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柴犬 小説
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2021.10.24

アマチュア小説ライターが綴る、犬と暮らした日々のこと【第3部】|vol.19

豆しば暮らし|大空の向こう、雲の彼方に

ゆっくりお別れができる所、個別に火葬してくれる所。
それが、みんなの願いでした。
見つけたのは、街のはずれの山奥にあるペットの火葬場。
火葬炉を設けた小さな小屋が、いくつも並んでいます。

#柴犬 / #豆しば暮らし

笠井 ゆき/ライター、葬儀司会者

この記事は、アマチュア小説家が「犬と暮らした日々のこと」をもとに綴る創作物語【第2部】の連載第19話です。

最後のドライブ

「メロンといろんな所に行ったねぇ」

「ドッグラン、海、旅行、キャンプ、スキー、釣り…。どこに行っても楽しかったな」

「メロン、最後のドライブは山だよ。いい天気で本当によかった」

山道を進んで行くと、大きな看板が見えてきました。

「着いたよ、メロン!」

「うわぁー、すっごく広いしきれい!」

木々の緑が眩しく輝き、涼やかな風にさらさらと揺れています。
見晴らしのいい広大な敷地の一角には、慰霊塔やお墓もありました。
ここに眠るペット達は、日向ぼっこをしながらまどろんでいるような、穏やかな気持ちでいることでしょう。

もう泣いてもいいかな…?

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「メロンちゃんのお姿をご覧になれるのは、これが最期です。お一人ずつお別れをなさってください」

かつて葬儀社に勤めていたというスタッフが、5番と記された小屋に案内し、丁寧に説明しました。
人間だってペットだって、命の重さも別れの悲しみも同じだと、その優しい眼差しが語りかけています。

「ママからどうぞ」

「ありがとう」

ママは、メロンへのお手紙とおもちゃを、胸元にそっと置きました。
そして、すっかり冷たく硬くなってしまった体を、ゆっくりと撫でます。

「ねぇメロン、もう泣いてもいいかな…?」

老いも死も、惨めなことでも哀れなことでもない。
だから私は、メロンがどんな姿になろうとも絶対に泣かないって決めたんだ。

どんなに辛くても苦しくても、不安でいっぱいになっても怖くてたまらなくても、諦めずにがんばり続けたね。
最後の最後まで美しかった。

出会いの日から旅立ちの日まで、たくさんのことを教えてくれた。
数え切れないほどの幸せをくれた。
ありがとう。
あなたのママになれたこと、心から誇りに思うよ。

大粒の涙がとめどなく溢れ、ママの頬を伝いました。

空へ

「ご収骨のお時間になりましたらご案内いたします。それまで、あちらでお休みください」

お別れの後、メロンを丁重に炉に入れたスタッフは、火をくべる前にそう言って、深々と一礼しました。
みんな目も鼻も真っ赤です。

涙を拭き、案内された場所で休んでいると、パパがふらりと外に出て行きました。

「煙が出てる! メロンだよ!」

その声に、ハルカちゃんもママも駆け出しました。
小屋の煙突から、ゆっくりと煙が立ち昇っています。

「メロン! ありがとう! 愛してるー!」

空へと昇って行く煙に、大きく手を振りながら、何度も何度も叫びました。
大空の向こう、雲の彼方へと駆けて行くメロンに届くように。

  • 更新日:

    2021.10.24

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ライター・専門家プロフィール
  • 笠井 ゆき
  • ライター、葬儀司会者
  • 年中無休の犬好き、犬バカです。只今、自宅警備員まめお(パピヨン)と同棲中!犬を愛する喜びを、皆さまと分かち合ってゆけたら幸せです。どうぞよろしくお願いいたします。

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