前回から3話連続で、ワクチンは何からできているのかを説明していきます。
【1】生ワクチンと不活化ワクチンの違い
【2】生ワクチンと不活化ワクチンの中身
【3】生ワクチンと不活化ワクチンの作り方
生ワクチンには、弱らせたウイルス+安定剤が入っています。
弱らせたウイルスは、生きたままワクチンの瓶に入れるので、ワクチンの種となるウイルスを培養した培養液そのものです。
ワクチンの種になるウイルスは細胞がないと増えることができないので、ワクチンをつくるときには細胞を使います。
アミノ酸や塩分、ミネラルなどの栄養成分が入った栄養液(培地と呼ばれるもの)と細胞でウイルスを培養するのです。
最終的にウイルスの培養液は、細胞などの余分なものを取り除く工程を経てワクチンの瓶の中におさまります。
安定剤は、ウイルスを生きた状態のまま保つために入っています。
生きたウイルスをただ瓶に詰めるだけでは、どんどん死んでいってしまうのです。ウイルスを生きたまま瓶に閉じ込めるために、生ワクチンは真空状態にして乾燥したのち凍結させます。
これはフリーズドライとも呼ばれ、お湯をかけてふやかしたらできあがる具沢山のお味噌汁と同じです。新鮮さを保ったまま乾燥させて保存することができる技術です。
フリーズドライをする際、ウイルスを保護する目的で添加するのが安定剤です。安定剤は、ゼラチン、アミノ酸、糖類など、食品でもおなじみの成分で作られています。ワクチンの瓶1本につき50~60mgほどの安定剤が含まれていて、これはお米2~3粒と同じぐらい少ない量です。
不活化ワクチンには、死なせたウイルス+アジュバント+保存剤が入っています。
死なせたウイルスとは、病気の原因となるウイルスを培養したものに、薬剤を添加して死なせた(不活化させた)ものです。ウイルスは完全に感染しなくなり、病気を起こすことはありません。そのとき使用した薬剤は、からだに害がないようにしっかり除かれます。
アジュバントという、聞き慣れない言葉が出てきましたね。アジュバントはラテン語のadjuvare(「助ける」の意)が語源で、一言でいうと「免疫を増強する物質」です。
不活化ワクチンには死なせたウイルスを使いますが、ウイルスが死んでいることで免疫を呼び起こす力が弱くなります。そこで、アジュバントを入れて免疫を増強させることもあるのです。ここで「こともある」としたのは、アジュバントは必ずしも必要というわけではなく「必要な不活性ワクチンもある」ということです。
ちなみに、狂犬病ワクチンは不活化ワクチンですがアジュバントは入っていません。
アジュバントとしてよく使われているのは、水酸化アルミニウムです。聞き慣れない名前なので、人によってはこのアジュバントがからだに良くないという人がいますが、人間用のワクチンにも使われていて安全性が受け入れられています。
犬の混合ワクチンにも一部使われていますが、ワクチンの瓶に入っているアルミニウムの量は最大でも0.05ミリグラムになります。食卓の塩一粒が0.1ミリグラムなので、その半分になりますね。非常に微量であることが分かると思います。
ワクチンを瓶に入れて密閉した後、効果を維持するために微量の保存剤も入っています。使われているのはチメロサールです。チメロサールは、ワクチンの品質維持のための防腐剤として添加されております。
チメロサールは体内で分解されて「エチル水銀」になる物質です。「水銀」という言葉から危険なものとイメージされる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、水俣病で知られるような体内に蓄積され危険だとされる水銀は「メチル水銀」と言い全く別物です。「エチル水銀」になるチメロサールは人間のワクチンにも使われており、明らかな健康被害は示されていません。
同じ水銀でも全く違うことを理解してください。犬のワクチンに含まれていても、心配は不要です。
ワクチンの瓶に入っている量は、最大でも0.1ミリグラム。塩に例えると一粒分で非常に微量です。
ワクチンの瓶の中に雑菌を繁殖させない目的で、ゲンタマイシンという抗生物質が入っているワクチンも一部にはあります。これについては、最大でも0.03ミリグラムと塩一粒の3分の1以下と極微量です。
今回は、生ワクチンと不活化ワクチンに含まれるものを解説しました。入っているものの正体と量を正しく理解して、ワクチンに対する心配を少しでも取り除いていただけると嬉しいです。
次回は、動物のワクチンに対する理解をより深めてもらうために、ワクチンがどうやって作られるかをご紹介します。
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