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柴犬 小説
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2021.09.19

アマチュア小説ライターが綴る、犬と暮らした日々のこと【第3部】|vol.13

豆しば暮らし|Long Good-bye

「数値はかなり改善されてきました。リンパ球の変形も減少しています」
「快方に向かっていると考えていいのでしょうか?」
「そうですね。もちろん、油断はできませんが」

#柴犬 / #豆しば暮らし

笠井 ゆき/ライター、葬儀司会者

この記事は、アマチュア小説家が「犬と暮らした日々のこと」をもとに綴る創作物語【第3部】の連載第13話です。

穏やかな生活

骨髄の病気なら余命1週間、急性白血病なら余命2週間。
そう告げられた後の、長い長い2週間が過ぎ、みんなの顔に明るさが戻ってきました。

「メロンのお散歩に行ってくるねー!」

「ゆっくり歩いてあげてね。時々休ませて、お水をちゃんと飲ませてね」

「はーい。さぁメロン、たくさん歩こうね!」

ハルカちゃんとメロンが、弾むような足取りで出かけて行きました。
ママは笑顔で見送ります。

大きな山を一つ越えた。
そんな安心感で、誰の心も満たされていました。
何事もないということがどれほどありがたいことなのか。
身にしみて感じています。

初めてのこと

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その翌年の、ある日のことです。

押し入れの整理をしようと、ママは押し入れの中の段ボール箱を出し始めました。
壁につけて適当に並べていると、その隙間にメロンが入り込みます。

「ちょうどいいサイズの隙間だね、メロン」

ママは笑いながら作業を続けました。

しばらくして、ふと振り返った時、まだメロンが隙間に入り込んだままでいることに気づきました。
うつむいて立ちつくしています。

「メロン…。出られないの? 後ろに下がればいいんだよ?」

それでもメロンは動きません。
ママはメロンを抱き上げ、隙間から出しました。

またある日のこと。

立って窓の外を見ながら電話をしていたママの足元に、メロンがやって来ました。
ママの周りをぐるぐると回り続けます。

新しい遊びなのかとママは思いましたが、楽しそうには感じられません。
理由もわからないまま回り続けているように見えました。

「おかしい…。こんなこと初めてだ…」

ゆっくりとお別れを

メロンの行動が何を意味するのか。
調べていたママは、愕然としました。

認知症。

ここ数日の違和感は全て、この3文字を示していました。

「穏やかな毎日が戻ったと思ったのに…。こればかりは治療することができないよね…」

メロンは、気持ちよさそうにお昼寝をしています。
あの愛おしい姿を、あとどのくらい眺め続けることができるのだろう。
ママの目に、涙が滲んできました。

だめだ、泣いてはいけない。
絶対に泣かないって決めたんだ。

手の甲で、溢れそうになる涙を拭います。

これからメロンは、少しずついろいろなことを忘れていく。
私達のにおいも、私達の声も、私達の顔も。
出会った日のことも、笑ったり泣いたりした日々のことも。

辛いことだけれど、それはメロンの優しさなんだと、ママは自分に言い聞かせました。
いつかメロンが旅立つ日、私達が深く悲しまないように、今からゆっくりとお別れをしているのだと。

「小さなサヨナラをいくつも積み重ねていこうね、メロン。その日がきたら、ありがとうって見送ることができるように」

  • 更新日:

    2021.09.19

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ライター・専門家プロフィール
  • 笠井 ゆき
  • ライター、葬儀司会者
  • 年中無休の犬好き、犬バカです。只今、自宅警備員まめお(パピヨン)と同棲中!犬を愛する喜びを、皆さまと分かち合ってゆけたら幸せです。どうぞよろしくお願いいたします。