全部のワクチンが終わっていないメロンは、まだお散歩に行くことができません。
この記事は、アマチュア小説家が「犬と暮らした日々のこと」をもとに綴る創作物語の連載第15話です。
窓の外には、真っ青な空が広がっていました。少しだけ窓を開けると、気持ちのいい風が部屋に入って来ます。
「あーあ、絶好のお散歩日和なのにねぇ」
ママが残念そうに言いました。
「ワクチンが終わるまでは、我慢しなきゃいけないよ」
パパが釘を刺します。
「ちょっとだけなら大丈夫、とか、そういうのナシだからね!」
「わかってるよー。だけどさ、こんなにいい天気なんだから、お日様に当ててあげたいじゃない。風もいい感じだし…」
そう言うとママは、空を見上げて考え事をしていました。
パパには、何か企んでいるようにしか見えません。
お散歩はダメだよと繰り返し言って、パパは仕事に行きました。
今日、ママは仕事が入っておらず、朝からずっとメロンと一緒です。
また新しく考えついた遊びを試してみたいし、一緒にお昼寝もしたいし…。
やりたいことはたくさんあるのですが、それでも外への未練は残ります。
「そうだ! お散歩はダメなんだから、歩かなければいいんだよ!」
ママはパタパタと走ると、クローゼットの扉を開けました。
中から取り出したのは、小さなリュック。
それを、お腹側にかけて、リュックの位置を調節します。
その様子を、メロンは首をかしげて見ていました。
「メロン、気になるんでしょ? この中にタオルを敷いて、その上にトイレシートを敷いてね…」
それからメロンを抱き上げると、リュックの中にスポン。
「ほら、丁度いい!」
お座りをしたメロンが、リュックから顔を出していました。
「これで、お外の空気を吸いに行こう!」
リュックの中のメロンを揺らさないよう手を添えて、ママはゆっくりと歩きました。
メロンは、眩しそうに空を眺め、そよそよと吹いてくる優しい風を感じながら景色を眺め。
「もう少ししたら、お散歩ができるようになるからね。それまでは、これで我慢してね」
ママがメロンを外に連れ出したいと思ったのは、天気のよさだけではありませんでした。
柴犬は飼い主には忠実だけど、他人には塩対応。
そこに魅力を感じる人も多いのかもしれませんが、ママはメロンに、人が大好きで人懐っこくて、誰からも愛される子になってほしいと思っていたのです。
「あらぁ、かわいいこと!」
向こうから歩いてきたおばあさんが、声をかけてくれました。
「まだお散歩ができないので、せめて外の空気を吸わせてあげようと思って」
「今日はいいお天気だものね。おチビちゃん、よかったわねぇ」
ただでさえかわいい子犬が、リュックからちょこんと顔を出しているのです。素通りできる人など、いるはずがありません。
次から次へと温かい言葉をかけられ、笑顔を向けられ。
メロンも、とても嬉しそうでした。
「明日もこうやって、お外に行こう。いろんな人とお話ししようね」
メロンはママの顔を見上げると、パチンとウィンクを返しました。
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