magazine

住まい / 生活
鉛筆アイコン

2021.09.30

ドックドッグ企画「愛犬のための防災特集」DAY30

犬の防災と真剣に向き合う。災害時に目指す「多様性の中の共生」とは?

「犬とどこに避難してもいい環境を作ること。これが僕が目指す災害対策のゴールです。」そう話すのは、妻と娘、そしてアメリカンピットブルのペコとリリーの3人2頭で暮らす宅見さん。災害で避難が必要になったとき、さまざまな境遇の避難者が集まるなか、理想の実現に向けては「乗り越えなきゃいけない壁は高いし、多い」と言います。
山あり川ありの緑豊かな神奈川県愛川町で暮らし、行政とタッグを組んでペットの飼い主に向けた防災意識の啓発活動などに取り組まれている宅見さんにお話を伺いました。

#犬の防災

docdog編集部

犬の防災に取り組むきっかけ

docdog 防災

まずは、これまでの宅見さんの活動フィールドと、犬の防災に取り組むきっかけとなった出来事から聞いていきましょう。

きっかけは中越沖地震を経験したドッグトレーナーとの出会い

あれは、新潟県中越沖地震を経験したドッグトレーナーの清水美森さんに招かれて、彼女がスクールをしている新潟県のドッグランを訪れたときのことでした。

僕はもともと、犬と一緒に楽しめるアクティビティイベントを開催するなど「アウトドア×犬」をテーマに活動をしてきたのですが、「災害時に備えるためにも普段のトレーニングが重要」という考えのもとドッグトレーナーとして活動する清水さんと話して、ふと「犬との防災活動は、愛犬を守るために考えなければいけないことのひとつだ」と感じたんです。

アクティビティを軸に様々な愛犬との「遊び場」を提供

2014年、トレイルランニングをメインとしたアクティビティを発信したり、イベントを開催したりする団体として「PLAYGROUND(プレイグランド)」を立ち上げました。愛犬ペコを迎えてからは、“人間の何倍も速いスピードでこの世界を生きている犬に最高の犬生を”をコンセプトに犬と一緒に走れるトレイルランニングの大会や、SUPのイベント、ディスクドッグ、ドッグダンスなど、遊び軸で犬とのライフスタイルを発信してきました。

当時、父がディスクドッグ(プラスティックの円盤を投げて、犬が空中でキャッチし得点を競うドッグスポーツ)の団体を運営していたのですが、その中で出会う犬と飼い主さんの関係性を見ていて、犬との過ごし方や想いって本当に人それぞれだと思ったんです。犬とのアクティビティを通じて更に色とりどりな思い出を残してほしいという想いから、他のアクティビティも始めるように。でも最初のきっかけは単純。自分が7年間続けてきて、もはや生活の軸とも言える趣味だったトレイルランニングを「ペコと一緒にできたら嬉しいな」という気持ちだけでした。

実際に始めると、アスファルトの散歩よりも楽しそう。坂道を登ったり走ったり、しんどいことのようだけど、いっしょに分かち合えるパートナーがいると達成感も大きくなるんです。この感覚を広めたいという想いで現在も活動をしています。

犬の防災に関するこれまでの歩み

docdog 防災

ドッグトレーナー清水さんとの出会いをきっかけに「犬の防災」に興味を持ち始めて以降、これまでにはどういった活動をされてきたのでしょう?

最初は参加しやすい環境作りから

2021年4月に足柄で開催された「ぶる祭」で、飼い主さんと愛犬が実際に「逃げる」体験イベントを開催しました。片手にケージ、もうひとつの手にはリードを持ち、背中には約5kgある避難用バッグを背負ってもらいます。実際に避難で必要になるであろう道具を持って、避難時を想定した状況を体験してもらうゲーム形式のイベントです。

普段愛犬が踏みなれないブルーシートを敷いて一緒に歩いたり、パラシュートをくぐったり、犬が苦手なレーチング(道路にある格子状の構造物)の上を通ったり、ぐらぐら揺れる不安定な板の上に登ったり、更には倒壊した道を想定して倒したフェンスで囲まれた狭い道を歩いたりと、障害物が次々に現れる道を進んでもらい、最後は愛犬をケージに入れてレース終了という流れです。

災害時は普段とは違う状況の中を移動しなければなりませんし、避難先には色んな人が集まるので、愛犬をケージに入れなければいけないケースがほとんどです。「うちの子はこれが苦手なんだ」とか「こうなるのね」と気づいてもらう良い機会になったと思っています。

犬に対する理解を深める活動も

昨今は大勢が集まるイベントが難しいので、少人数制で犬連れOKのドッグトレーニングを過去3回開催しています。トレーニングにも色々な考え方がありますが、僕たちが開催しているのは動物福祉の観点を取り入れ犬に対する理解を改め深めることを目的にした、ドッグビヘイビアリストの西本一平さんによるドッグトレーニングです。

ドッグビヘイビアリストとは、動物行動学や心理学などの考え方をもとに犬の問題行動を改善し、飼い主と犬が良い関係を築くための助言や訓練をおこなう専門家のことです。

僕たち犬の飼い主にとって、日ごろの暮らしや遊びの場、そして災害時でも、犬との暮らしの根底にはトレーニングが必須です。犬とトレーニングを受ける機会がもっと身近にあってもいいのでは?という想いで、西本さんとの会を開きながらコミュニティーを作っていくことを目指しています。

コミュニティ作りにこだわる、その心は

「ドッグトレーニング」と聞くと、日本では「問題行動があるからトレーニングする」というイメージがまだまだ強いと思います。その裏側には、他人に迷惑をかけたくない、もしくは、どうしようもなくて困っている、だからプロにお願いしようという心理が働いていることが多いようです。しかし、海外では「生後数か月までのはプロにお世話になるのが当たり前」という考え方が主流の国もあります。日本の場合、ドッグトレーニングがそこまでメジャーな存在とは言えませんよね。

飼い主が犬を迎える場面で、信頼できるトレーナーを紹介できるようにするのが理想ではありますが、現実にはまだ難しい状況です。ドッグトレーナーが公的資格ではないので、方法も様々です。中には、犬に対して恐怖心を与えることで抑え込むというやり方も耳にします。「愛犬のため」と言われたら続けてしまうことも無理はないのかと...。

そこで、誰かが案内所になり「困ったらあいつに聞けば良い出会いがある」という状態を作りたいと思って、僕が手を上げました。僕がコミュニティ作りにこだわる理由は、飼い主さんたちそれぞれ生活環境や愛犬との暮らしの目標が違うので、しっかりとした情報を選択できる機会が必要と考えているためです。

自分が教える立場になってしまうと、何らかのスタイルを取ることになってしまいますが、僕の目的は飼い主さんたちの意識を変えることなので、多様性を保つことは非常に重要なんですよ。

犬の防災に関して「思うこと」

docdog 防災

多様な考え方があることを前提に、飼い主さんたちの意識を変えていくことを目指されているということですが、いま現在の飼い主さんたちの防災意識についてはどう思われますか?

犬の飼い主もそうでなくても、意識を変えていく必要

普段からの愛犬との関わり方が大事だと思っています。自分も含め、飼い主だけに関わらず、まだ防災に対する意識や知識がそもそも足りていないのが一番の問題です。どこかで災害が起こってはじめて、自分も気を付けなきゃ!と思うものの、少し時間が経つともう忘れてしまうという方も多いはず。普段からできることは何か?を考えて、愛犬との向き合い方を見つめなおすべきだというのが僕の意見です。

例えばペットサロンの知人から聞く話では、かわいそうだからという理由で愛犬をケージに入れない飼い主さんがいるということですが、万が一避難所生活を余儀なくされた時にいきなり慣れないケージ生活をさせるのは、犬にとって大きなストレスになりえます。また、避難所には「犬は来ちゃダメ」というイメージを持っている方も多いですが、避難が必要な非常事態には一緒に逃げるという心構えをもっと当たり前な社会にしていきたいです。僕が目指しているのは、飼い主さんだけが変わるということではなくて、犬を飼っていない方々の犬や動物に対する意識も一緒に変えていくということです。

多頭飼育の家庭が避難する難しさ

自分たち家族も含め、多頭飼育の家庭は避難に向いていないという課題意識を持っています。例えば、5~6頭を夫婦2名で連れて避難しないといけない状況や、相性の良し悪しが激しい犬がいる家庭などは、避難自体や避難所での生活が困難になる場合が多いです。人に預ける、置いていくという選択が必要になるかもしれません。

理想を言うと、飼育頭数をはじめる前に状況をしっかりと見極める必要があるとは思います。いま現在すでに多頭飼育という場合には、災害時を想定して避難に対するプランを持つこと、そうすれば普段の生活スタイルから考え直すこともできるかもしれません。

ちなみに、わが家では犬を迎える際に「人間1人に対して犬1頭」というルールを決めました。しかし子どもが生まれてからは、僕と妻の大人2名体制で守る対象の子どもと犬2頭と暮らしている現状は、はっきり言ってキャパオーバーです。妻とは、普段の生活の見直しや災害時を具体的にイメージしながら行動パターンを話しています。

犬の頭数だけではなく、犬の年齢が変わる時や環境が変わるタイミングなどにもプランを考え直したいものです。犬も年をとると今まで通りの動きは取れなくなります。もちろん人もそうです。家族をひとつの群れとして考え、常に変化する状況を見ながら想定プランをアップデートしていけると良いですね。

これからの犬の防災を見据えて

docdog 防災

犬の飼い主さんを含む多くの方のあいだで、まだまだ有事の際を見据えた準備は十分と言えない状況ということですが、これからの「犬の防災」を見据えて宅見さんが取り組んでいかれることは何でしょう?

行政と連携しながら町民の防災意識を高めたい

僕たちが暮らす神奈川県愛川町で、行政とタッグを組んでペットの防災意識を向上させる取り組みを本格化していく予定です。ドッグトレーナーの清水さんの言葉をきっかけに、自分で発信をし続けてきた「犬の防災」ですが、実際に避難することになれば行政との連携が不可欠です。

最終的には行政の力で環境を整えていく必要がありますが、その傍ら僕はマナーや考え方を町民の方々と分かち合っていくことで、防災意識の底上げをしたりコミュニティ全体の意識改革をしていきたいと思っています。

ペット連れを「まとめる」避難所づくりも

行政によっては、避難場所の工夫をしているところもあると聞きます。例えば学校が指定避難所となっている場合だと、数階立ての大きな校舎に何部屋も教室がありますよね。部屋や階数ごとに、犬がいても気にならない一般の方と避難できる場所、犬連れNGな場所で分けることによって、犬が苦手な避難者と犬連れの双方にとって過ごしやすい環境になりますし、また獣医師の往診時にはまとまって診察できるといったメリットがあります。避難物資が届いた際なんかでも、犬用の物資を集めやすくて素敵なアイデアですよね。

一方で、行政によっては、学校の校舎や体育館など室内にペットを入れること自体をNGとしているところもあります。ゆくゆくは、そういった体制も変えていけると良いなと思います。

犬とどこに避難してもOKな社会を

僕が目指しているのは、避難が必要な非常事態発生時に犬とどこに避難してもいい環境ができあがることです。しかし、乗り越えなきゃいけない壁は高いし多い。とくに、住民の意識が「ペットの防災」にまで向かない点において、田舎に行けば行くほど厳しい現状があると思います。

とは言っても、都市部は都市部で隣人同士のコミュニケーションが取りづらい環境ですよね。有事のときに互いに手を取り合えるように、日ごろから少しでも信頼できる人間関係を作っておけると安心です。

ゴールは「多様性の中の共生」

docdog 防災

最後に、宅見さんが目指す「犬の防災」の理想の姿を教えてください。

多様な考え方がある状況とどう対峙するか

僕が愛犬ペコと一緒に山に入るようになって、感じるようになった難しさがあります。山への思い入れが強い登山者さんが多くいらっしゃるので、犬を連れて山に入ることに対する意見を推し量れないままに近距離で接することになります。多様な意見を持つ方と接する難しさを解消する方法は、コミュニケーションを取ること以外にありません。

例えば山で人とすれ違う時、より視野が広いことから下る人が登る人を待つというルールがあります。ある時、ペコとリリーの2頭を連れて僕が下る立場だった時、登ってくる人を待っていると、下から「犬が苦手なのでお先にどうぞ」と声をかけられました。僕としては、2頭を誘導しながらすれ違うよりも、広い場所で留まって登ってもらうほうが安全で最良策だと思ったので、「ここで大人しく待つのでお先に」と返しそのようにしてもらうことができました。お互い「犬が苦手」「ここで待ちますよ」と言葉を交わすことができることが重要だと実感した出来事です。

悲しい対立を生み出さないために

山登りの場合は、当事者同士がコミュニケーションを取ること以外にも、コースを管理する県などが犬連れと一般の登山者に対してそれぞれ、犬が入れる山だということを掲示し周知することができますね。あらかじめ周知することができれば、「この山には犬連れの方もいるんだな」「犬連れが登ってもいいんだな」とお互いが認識でき、両者にとっての安心安全に繋がる秘訣だと思っています。何よりも、登ることのできる山を守ることが一番大切なので、犬連れの方もそうでない方も率先して保全活動に参加してほしいです。

有事の際でもこれは同じ。前もって全員が認識を持っておくこと、そして行政が環境づくりを、住民それぞれが必要な備えをしておくことで、ペットを連れている人もそうでない人も安心して対応することができるのではないでしょうか。

いつ始めても遅くない災害対策

9月の防災月間、ドックドッグでは「犬の防災」に関する情報を毎日配信してきました。
実際に災害を愛犬と経験した飼い主さんの体験談や、各行政等によるペット防災の状況、そして防災意識の向上に取り組む方のリアルなインタビューまで、少しでも多くの方の目に触れて愛犬との防災を考えるキッカケになればという想いで、30日間の配信を本日まで続けてきました。

しかし!防災は9月のあいだだけ意識すればよいというものではありません。いつどのような震災が発生するか分からないからこそ、これを機に10月以降になっても愛犬との災害対策を考え続けていただきたいと願っています。今月配信した30本の防災に関する記事は、すべて以下のページにアーカイブしてあるので是非チェックして参考にしてみてくださいね!

  • 更新日:

    2021.09.30

いいなと思ったらシェア
ライター・専門家プロフィール
  • 中野 由美子
  • docdog プロデューサー 兼 日本犬担当編集者
  • 幼少期に出会った犬種図鑑をきっかけに「犬と人間の共存」に興味を持つ。化粧品会社に就職後「本当の美しさとは何か」を考える中で、「異なる種類のいきものが共存する姿」がいきものの美しさの根源だと考えるように。現在はdocdogで活動しながら、ながく歴史を分かつ犬と人間の双方にとって幸せな共存の在り方を模索中です。