magazine

勢籏剛
健康管理 / 病気

2021.01.23

犬猫の感染症が専門!獣医学博士による飼い主のためのブログ|vol.7

犬のコロナウイルスと新型コロナウイルスはどんな関係?ワクチン専門家が解説

愛犬家のみなさまの中には、犬の混合ワクチン(6種、8種)にコロナウイルス感染症のワクチンが含まれていることをご存知の方もおられるかと思います。新型コロナウイルスの感染が拡大した昨年から、「犬にもコロナウイルスのワクチンがあるけど、新型コロナウイルスの予防にも効果があるの?」という質問をいただくようになりました。
しかし実は、このワクチンに含まれているコロナウイルスは、新型コロナウイルスとは全く異なるウイルスです。その関係性をみていきましょう。

#勢籏剛 / #専門家コラム / #犬猫のワクチン研究者

Author :勢籏 剛/獣医師、獣医学博士、動物予防医療普及協会 学術顧問

同じ「コロナウイルス」でも種類は違う

勢籏剛

新型コロナウイルスと犬のコロナウイルスは、同じコロナウイルスであることには変わりはないのですが、全く異なるウイルスです。ややこしいですよね。
まずは、ウイルスの種類の分け方からみていきましょう。

コロナウイルス“グループ”に所属

コロナウイルスという名前は、ウイルスの形が王冠に似ていることから、ギリシャ語で王冠の意味である「コロナ」からきています。正しくは、コロナウイルス“グループ”を指す名前で、その王冠の形をもつグループは「コロナウイルス科」と呼ばれます。コロナウイルス科の中には様々な名前のコロナウイルスがあり、いくつかのグループに分かれています。
そのため、同じ「コロナウイルス」という名前がついていても、違うグループのものもあるのです。

生物には分類がある

勢籏剛

ここで、ウイルスのグループ分けについて理解してもらうために、まず最初に生物の分類方法についてご説明します。

生物の分類「界・門・綱・目・科・属・種」について

みなさま、生物の授業で習った分類方法について覚えておりますでしょうか。
「界・門・綱・目・科・属・種」という分類に分かれ、なんだか呪文のように唱えていたものです。左にいくほどグループの枠組みが大きくなっていきます。

私たち人間と犬猫を生物学的に分類してみると

勢籏剛

私たち人間と犬や猫は「綱」までは哺乳綱で同じグループですが、それ以降は違うグループに分かれていきます。さらに犬と猫は「目」までは食肉目で同じグループですが、それ以降は違うグループになります。分かれるグループが下のほうに進めば進むほど、似ている度合いが強くなってきます。

ウイルスにも分類がある

勢籏剛

ウイルスも、同じような分類が当てはまります。(※科より上は省略)

新型コロナウイルスの場合

  • 科:コロナウイルス科
  • 属:ベータコロナウイルス属
  • 種:新型コロナウイルス

犬のコロナウイルスの場合

  • 科:コロナウイルス科
  • 属:アルファコロナウイルス属
  • 種:犬コロナウイルス

コロナウイルス科には4つの「属」が存在

コロナウイルス科の中には、実は4つのアルファ、ベータ、ガンマ、デルタというグループの「属」があります。
犬のワクチンに含まれている犬コロナウイルスは、“アルファ”コロナウイルス属に分類され、一方で新型コロナウイルスは“ベータ”コロナウイルス属に分類されることから、「属」の段階で異なるウイルスになります。

「属」が違うと、ヒトとゴリラぐらい違う

勢籏剛

では、「属」が違うとどれぐらい違うか、人間の場合において考えてみましょう。
人間はヒト科ヒト属の生物ですが、ヒト科の中には他に何属があるのでしょうか。

ヒト科には4つの属が存在

ヒト科の「属」を分類すると、ヒト属、チンパンジー属、ゴリラ属、オランウータン属の4つのグループに分かれます。「科」のレベルでは一緒でも、「属」が違うと全く別の動物になってしまうことがイメージできたでしょうか?

コロナウイルス科でも同じことが言える

つまり、「属」の違う新型コロナウイルスと、犬のワクチンの犬コロナウイルスは、ヒトとゴリラぐらい性質が違うウイルスになってしまうのです。

そのため、犬のワクチンを犬に注射しても、新型コロナウイルスには効果を示さないこと、お分かりいただけたでしょうか?

ワクチンで予防できるウイルスは『鍵と鍵穴』の関係

勢籏剛

犬のコロナウイルスのワクチンによって作られる免疫は、新型コロナウイルスには効果を示しません。

もう少し詳しく説明すると、ウイルスに対する免疫は『鍵と鍵穴』のように1種類のウイルスに対して1種類の免疫の反応というように、非常に厳密な働きをします。すがたカタチが違うウイルスの種類には効果がないのです。

同じ属の中のウイルスであれば、すがたカタチが似ている度合いも強くなり、違うウイルスの種類でも、ワクチンが効く場合があります。これは専門的な言葉でワクチンの『交差防御』と呼ばれるものです。これについては違う機会にでもお話ししたいと思います。

新型コロナウイルスについては信頼できる情報をもとに

勢籏剛

新型コロナウイルスについての情報は次々と入ってきて、整理されないまま飼い主のみなさまに伝わってしまうことが多いです。

犬のワクチンにもコロナウイルスが入っていて、あれ?と思われた方もいらっしゃるかもしれません。しかし名前は同じコロナでも、全く違うウイルスです。間違って理解されないよう、この記事をきっかけに新型コロナウイルスと犬のコロナウイルスのワクチンについてぜひ正しい知識を身につけてください。

また、新型コロナウイルスは犬に感染することが報告されましたが、2021年1月現時点においてその例数は非常に少なく、犬から人に感染する可能性は限りなく低いと考えられています。新型コロナウイルスと犬に関する情報は、下記に示した信頼できる情報だけを信じて、過剰に反応することなく正しく行動しましょう!

この記事もチェック!
参考文献
  • 『感染症科診療パーフェクトガイド 犬・猫・エキゾチック動物』監修:長谷川篤彦、発行:学窓社
  • Tizard IR. Vaccination against coronaviruses in domestic animals. Vaccine. 2020;38(33):5123-5130
  • Haake C, Cook S, Pusterla N, Murphy B. Coronavirus Infections in Companion Animals: Virology, Epidemiology, Clinical and Pathologic Features. Viruses. 2020;12(9):1023.
  • 更新日:

    2021.01.23

この記事をシェアする
ライター・専門家プロフィール
  • 勢籏 剛
  • 獣医師、獣医学博士、動物予防医療普及協会 学術顧問
  • 専門分野は犬猫の感染症、免疫、ワクチン。酪農学園大学獣医学部卒業後、動物用ワクチンメーカーの研究者として主に犬のワクチンの研究開発に12年間携わる。犬の感染症の研究で博士(獣医学)を取得。現在は民間企業で獣医師として働く傍ら、犬猫の感染症について確かな情報を提供するために、最新情報の収集に努めています。