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犬種図鑑
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2021.01.16

犬のコリーはルーツが奥深い!「黒い顔の犬」の異名を持つスコットランド原産の犬

皆さんは、コリーと聞くとどんな犬を思い浮かべますか?多くの方が思い浮かべるのは、ストレートの長毛が美しいラフコリー、白黒の被毛でフリスビーなどで活躍しているボーダーコリーまたは、ラフコリーを小型にしたようなシェットランドシープドッグではないでしょうか?

日本では、コリー種としてひとくくりに認識されることが多くありますが、実はイギリスでは、コリーとはラフコリーを指しています。残念ながら、現在のラフコリーという犬種が誕生する過程で、本来のコリーの姿が失われつつあることも事実です。今回は、そんなコリーとはどんな犬種なのか2回にわたってご紹介します。

西村 百合子/ホリスティックケア・カウンセラー、愛玩動物救命士

ラフコリーはスコットランド原産の牧羊犬

コリー 犬

現在コリーと犬種に名がつく犬は、数種類登録されていますが、その全てが同じ犬種を祖先犬としていたわけではありません。ここでは本来のコリーつまり現在のラフコリーのルーツを紐解いていきます。

イギリスの牧羊犬の歴史

コリーのルーツは、はっきりとわかっていません。イギリス(イングランド)の牧羊の歴史は古く、中世から最も重要な産業でした。特に、スコットランドやイギリス北部、北西部のウエールズでは、12世紀頃から牧羊が盛んに行われていました。これらの羊は、すべて異なる品種で世話をするために必要な犬も、それぞれの地域に見合ったものが採用されていたとされています。

当時のウエールズでは、野生の羊を追い込めるだけの足の速さを持った犬が好んで使われていました。スコットランドでは、高地で羊を飼育していたため、足の速さよりも協調性のある犬が羊飼いに好まれていた傾向があります。

コリーの意味

現在では、犬種名として一般的に知られているコリーという呼び方ですが、犬種名としてコリーという名称が使われるようになった経緯にはさまざまな説があります。18世紀、スコットランドの高地で飼育されていた羊は、顔と足が黒かったことからアングロ・サクソンの言葉で黒を意味するコリーと呼ばれ、黒い羊を守る犬=コリードッグと呼ばれていたという説が最も有効な説として語り継がれています。

ハイランドスコッチコリーというスコットランドの在来種

コリー 犬

スコットランドは、その歴史の中で複雑な政治の影響を受けてきました。そして、高地(ハイランド)には多くの移民によってさまざまな犬が持ち込まれました。それらの犬は、現在では一般的な犬種となっているコリー、ゴールデンレトリバー、ゴードンセッター、スコティッシュディアハウンドなどの祖先犬と言われています。

そして犬たちは、狩猟犬や牧羊犬として高地に住む人々と共に暮らしていました。中でも、コリーは牧羊犬としてだけではなく多目的農場犬として、ケルト人に大切にされていたのです。この犬がのちにハイランドスコッチコリーまたはオールドスコッチコリーと呼ばれるようになっています。

ハイランドスコッチコリーの特徴

ハイランドスコッチコリーのスケッチが残っている古い文献を見ると、色は黒で、カールした尻尾、半立ちの耳、首、足元、尻尾の先、頭頂部に白いマーキングがある現在のラフコリーに似ている外観であることがわかります。性格は、従順で穏やか、飼い主に忠実で仕事が大好きな人間の利益のために才能を発揮する愛情に満ちている犬であると記されています。

シェパードとコリーの違いとは

コリーの歴史を紐解く上で、知っておきたいことがシェパードとコリーの違いです。1700年代、イギリスの牧場や農場ではファームシェパード、ファームコリーという2種類の犬が飼育されていました。現在では、犬種名として使用されているシェパードですが、本来は牧畜犬の意味がある言葉です。

また、ファームコリーは前述の通り、農場の黒い羊という意味があります。このことから、コリーの祖先犬はシェパードであるという記述もありますが、どちらも、マスチフを改良して作出された犬であるという説が有力です。今でこそ全く異なる性質を持つ犬種名となっているこの2種類の犬ですが、当時のイギリスでは牧場や農場で働く使役犬として大切にされていたのです。

どちらもファームで働く使役犬だったファームシェパードとファームコリーの決定的な違いは、その攻撃性にあります。シェパードは侵入者に対し、果敢に撃退を試みる犬、一方コリーは攻撃性はなく、羊を安全な場所へ誘導する性質でした。

スコッチコリーからラフコリーへ

コリー 犬

人間が飼育しやすく、優しい性質のコリーへと改良が重ねられてきたハイランドスコッチコリーは、やがてスコットランドの在来種のスコッチコリーとして、高地以外に暮らす人々に認知されるようになります。しかし、スコッチコリーが現在のラフコリーとして犬種登録されたのには、「犬の国」イギリスらしい複雑な事情があるようです。

絶滅の危機に瀕したスコッチコリー

1863年、イギリスのバーミンガムで行われたドッグショーに初めてスコッチコリーが出陳されました。そして、犬好きで当時のファッションリーダーでもあったビクトリア女王によって、スコッチコリーはイギリス全土から一躍脚光をあびることになったのです。1800年台後半、イギリスで最も人気のある犬がスコッチコリーだったのでした。

ドッグショーが変えた運命

ドッグショーで最初にチャンピオン犬となったスコッチコリーは、当時一般的だった黒い毛色ではなく、現在のラフコリーと同じセーブルに白のマーキングの犬でした。このセーブルのスコッチコリーがイギリスだけではなく、ヨーロッパの各地で人気となったのです。やがて、農場で働くスコッチコリーの中からセーブルの犬だけが集められ、ショーを目的とした繁殖が始まりました。

純血種の誕生

セーブルとホワイトのスコッチコリーだった初代のチャンピオン犬と同じルックスの犬をより多く生み出すために、さまざまな交配が行われました。そして、スコッチコリーとは別に純血種としてのコリーが新たに作られました。1873年、ドッグショーに出すための繁殖基準を確立し、犬を登録するための犬種クラブが設立されました。

激減したスコッチコリー

ショードッグとしてコリーが注目を集めたことから、農場で働くスコッチコリーはその数を減らしつつありました。やがて、農場で働く犬はオーストラリアンシェパードやイングリッシュシェパードが主となり、スコッチコリーをファームドッグとして繁殖する農場は激減してしまったのです。

そして、スコッチコリーの個体数は激減、絶滅の危機に瀕したのです。1892年、本来のファームコリーとしての能力を持ったスコッチコリーを復元し保存するために、オールドタイムスコッチコリー協会が設立され、種の保存を行っています。

歴史の中で変化したコリー

コリー 犬

ショードッグとして一躍注目を浴びたスコッチコリーですが、より美しく、さらに優雅な外見を持つショーコリーを誕生させるために育種プログラムが作られました。この育種プログラムでは、頭部の改良が大きな課題でした。

「適度な長さでラフコリーのように長すぎず、適度で明確なストップがあり、適度にフラットで幅広のスカル」が特徴のスコッチコリーは、くさび型の小さな頭部、細長いマズルのラフコリーへと改良が重ねられました。

ショードッグとして活躍するラフコリー

現在、一般的にコリーとして認識されているのは、ショーコリーとも呼ばれているラフコリーです。ショードッグとしての美しさを追求して育種されたラフコリーは、農場で働いていた本来のコリーの姿や性質は持っていません。AKCでは牧畜グループに分類されていますが、スコッチコリーとラフコリーは全く異なる品種と言っても過言ではありません。

ラフコリーとスムースコリー

コリー 犬

豊かな長毛がエレガントなラフコリーに対して、短毛でアクティブなイメージを持つスムースコリー。ラフコリーが高地で働くハイランドスコッチコリーから作出されたのに対し、スムースコリーは低地で温暖な地域で働く牛追いを主な仕事とするファームコリーから作出されました。ビクトリア女王は、ラフコリー、スムースコリーの両方を所有していたコリーの熱烈なファンだったとされています。

改良されたスムースコリー

ファームコリーから誕生したラフコリーとスムースコリーですが、初期のスムースコリーはラフコリーのエレガントな外観とは比べ物にならない朴訥とした外観。ラフコリーがドッグショーで人気の犬種となると、ラフコリーの外観に少しでも近づけたいブリーダーによって、ラフコリーとスムースコリーの交配が頻繁に行われていました。そのため、この2犬種は被毛以外に多くの類似点を持っています。

希少品種のスムースコリー

1994年、UKCの規制により、ラフコリーとスムースコリーの交配が禁じられ、現在では別々の犬種としてイギリスでは扱われています。スムースコリーは、原産国のイギリスで登録数が減少していることから、保護活動を行う動きが出ています。

コリーの歴史は現代の犬の歴史の縮図

コリー 犬

コリーの歴史は、まだまだ解明されていないことが多く、また研究者によって意見も異なります。もともとは、スコットランドにいた牧羊犬が、羊飼いによって改良を重ねられ、現在のラフコリーの祖先犬となったと考えるのが妥当だと思います。コリーに遺伝疾患が多いのも、環境や使役に合わせた改良からブリーダーが求める外観まで、数えきれないほどの改良が重ねられた結果だと言えるのかもしれません。

現在、人気犬種の多くは、本来の使役よりも外観や性格を重視した育種が重ねられています。本来の犬種それぞれが持つ能力や外観は、現代には受け継がれていないのかもしれませんね。

  • 更新日:

    2021.01.16

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ライター・専門家プロフィール
  • 西村 百合子
  • ホリスティックケアカウンセラー、愛玩動物救命士
  • ゴールデンレトリバーと暮らして20年以上。今は3代目ディロンと海・湖でSUP、ウインドサーフィンを楽しむ日々を過ごす。初代の愛犬が心臓病を患ったことをきっかけに、ホリスティックケア・カウンセラーの資格を取得。 現在、愛犬のためにハーブ療法・東洋医学などを学んでおり、2014年よりその知識を広めるべく執筆活動を開始。記事を書く上で大切にしていることは常に犬目線を主軸を置き、「正しい」だけでなく「犬オーナーが納得して使える」知識を届ける、ということ。