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2020.12.26

犬猫の感染症が専門!獣医学博士による飼い主のためのブログ|vol.6

ワクチンは何からできているの?【3】ワクチンの作り方

前々回から3話連続で、ワクチンが何からできているかを解説してきました、ワクチン研究が専門の獣医学博士による連載の最終話です。前回までお読みくださった飼い主様の中には、ワクチンがどのように作られているのか疑問に思われた方もいるのではないでしょうか。
今回は、ワクチンの作り方を見ていきましょう。ワクチンが作られる過程を理解して、ワクチンについて正しく考えられるようになっていただければと思います。

#勢籏剛 / #専門家コラム / #犬猫のワクチン研究者

勢籏 剛/獣医師、獣医学博士、動物予防医療普及協会 学術顧問

前々回から3話連続で、ワクチンは何からできているのかを説明していきます。
【1】生ワクチンと不活化ワクチンの違い
【2】生ワクチンと不活化ワクチンの中身
【3】ワクチンの作り方

ワクチンの製造方法

勢籏剛

犬のワクチンは、多くがウイルスに対するものなので、ここではウイルスのワクチンの製造方法を簡単に説明します。
生ワクチンと不活化ワクチンで、大きく製造工程が異なります。

生ワクチンの製造工程

勢籏剛
  1. まず細胞を人工的に増やしていきます。このことを「培養」と言います。細胞はウイルスを増やす工場にあたるもので、細胞が多ければ多いほど一度にたくさんのウイルスを培養することができます。
  2. 大量に培養した細胞にワクチンの「種」となる弱らせたウイルスを添加(接種と言います)し、数日間培養します。
  3. ウイルスが十分増えたら、培養液ごと回収します。その後、余分な細胞などを取り除きます。
  4. 回収した培養液に、ウイルスを保護する安定剤を加えます。
  5. 混合ワクチンの場合は、ここで数種類のウイルス培養液を混合します。その後、ワクチンの瓶に小分けしていきます。
  6. フリーズドライ(凍結乾燥とも言います)をして、生きたままウイルスを閉じ込めます。
  7. その後、ワクチンに効力があるか、安全であるか、異物が入っていないかなどしっかりと国で定められた検査をして、合格したものだけが出荷されていきます。

不活化ワクチンの製造工程

勢籏剛
  1. 生ワクチンのときと同じように細胞を大量に培養します。
  2. 培養した細胞にワクチンの「種」となるウイルスを接種し、数日間培養します。
  3. ウイルスが十分増えたら、培養液ごと回収します。その後、余分な細胞などを取り除きます。
  4. 回収した培養液に、ウイルスを死なせる(不活化する)薬剤を添加し、その後十分に取り除きます。薬剤ではなく、紫外線を照射して不活化させる製造方法もあります。
  5. アジュバントと保存剤を加え、混合ワクチンの場合、数種類の不活化したウイルス液をここで混合します。その後、ワクチンの瓶に小分けしていきます。
  6. 最終的にしっかりと国で定められた検査をして、合格したものだけが出荷されていきます。
「アジュバント」の解説はこちら!

ワクチンの種の作り方

勢籏剛

ワクチンの製造は、「種」のウイルスから作られることを説明しました。では「種」はどこから来るのか不思議に思われた方も多いのではないでしょうか。

ワクチンの種になるウイルスは、実はウイルスに感染してしまった動物のウンチやだ液から手に入れるのです。

しかし、ウンチやだ液そのものを「種」にすることはできません。細胞で増えるようにしたウイルスが「種」になるわけです。このことを「ウイルスを分離する」と言います。

つまり、動物のからだに感染しているウイルスを、からだの外で、つまりシャーレのような容器の中で細胞を使って増えるように、ウイルスを分離するのです。

細胞で増えるように分離したウイルスは、ワクチンの「種」としてふさわしいかの選別試験をします。ちゃんと動物に免疫を引き起こしてくれるか、ワクチンを大量に製造できるほど良く増えてくれるかなどの研究を行います。選別試験を経て晴れてワクチンの「種」として認められるわけです。

この種を作る研究でも数年かかります。生ワクチンの場合は、ウイルスを弱らせることが必要なためさらに多くの年数がかかります。

ウイルスを弱らせる方法

勢籏剛

感染した動物から分離したウイルスは、もちろん病原性があるウイルスになります。ではどうやってウイルスを弱らせることができるのでしょうか。
よく行われる方法は、ウイルスを違う動物の細胞に感染させることです。違う動物とは、犬のウイルスだったら、猫の細胞やミンクの細胞、猿の細胞といった違う種類の動物の細胞になります。

この違う動物の細胞にウイルスを感染させると、ウイルスはその新しい動物の細胞でもなんとか増えようとして、ウイルスが変化していきます。ただこのウイルスの変化は1回では変化しません。何代も違う動物の細胞に感染させ続けることによって、ウイルスは徐々に変化して、変化したウイルスだけが生き残っていきます。

ウイルスの病原性が弱まるには多くの場合、数十?百代も繰り返し細胞に感染させ続けることが必要です。そうやって、もともと病気を起こしていた動物に対しての病原性は徐々に弱まっていきます。

しかし、この作業は、いつ弱まるかが予想しにくく、ときには弱くなりすぎたりして、免疫を引き起こせないウイルスになってしまう場合もあります。試行錯誤を何度も繰り返すため、非常に時間がかかる研究になります。過去には生ワクチンの種を作るだけでも、なんと10年近くかかった例もあります。

ワクチンは化学的な合成ではなく、生物から作られてくる

ワクチンは化学的なクスリとは違って、合成で作られるものではなく、感染した動物から「種」を作り、「種」を細胞で培養するといった生物の活動から生まれ、作られてきます。そのためワクチンの開発には非常に時間がかかるのです。

しかし、新型コロナウイルスのワクチンが最新技術によりワクチンの「種」を迅速に作り出すことに成功していますので、他のワクチンでも開発が非常に早くなることが期待されます。

正しい知識と行動で愛犬を感染症から守ってほしい

「ワクチンは何からできているの?」という飼い主様の疑問に3回連続の記事で説明して参りました。ワクチンがどうやって作られてくるかを正しく理解し、ワクチンについての不安を払拭していただけたらと思います。

ワクチン接種で防ぐことができる病気があります。ワクチンについて必要以上に恐れずに、正しい知識と行動で愛犬を感染症から守ってあげましょう。

参考文献
  • 『動物用ワクチンとバイオ医薬品-新たな潮流-』監修:動物用ワクチン-バイオ医薬品研究会、著者:小沼 操 他、発行:文永堂出版
  • 更新日:

    2020.12.26

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ライター・専門家プロフィール
  • 勢籏 剛
  • 獣医師、獣医学博士、動物予防医療普及協会 学術顧問
  • 専門分野は犬猫の感染症、免疫、ワクチン。酪農学園大学獣医学部卒業後、動物用ワクチンメーカーの研究者として主に犬のワクチンの研究開発に12年間携わる。犬の感染症の研究で博士(獣医学)を取得。現在は民間企業で獣医師として働く傍ら、犬猫の感染症について確かな情報を提供するために、最新情報の収集に努めています。