犬は人間と違い、食べた物を口の中で咀嚼することはありません。口から入った食べ物はその状態のまま、食道を通り胃へと送られます。この間、わずか4~5秒と言われています。短時間で胃に到達した食べ物は、たんぱく質分解酵素を主成分とする胃液や酸の強い胃酸などにより、ドロドロの状態に分解され、小腸に送られます。そして、小腸で消化が行われた後に栄養分がそれぞれの臓器に吸収され、その栄養によって健康な体が維持できるのです。
犬も人間と同じように、食べ過ぎや誤食、薬の副反応などによってお腹が痛くなります。人間の場合は、胃の不調を言葉で表現し伝えることができますが、犬にはできません。食欲不振、嘔吐や下痢といった症状によって飼い主は気がつくことになるのです。
消化不良は、過剰に胃酸が生産される、胃に炎症が起きる、腸に炎症が起きることなどが原因で起こります。また、胃にガスが溜まり胃が膨張する場合もあります。その他に、ストレスからも下痢をすることがあります。
犬が消化不良を起こすと、さまざまな症状が現れます。特に犬に多い症状が嘔吐と下痢です。嘔吐は、胃に炎症が起きたときに起こり、腸に炎症が起きると下痢として症状が現れます。また、お散歩中に草を食べる時も消化不良を起こしている可能性があります。犬は、胃に不快感があると草を食べることで、自ら嘔吐しようとしたり、便として排泄しようとしているとされ、これは2014年に発表された全米科学アカデミーの研究によっても明らかになっています。
犬が一度消化不良を起こしてしまうと、栄養のバランスが崩れてしまったり、痩せてしまったりと健康にいろいろな悪影響が出てしまいます。胃腸が健康でなければ、必要な栄養素を犬は取り込むことができません。犬種やライフステージ、生活環境にもよりますが、基本的には良質なタンパク質をメインにして、発酵食品や食物繊維など栄養バランスを考えた食事が犬にとっては消化にいい食べ物となります。
消化不良による体調不良の犬はもちろん、健康に問題のない犬も消化にいい食べ物を摂ることがおすすめです。日常から消化の良い食事を摂ることで、消化不良を起こしにくい体質を作ってあげることが健康な生活を送るためのポイントとなります。それでは犬にとって消化のいい食べ物を具体的にご紹介します。
犬は、もともと肉を主食としてきた動物です。犬の胃で生産される強い酸性の胃酸は生の肉を消化するのに向いているのです。また、人間の腸の長さが体長の約10倍であるのに対し、犬は体長の約5~6倍と短いのが特徴です。その反面、牛や馬といった草食動物は、草をゆっくり分解し吸収するため、体長の10~30倍もの長さの腸を持っています。
現在では、犬は雑食と言われていますが、肉食動物と同じ短い腸はそのままなのです。そのため、消化に時間のかかる生の野菜や果物、穀類はあまり得意ではありません。
また、市販のドッグフードの消化には約8時間かかると言われていますが、生肉の場合は約4時間で消化ができるとされています。消化時間が短いことは、胃や腸といった臓器を休ませることができることから、消化にいい食べ物は体に優しいと言われているのです。
犬に生肉を与える場合は、新鮮かつ生食用に加工されたものを選びましょう。スーパーなどで特売品になっている肉は、鮮度に不安があるため生で与えるのはやめましょう。また、飼育の過程で成長ホルモン剤や抗生物質などを与えられていない動物の肉を選ぶことが大切です。
食物繊維は腸のぜん動運動を助け、腸内環境を整えるのに役立つ栄養成分です。かぼちゃ、さつまいもは、柔らかく煮たり蒸すなどしてからペースト状やスープにしてあげると消化しやすくなります。
リンゴは、健康な時はそのまま食べやすい大きさにカットして与えても大丈夫ですが、子犬やシニア犬、消化不良を起こしている場合はすりおろしにして少量与えることがおすすめです。また、消化酵素がたっぷり含まれている大根は、大根おろしにしてあげると効率良く酵素を摂取できます。
下痢をしている時は、食物繊維が豊富な食材を与えることがおすすめです。また、消化不良を起こしている犬に野菜を与える場合は、すりおろしやペースト状にして与えることをおすすめします。なお、下痢が続いている場合に、大根おろしを与えるときは、ごく少量にして様子をみてください。
発酵食品は微生物の働きによって、栄養素が分解され消化吸収しやすくなっていることが特徴です。また腸内環境を整える上で重要な働きをする善玉菌を増やす働きをすることでも知られています。日本の伝統食とも言える発酵食品にはさまざまな種類があり、それぞれ微生物が異なります。中でもおすすめは、乳酸菌、麹菌などの働きによって作られている食べ物です。
発酵食品を犬に与える場合は、味付けをしないことが基本です。ヨーグルトは生乳100%のプレーンタイプ、納豆は犬が消化しやすいひきわりを味付けなしで、また甘酒はアルコールの入っていない米麹100%のものを選びましょう。
犬は本来肉食ですが、人間と共に生活するようになり雑食へと進化しました。現在の犬ごはんの主流はドッグフードですが、最近では従来のドライフードだけではなく、低温製法やフリーズドライ製法さらにウエットフードやレトルトなど、さまざまなタイプが販売されています。
高温で加熱調理されるタイプのドッグフードは、犬が消化するのに時間がかかりますが、犬の消化への負担を考慮し独自の製法で作られているドッグフードもたくさんあります。もし、愛犬のお腹の不調が続くと感じたら、現在のフードを変えてみることも一つの方法かもしれません。
ただし、長期間の下痢や嘔吐には病気が隠れている可能性もあるので、あまりにごはんを食べない、食べられない状態が続くようでしたら、獣医師に相談するようにしましょう。