この記事は、アマチュア小説家が「犬と暮らした日々のこと」をもとに綴る創作物語の連載第6話です。
「今日はみんなでお出かけだよ!」
まだ薄暗いうちから起きてしまったママが、後を続けました。
メロンを購入したペットショップの本店では、初めて犬を飼う人のために、シャンプー指導のサービスがあります。二人は、この日、午前10時に予約をしていました。
まだワクチンの接種が終わっていないので、寄り道もお散歩もできませんが、それでもメロンとの初めてのお出かけが嬉しくて嬉しくて。
パパもママも、ゆっくり寝てなどいられませんでした。
お店に着くと、トリマーさんが笑顔で迎えてくれました。
「初めに、よくブラッシングしてください。肌を引っかかないように気をつけて」
二人は感心して、軽やかにブラッシングをするトリマーさんの手元を見つめていました。
「お腹や脚の内側も」
そう言って、さっとメロンを仰向けに。
ビックリして起き上がろうとするメロンを、トリマーさんは左手で押さえます。
優しく触れているようにしか見えませんが、メロンがどんなにイヤイヤをしても暴れても、その手から逃れることはできませんでした。
「メ、メロン!大丈夫、大丈夫だからね!」
ママは、思わず声をかけてしまいました。
「心配性だなぁ。しっかり見て勉強しなさい」
パパがたしなめます。
「次に、耳のお掃除です」
ブラッシングを終えたトリマーさんは、メロンの耳をクルン。
「ええっ?!」
殊勝なことを言ったばかりのパパが、大きな声を出しました。
「しーっ、声大きい!」
「だって、耳…!」
トリマーさんが、クスクス笑います。
「なんか怖いですよね、耳がひっくり返るの。私も、初めて見た時はビックリしました」
「ですよね…。えへへ」
優しいフォローに、パパは照れ笑い。
もう驚いたり大きな声を出したりするのは止めよう。二人は、アイコンタクトで誓い合います。
その直後の肛門絞りは、いきなりの難関でしたが、何とかこらえることができました。
「お湯は35℃くらい。地肌までしっかり濡らしてください」
お湯をかけられたメロンはジタバタしますが、またもやしっかりと押さえられ、逃げることはできません。
トリマーさんはシャンプーを手に取り、メロンをきれいに洗い始めました。
かなり強めにイヤイヤをするメロンに、パパもママもはらはら。握り締めた手に、汗がにじみます。
「すすぎ忘れのないように、気をつけてくださいね」
メロンはまだイヤイヤを続行中ですが、トリマーさんは全く動じません。
その抵抗を軽くかわしながらリンスをし、またきれいにすすぎ…。
すすぎ終わった頃には、メロンはすっかりおとなしくなっていました。
タオルドライの間も、ドライヤーをかけている間も、じっとしています。
「はい、以上で終了です」
トリマーさんから手渡されたメロンは、とても満足そうな顔をしていました。
「ありがとうございました!」
フワフワしていい香りのするメロンを抱っこして、二人は駐車場へと向かいます。
「抵抗されても動じないし、手際はいいし。プロってすごいね。しかも、あんなに抵抗していたメロンを、すっかり満足させちゃうんだから」
「それに比べてウチらは、ずっとおろおろして…。初心者だねぇ」
上手にできるようになるまで、一体どのくらいかかるのかな。せめて、大騒ぎはしないようにしよう。
初めてのお出かけは、とても有意義なひと時となりました。