ダメを教えようとするパパとママに、反抗心を募らせるメロン。
強く手を噛まれたパパが思わず手を振り払い、その勢いでふっ飛ばされてしまったことをきっかけに、隠れ家の奥深くにこもり、心を閉ざしてしまいました。
この記事は、アマチュア小説家が「犬と暮らした日々のこと」をもとに綴る創作物語の連載第19話です。
「メロン、ごめんね…」
パパは繰り返し言いましたが、メロンは出てきません。
メロンに噛まれた傷は深く、痛みも激しく、パパは指を動かすことができなくなっていました。
「ちょっと様子を見て、それでも動かなかったら病院に行こう」
傷の手当てをしながら、ママが言いました。
「うん…。一時的なものだと思うけどね」
パパは、痛みに顔をしかめます。
「それよりメロン…。大丈夫かな?」
「そうね…」
ママは思い出していました。
多感だった中学生の頃のことを。
親の顔を見るだけでイライラして、乱暴な口のきき方をして。
「女の子なんだから」「お姉ちゃんなんだから」と言われ、ああしなさいこうしなさいと言われる度に、何もかも壊してしまいたくなって。
家にいると息が詰まるほど窮屈で、そのくせ、誰も何もわかってくれないと孤独で。
「ねぇメロン…。私のことは放っておいてって思ってる?」
隠れ家の奥、手の届かないところにいるメロンに向かって、ママはゆっくりと話しかけました。
「あれもダメ、これもダメ。ああしなさい、こうしなさい。見えない鎖で、がんじがらめにされてるみたいだよね」
メロンにというより、あの頃の自分に話しかけていたのかもしれません。
「ママだって、本音を言えば、もうメロンに噛まれるのはイヤ。だったら、掟なんていらない、何でも好きなことを好きな時にしていいんだよって言えばいいのにって思うでしょ? だけどね、そんなことを言えるのは、あなたのことなんかちっとも気にかけていない人だけ」
「メロン、私たちはあなたを愛してる。この命に代えてもあなたを守る。だから、放ってなんておかないよ!」
ママの言葉を理解するなど、メロンにできるはずがありません。
それでも、ママは話し続けます。
やがて、隠れ家の奥からメロンが現れました。
「出てきてくれたんだね」
ママの声に答えるように、メロンはママの膝の上に飛び乗ります。
そして、ころんと仰向けに。
言葉は分からなくとも、ママの想いはメロンに届いたのです。
ママは、メロンのお腹をそっとなでました。
体に触れられることを好まないメロンが、嫌がりもせず目を閉じています。
「ありがとう、メロン」
そして、体を屈めて、メロンの小さな額にキスをしました。
「メロン、ごめんな。もう指を動かせるようになったから、大丈夫だからね」
パパが、ママの隣に座って言います。
メロンはゆっくりと体を起こすと、パパの膝の上に乗り、同じように仰向けになりました。
外は夕暮れ。
茜色の優しい光が、窓から部屋に差し込んでいます。
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