この記事は、アマチュア小説家が「犬と暮らした日々のこと」をもとに綴る創作物語の連載第7話です。
「メロン、もう慣れたかな?」
「たぶんね。お留守番の後で一緒に遊ぶことが、楽しみになってきたみたいだし」
二人とも、帰宅後は”うがい・手洗い・メロン”
お留守番の後は楽しいことが待っている!と、学習させてきました。
実際には、二人の方が、メロンとの遊びを心待ちにしているのですが。
二人が暮らす北国にも春が訪れ、もう暖房は必要ありません。部屋を閉め切ることが好きではないママは、ドアを開け放すようになりました。
メロンの行動範囲も広がります。
「ただいまぁ!」
ママが仕事を終え、帰って来ました。その声を聞きつけ、メロンが駆け寄ってきます。
「わぁー、お迎えありがとう!」
迎えに来てくれたメロンを、ママがうんと撫でて褒めました。
メロンも小さなしっぽを振っています。
「ただい…あれ?」
玄関のドアを開けながら、いつものように元気よく「ただいま」を言おうとしたママは、待ち構えていたメロンの姿に驚きました。
「メロン、もう来てたの?鍵を開ける音が聞こえたのかな?」
うがい・手洗いをし、メロンと遊び始めたママ。でも、何だか腑に落ちません。
「それにしては、玄関まで来るの早くない?」
鍵を開ける音を聞いてから玄関に駆けつけたにしては、余裕がありすぎなのです。
「と、言うことは」
ママは、メロンに人差し指を突き付けました。
「トリックを使ったね!」
メロンは、キョトンとしています。
「よし、きみのトリックを解き明かそう!音が手がかりだ!」
立ち上がって、声高らかに宣言するママを、メロンは首をかしげて見つめていました。
その翌日。
足音を忍ばせ、玄関の前へ。音をたてないように、慎重に鍵を開けます。
そっとドアを開けると…そこには、すでにメロンの姿が。
「やっぱり、鍵を開ける音じゃないんだ!」
靴を脱ぎながら、ママは考えました。
「窓から私の姿は見えないし、足音も聞こえなかったと思うし…もちろんドアを開ける音でもない」
謎は深まります。
「まさか匂い?でも、香水とかつけてないからなぁ」
考え込むママに、メロンは早く遊ぼうと催促。
「音に反応してるはずなんだ。それは間違いない」
今日は、パパの帰りが遅い日です。ママは、メロンと一緒にのんびりテレビを観ていました。
『!』
何かに気づいたメロンが、ソファから飛び降り玄関に駆けて行きます。
「どうしたの?」
ママも後をついて行きました。
すると、鍵を開ける音がして、パパが帰ってきました。
「ただいま」
「わかった!」
「えっ、何が?!」
北国では、車はほぼ必需品です。
たくさんの機材を積み込むパパは大きな車。
あちこち飛び回るママは小回りのきく小さな車。
「エンジンの音だよ!」
いつの間にかメロンは、二人の車のエンジンの音を覚えていたのです。
『エンジンの音、鍵を開ける音、ただいまの声、一緒に遊ぶ、楽しい!』
さらに、ドアが解放されるようになり、
『エンジンの音、玄関に行く、褒められる、嬉しい! 一緒に遊ぶ、もっと楽しい!』
「すごいぞメロン!おまえはお利口さんでちゅねー!」
ママの推理に感動したパパは、メロンをいっぱい褒めます。
それからもメロンは、毎日玄関で『お帰り!』と二人を迎えてくれました。