倒れてから、どのくらい時間が経ったのでしょう。
意識が戻ったママは、うっすらと目を開けました。
この記事は、アマチュア小説家が「犬と暮らした日々のこと」をもとに綴る創作物語の連載第14話です。
お座りをしたメロンが、険しい顔をしてママをじっと見つめてます。
「遊ばなかったから怒っているのかな?」
そう思えるほどの、厳しいオーラを放っていました。
「違う違う、真剣に心配してくれているんだ」
理解できたママは、ゆっくりと体を起こしました。メロンの顔が、ぱあっと輝きます。
「本当に、表情の豊かな子だねぇ」
ママが笑うと、メロンはママに飛びついて顔をなめ始めました。
体に触れられることが好きではないメロンですが、今はそんなことはどうでもいいご様子。
ママに抱っこされて撫で回されても、嫌な顔をせずに、ママにくっついていました。
よく見ると、目には涙が浮かんでいます。
「あれ? メロン、泣いちゃったの?」
ママの声に、メロンの瞳から涙が一粒、ポロリとこぼれ落ちました。
腰を抜かすほど驚いて、意識を失ったママを心配して。どんなにか怖かったことだろう。
やっとママが目を覚ました時は、嬉しくて嬉しくて…。
メロンの気持ちを思うと、ママも涙がこぼれました。
メロンをぎゅっと抱きしめようとしたその時、ママは気がつきました。
自分を取り囲むようにして、メロンのおもちゃが並べられています。
「魔法陣?」
咄嗟にそんな言葉が思い浮かぶほど、異様な光景に思えました。
まるで、何かの儀式のよう…。
「誰がこれを…って、メロンしかいないよね。これ、全部メロンが運んできたの?」
メロンのおもちゃは、まとめてカゴに入れてあります。
そこから一つくわえてママの側まで運び、床に置き。またカゴまで戻って、同じことを繰り返し。
そこにどんな思いがあったのか。ママは考えてみました。
パパとママが仕事から帰って来たら遊ぶことが、メロンには習慣になっています。
だから、早く遊ぼうと催促するために、おもちゃを並べたのかもしれません。
でも、それにしては、とても心配そうだったメロン。
「祈る代わりだったのかな?」
ママの無事を祈り、回復を祈り。
一つ一つ並べていったのだろうか。
「メロンの大切なおもちゃを全部あげるから、ママを元気にしてくださいって神様にお祈りしてくれたの?」
もし私がメロンだったら、きっとそうする。
ママは思いました。
「それとも、大好きって言葉の代わりかな?」
あなたが大好き。
その気持ちを伝える言葉を持たないメロンは、おもちゃを並べて差し出すことで、表そうとしたのかな。
「本当のところはよくわからないけど、メロンの思いやりなんだよね。ありがとう、ママもメロンが大好きだよ!」
その言葉に、メロンの目がきゅうっと細くなり、まるで笑ったかのようでした。
「メロン、笑った?! 犬って、腰を抜かしたり泣いたりするだけじゃなく、笑うこともできるの?!」
メロンから元気をもらったママ、あれほど激しかった腹痛も、すっかりどこかへ飛んで行ってしまいました。
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