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2頭の柴犬
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2021.07.18

アマチュア小説ライターが綴る、犬と暮らした日々のこと【第3部】|vol.3

豆しば暮らし|巣立ち・後編

ゴマの女の子を引き取りたいという、パパの友人の友人の友人の奥さん。
それは、アレルギー持ちの娘さんが、制限の多い生活の中で失われがちな子供らしさを、犬と暮らすことで取り戻せたらという理由からでした。

#柴犬 / #豆しば暮らし

笠井 ゆき/ライター、葬儀司会者

この記事は、アマチュア小説家が「犬と暮らした日々のこと」をもとに綴る創作物語【第3部】の連載第3話です。

楽しいことばかりじゃない

「娘さん、ハウスダストのアレルギーもお持ちだとおっしゃってましたね。この子、換毛期には大量の毛が抜けると思います。それって、かなり危険なことじゃないですか?」

奥さんはうつむいていました。

「犬と暮らすことは、本当に楽しく幸せなことです。学ぶこともとても多い。でも、それだけじゃないんです。苦労することだって、たくさんあります。娘さんの場合、命に関わることもあるかもしれないですよね?」

「はい…」

「そうなった時、やっぱりダメでした、もうどうでもいいですって、それは絶対に通用しませんよ」

そう言いながら、もっと別な言葉があるだろうにとママは自分を責めました。
ですが、メロンの子供の未来を思えば、きつい言い方しかできなかったのです。

命の重さは…

「決して、娘のストレス解消のためではありません」

顔を上げた奥さんが、真剣な表情でママを見つめました。

「おっしゃる通り、甘く考えていたところもありました。それは謝ります。ですが、家族の一員として迎える以上、どんなことがあっても投げ出したりはしません。命の重さは、人間も犬も同じ。その覚悟はできているつもりです」

「娘さんと同じだけの愛情を、この子に注げますか?」

「それができなければ、引き取りたいなんて言いません!」

この人なら信頼できる。
そう思ったママは、深々と頭を下げました。

「この子を、どうぞよろしくお願いします!」

ハルカを嫁に出すときも、こんな感じなんだろうな…。
そんなことを思いながら。

巣立ちの日

芝生に座る柴犬

子供たちを手渡す日。

「メロンの子供たちを通じて、我々はファミリーになるんですからね!」

パパの先輩が、その場を仕切っていました。

連絡先を交換したり、写真を撮ったり。
ワイワイと賑やかに過ごしています。

ママは、ここ数日のメロンの様子を思い出していました。

相変わらずおっぱいをあげようとせず、子供たちには冷たい態度。
じゃれつこうとすると、歯を剥いて唸り声をあげます。
それでも近寄って来る子には、吠えることすらありました。

「メロン、子供たちとお別れだよ。最後に優しくしてあげて」

ですがメロンは、頑として、子供たちとの距離を保っています。

「それじゃあ、時々写真を送ります。ありがとうございました!」

新しい家族に迎えられ、巣立ってゆく子供たち。
いつの日も、幸せでありますように。

「さ、おうちに入ろうか、メロン」

しかし、メロンは動きませんでした。
子供たちを乗せた車が見えなくなっても、ずっと前を見つめています。

「人間の物差しで犬の愛情の深さを計ることなんて、できないのかもしれない」

ハルカちゃんを抱っこしたパパが、ぽつりと言いました。

  • 更新日:

    2021.07.18

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ライター・専門家プロフィール
  • 笠井 ゆき
  • ライター、葬儀司会者
  • 年中無休の犬好き、犬バカです。只今、自宅警備員まめお(パピヨン)と同棲中!犬を愛する喜びを、皆さまと分かち合ってゆけたら幸せです。どうぞよろしくお願いいたします。