この記事は、アマチュア小説家が「犬と暮らした日々のこと」をもとに綴る創作物語の連載第9話です。
「豆しばってことは、メロンはずっと小さくて可愛いままだね。やったー!」
運転をしながら、とても嬉しそうにパパが言います。口笛まで吹き始めました。
ですがママは、何だかスッキリしない様子。
「そうだね…」
膝の上のメロンを、優しく撫でていました。
メロンと出会い、家族になれたこと。
それは、神様からの贈り物だとママは思っています。
ですが、同時に、その背景にはビジネスが存在し、様々な思惑が存在する現実も理解していました。
”柴犬”として適正な価格で販売されていたメロンは、偶然小さく生まれついただけなのかもしれません。
ですが、本当は”豆しば”として生み出されたのに、何かの手違いで”柴犬”として扱われてしまっていたのだとしたら…。
「先生は、小さい両親から小さい子が生まれるって言ってたけどね。とても人気があって、驚きのお値段だとも言ってたでしょ?」
「うん、3倍くらいだってね」
「そこに人間の手が加わってないって、言い切れるのかな?」
メロンの体温が、ママのスカート越しに伝わってきます。
もしかしたら、この子は…。
「もしそうだとしたら、いつかその代償を払う時が来るのかもしれない」
「代償って?」
「人の手が加わったのだとしたら、メロンの体や心に何かしらの異変が見られることがあるかもしれないってこと。それは、難しい病気かもしれない。一緒に暮らすことが不可能なほどの問題行動かもしれない」
パパは、黙って聞いていました。
「何もないとは思ってるよ。だけど、万が一何かあったとしたら…。そんなことは聞いていないで済む話じゃないよね」
メロンは、じっとママの顔を見つめています。
アーモンドの形をした、澄んだ瞳。この眼に映るすべてのものが、優しく温かいものでありますように。
ママは、祈るような気持ちで、言葉を続けました。
「どんなことがあっても、メロンの一生に寄り添う。メロンの幸せを守る。先生の話は、その覚悟を問うものだと、私は思ってる」
「それは考えすぎ!」
パパは、笑って言いました。
「大丈夫、メロンは、小さくても健康優良児だよ!」
その明るさは、ママの救いになるはずでした。
…それに続く一言さえなければ。
「それかさ、そんなに深刻になるくらいなら、豆しばメロンを販売して、その利益で優雅に旅行でもする?」
もちろんパパだって、本気でそんなことを思ってなんかいません。冗談でママを笑わせようとしただけです。
だけだったのですが…。
「……は?今、何て…?」
車内に響く重低音。パパは見事に、虎の尾を踏んでしまいました。
「い、いや、冗談冗談!ほんのジョークだってば…」
「そんなのダメに決まってるでしょ!」
本気で怒りに燃えるママ。
絶体絶命のピンチを迎えたパパ。
緊迫した空気に包まれる車内。
一体全体、どうなってしまうのでしょうか。