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犬を迎える

2020.12.23

日本のペット産業について考える

日本のペット産業に潜む闇?子犬が生まれてから飼われるまで

犬の飼育頭数は減少している一方で、2019年度のペット関連市場は1兆5700億円を超える巨大市場と拡大傾向にあります。犬に対する意識も環境も向上しましたが、まだまだ発展途上なことも事実。犬が飼い主の元に届くまでには、各段階ごとに深刻な闇が存在します。
今回は、最初の段階である繁殖業が抱える問題点にスポットを当てます。

西村 百合子/ホリスティックケア・カウンセラー、愛玩動物救命士

犬の【繁殖業】にまつわるペット産業の闇

ペット産業

最近では保護犬譲渡なども盛んになりはじめましたが、日本で最も多いのはブリーダーと呼ばれる繁殖業者の元で生まれた子犬です。

子犬はせりやオークションを経てペットショップに流通し、店頭に陳列・生体販売され、最終的に購入者である飼い主の元に届くという仕組みになっています。

また、ペットショップを介せずにブリーダーから直接入手するケースもあります。

海外のブリーダーと日本のブリーダーの違い

欧米の動物愛護先進国と比べると、日本はまだまだ発展途上の段階で、深い闇が存在します。

先進国でのブリーダーは、専門性の高い職業として資格や許認可が必要で、社会的地位も高く、違反時の重い罰則など法的整備も進んでいます。

一方、日本のブリーダーは【届出制】のため、比較的簡単に誰でもブリーダーを名乗ることが可能です。

日本にも質の高いブリーダーは存在しますが、中にはモノ売りビジネスと同じ意識で安易にブリーダーを始めてしまうケースもあるのが実情です。

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パピーミル問題

日本のブリーダーにまつわる暗い話題の中でも、代表的なのが【パピーミル問題】です。

パピーミルとは、その言葉どおり「パピー(子犬)」の「ミル(繁殖工場)」の意味で、複数の犬種を1ヶ所に集め、まるで工場で物品を大量生産するように子犬を次々と繁殖させることを指します。

パピーミルでは、犬をケージの中で軟禁状態にし、自らの利益のために動物が持っている5つの自由を奪っていることから、ペット産業の大きな闇として問題となっています。

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動物の“5つの自由”とは

動物の5つの自由とは、動物の福祉に早くから取り組んできたイギリスで1960年代に定められた基本方針です。

現在の家畜動物の国際的な福祉基準として浸透しており、FAO(食糧農業機関)やWHO(世界保健機関)の委員会でも、この基準に沿ったガイドラインが採択されています。

動物の“5つの自由”は、犬の幸せとストレスに関しても当てはまります。具体的には以下の5つです。

飢えと渇きからの自由

食べ物と飲み水は常に必要量が供給されていること

不快からの自由

休むまもなく妊娠と出産を繰り返すなどの無理強いをしないこと

痛み・怪我・病気からの自由

皮膚病や骨折などがあった状態で放置されないこと

恐怖や苦悩からの自由

1日中ケージの中に軟禁されないこと

正常な行動を表出する自由

遊んだり散歩したり、動物として必要な行動ニーズが満たされていること

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犬の頭数と従業員数の問題

2001年度に環境省が行ったアンケート調査によると、50頭以上の犬を飼育している繁殖業者は21.5%と報告されています。一方で犬・猫の取扱業者(繁殖だけでなく卸売・小売含む)の従業員数の規模は、5人未満が86%となっていました。

この2つのデータから、50頭以上の犬を5人未満という少人数で飼育しているブリーダーは、決して少なくないということが推察できます。50頭以上という数のなかにどのぐらい子犬が含まれているのかは不明ですが、繁殖業者なので主体は子犬と考えるのが常識的です。

子犬は1日に数回の食事やグルーミング、遊びや排泄物の処理、ハウスの清掃など、四六時中ケアを必要とします。その作業を少人数で行なうことは、無理があります。ましてや、そのような状況のなかで繁殖犬も含めて、“5つの自由”を確保するのは不可能に近いことです。

残酷すぎる事件。ブリーダー崩壊の事例

パピーミルと思われるブリーダーの崩壊のニュースが、多くのマスコミに報じられるようになりました。そこには目を覆いたくなる悲惨で残酷な現実があります。

ブリーダー崩壊の基本的なパターンは、従業員数に対して管理している繁殖犬の数が多くなりすぎ、5つの自由がほとんど確保されない軟禁状態になり、結果的に飼育放棄に至るというケースです。

中には、飼育放棄した動物たちを動物愛護センターや保健所に持ち込み、税金で殺処分させたというひどい事例もあります。

廃業することになったブリーダーが...

報道されたブリーダーの崩壊事件のなかでも、特に悲惨な事例を紹介します。

廃業する女性ブリーダーが繁殖犬80匹を100万円で引取り業者へ販売。業者は犬たちを木箱に押し込み、トラックで運搬。この移動で数匹を残して全ての犬が死亡した。後処理に困った業者は栃木県内の河川敷などに70匹を超える死骸を遺棄。

「命」を大切にできない人による、このような事件を目にすると、言葉に表せない怒りがこみ上げてきます。

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法規制の問題点

パピーミルの誕生やブリーダー崩壊が発生する背景には、日本は免許制ではなく登録制であること、そして欧州の動物愛護先進国に比べて日本の緩い法規制が原因として挙げられます。

動物愛護先進国の法規制

動物愛護先進国の一つ、イギリスを見てみましょう。イギリスでは20世紀に制定された「犬の繁殖に関する法律」および「犬の繁殖と販売に関する法律」により、パピーミルの抑止が行なわれました。
具体的には次の通りです。

  • 年間5匹以上の動物を出産するブリーダー、および頭数にかかわらず動物を売ることを生業としているブリーダーは所属する地域の管理局から免許を取得すること
  • 繁殖・取引の正確な記録を保管すること
  • 12ヶ月に満たないメスに出産させないこと
  • 犬は生涯6回までしか出産はさせてはならないこと
  • 一度出産すると、12ヶ月経たないと次の出産はしてはならないこと

また、2018年からは通称「ルーシー法」により、以下のような規定が追加されています。

  • 母犬を見せないと子犬を販売できない
  • 8週齢未満の子犬を販売してはいけない
  • 免許番号を公開せずに広告を出してはいけない

犬の【小売業】にまつわるペット産業の闇

ペット産業

ペット産業は、繁殖業だけではありません。
卸売・せりといった中間流通、そして店頭販売だけではなく多様化する小売まで、さまざまな業種があります。

ここでは、インターネット販売も含めた小売業について考察します。

インターネット販売の問題点

インターネット販売には、販売サイト上で犬が購入できる【通信販売】と、犬を競り合って落札する【ネットオークション】があります。

2005年6月の動物愛護法改正により、この種の業者も動物取扱業者の対象に加えられ、特定の法規制を受けることになりました。

頻発する購入後トラブル

全国消費生活情報ネットワーク・システムに掲載された事例によると、返金などの解約全般、血統書が来ないなどの約束の不履行、罹患していた病気などのクレーム未対応・未補償などのほか連絡不能まで。実犬と会うことなく購入に至る仕組みのため、トラブルが頻発しています。ペットの購入先全体の5%程度を占めるインターネット取引が、クレーム全体の10%以上を占めるというデータもあるのです。

それを反映して、現在の改正動物愛護管理法では、ペット販売時の対面説明が義務化されました。ここ10年間で、ネット経由の販売比率は約半分に減少しています。

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衝動買い問題

ペットショップで犬を見て、あまりの可愛らしさに目が釘付けになっていると、店員さんに声をかけられ話しているうちに「抱っこ」をさせてもらうことになった。小さな命を抱いた感動で、思わず衝動的に迎え入れることを決断。

このように、衝動買いをした結果、結局ライフスタイルが合わずに一緒に生活を続けることが厳しくなるというケースが問題視されています。

ペット先進国との違い

イギリス、ドイツ、イタリアなどのヨーロッパの動物愛護先進国では、衝動買いを防ぐために生体販売は禁止されています。アメリカではカリフォルニア州だけが禁止です。

日本でペットショップというと生体販売が常態となっていますが、動物愛護先進国でのペットショップとはペット用品やフードのお店で、子犬は販売していません。

日本でも「午後8時以降の展示販売は禁止」という規制が追加されましたが、最も進んでいるイギリスと比べると日本はまだまだ動物愛護後進国なのです。

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悪質業者の存在

犬を販売する業者の中で、悪質業者を見分ける物差しは、生体販売をビジネスとしか考えていないかどうか、ということに尽きます。

ビジネスとしか考えていない業者は、犬を単なる商品としてモノ扱いします。その典型的な例が“陳列型の生体販売”です。

そういったショップのバックヤードなどには、売れ残った犬が入ったケージが山積みになり、なかには放置されていることもあります。

悪質業者を増長させないためにも、法整備だけではなく、利用する側の知識と意識を高めておくことがたいへん重要です。

子犬の“8週齢規制”

動物愛護法の改正によって、生後56日を経過しない犬猫の販売禁止という“8週齢規制”が定められました。母親や兄弟から離れるのが早いと、丈夫な身体作りや社会性を養うことができないため、世界的には法律化されており、日本も同様に法規制されることになりました。

しかし、残念なことに実質的には日本でこの法律は100%機能していません。

環境省の関連サイトにも、施行後3年間は「45日」と、その後別に法律で定める日までの間は「49日」と読み替える、と附則に記されています。“その後別に法律”は定められていないので、規制は現在も56日ではなく49日と短縮されたままです。

また、天然記念物に指定されている日本犬6種は除外となっています。それらの理由は不明ですが、業界の圧力とも言われています。また、日本犬に関しては議員の働きかけがあったと報道されています。

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動物愛護後進国を自覚して、飼い主の覚醒も重要

ペット産業

ペット産業を巡る闇は、繁殖や小売にかぎらずまだまだ広範に存在しています。それは残念ながら命あるものをビジネスで扱うことの宿命であり、極めて解決困難なテーマです。

しかしながら、日本はまだ動物愛護後進国であることを自覚し、イギリスをはじめ動物愛護先進国に学びながら、改善していくしかありません。

そのためには、犬は対等なパートナーであり、家族の一員と捉える高い意識と、日々アップデートされる正確で幅広い知識を、飼い主となる私たちが備え、覚醒していくこと、それがこれらの闇を小さくしていく上でとても重要だと言えるのではないでしょうか。

  • 更新日:

    2020.12.23

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ライター・専門家プロフィール
  • 西村 百合子
  • ホリスティックケアカウンセラー、愛玩動物救命士
  • ゴールデンレトリバーと暮らして20年以上。今は3代目ディロンと海・湖でSUP、ウインドサーフィンを楽しむ日々を過ごす。初代の愛犬が心臓病を患ったことをきっかけに、ホリスティックケア・カウンセラーの資格を取得。 現在、愛犬のためにハーブ療法・東洋医学などを学んでおり、2014年よりその知識を広めるべく執筆活動を開始。記事を書く上で大切にしていることは常に犬目線を主軸を置き、「正しい」だけでなく「犬オーナーが納得して使える」知識を届ける、ということ。