのかな、と私は思いました。一足跳びにグリーフから笑顔は難しいかもしれないけれど、最後は愛犬に笑顔を向けられる飼い主になりたいですね。

グリーフが自然に発生するものだとしても、飼い主さんと愛犬の気持ちのすれ違いによって生じるグリーフは、できれば避けたいものです。なぜ気持ちのすれ違いが起きるのか?
それは、飼い主さんの目線をどこに合わせるかで変わってくるのです。
「犬と私の交換日記」の中で、薬をフードに混ぜた時やトイレを覚えない犬のエピソードが紹介されています。うちのコも、フィラリア予防薬をフードに混ぜたら、変な顔をして食べなかったことがあったし、迎えたばかりの頃は家の中で自由に排泄して部屋中オシッコの匂いが充満して大変でした。
他の子の話を聞くと、フードに混ぜたら普通に食べてくれたらしいのに、このコはどうして食べてくれないの?オシッコの匂いをつけてトイレの場所を教えているのに、どうしてこのコは好き勝手に排泄するの?と、私は思いました。でもこれは、飼い主目線から見た愛犬の都合の悪い行動を嘆くグリーフです。
この時、うちのコはどう考えていたのでしょうか。その答えを考えるのが「共感」になります。
いつものご飯だと思って喜んで駆け寄ったら、変なにおいがした。今まで「トイレ」という存在さえ知らずに生活してきたのに、突然よくわからない物(トイレトレー)を見せられても何のことだか全然わかんないよ。これはどちらもうちのコのグリーフです。私は私で困ってはいたけれど、うちのコも同じように困っていたんですね。
今は、薬は別に飲ませることにしてフードに混ぜることはやめています。トイレも獣医さんにアドバイスをもらって水を入れたペットボトルをトイレシーツの上に置いたら、自然にそこを狙ってオシッコをしてくれるようになり、すぐに覚えてくれました。
飼い主目線の感情移入ではなく、愛犬目線の共感を意識するだけで、愛犬との心の距離はグッと縮まるのですね。

「グリーフ」「感情移入」「共感」の3つを理解できるようになると、交換日記の質問に答えることが、ただ思い出をたどることだけではなくなってきます。その時の自分の気持ちと同時に、このコはあの時どう思っていたんだろうという、愛犬の気持ちも一緒に考えられるようになってきます。
愛犬の目線で日常生活を考えることができるようになると、先代の子や他の子と比べる必要がなくなりますよね。目の前にいるこのコがどう感じているか、なぜこんな行動を取るのかが一番大切なことで、このコと私だけの世界で考えることができるようになります。
毎日同じ散歩コースばかりでつまらないだろうとドッグランなどに連れて行っても、全然楽しもうとしない犬がいたとします。飼い主さんにとっては活動的ではない愛犬に少しがっかりするかもしれません。でも愛犬にとっては、安心できるいつもの道を歩くことが一番楽しいと感じていることもあるのです。「犬はドッグランで楽しく過ごせる」というのは一般論で、必ずしも自分の愛犬がそれに当てはまるわけではないことも、理解できるようになりたいですね。
ずっと読書に没頭するのも良いのですが、もしかしたらその横に愛犬がいるのではありませんか?このコの好きな食べ物は何ですか?の質問があったので、私はひと休みしてうちのコが大好きな卵をあげてみました。溶き卵をスプーン1杯お皿に広げてレンジで10秒加熱しただけの簡単卵おやつですが、思ってもいなかったタイミングで大好物をもらえたうちのコは大喜びしてくれました。こんな風に質問に答えながらおもちゃで遊んだりおやつをあげたりするのも楽しいですよ。
愛犬が病気になった時、どうしてもっと早く気づいてあげられなかったんだろう、このコがいなくなったらどうしようと不安でつらくて、気がつくと悲しい顔ばかりになってしまうかもしれません。でもそんな時こそ、共感の気持ちが大切だと著者は語っています。
病気ではなく、愛犬を見てあげること。愛犬が病気で元気がないのは、飼い主さんの悲しそうな顔にグリーフを感じているのかもしれません。この先どうにもしてあげられないと感じることがあったら、どんな風に笑顔を向けてあげられるかを考えてみようかな、と私は思いました。

この本の素敵なところは、たとえ今、愛犬がどんな状態であっても、必ずハッピーエンドが迎えられる自信を持つことができるところにあると思います。文章や会話でコミュニケーションが取れなかったとしても、これまでこのコと経験してきたたくさんのことをひとつひとつこのコ目線で感じていくうちに、心の交流ができるようになる気がします。これがきっと交換日記なのですね。
これから本格的な冬を迎え、少し心が寂しく感じることもあるかもしれません。そんな時にこの本を開くと、ポカポカした気持ちになれますよ。
「手づくりごはん|パートナーに優しいレシピ【第4部】」記事一覧