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勢籏剛 ワクチンの中身
連載 / ブログ

2020.12.26

犬猫の感染症が専門!獣医学博士による飼い主のためのブログ|vol.5

ワクチンは何でできているの?【2】生ワクチンと不活化ワクチンの中身

飼い主の皆さんは、愛犬が打たれているワクチンの瓶の中に一体何が入っているのか不思議に思ったことはありませんか?
前回から3話連続でお送りしている「ワクチンは何でできているの?」の第2回目では、ワクチンに入っているものを詳しくご紹介いたします。

#勢籏剛 / #専門家コラム / #犬猫のワクチン研究者

Author :勢籏 剛/獣医師、獣医学博士、動物予防医療普及協会 学術顧問

前回から3話連続で、ワクチンは何からできているのかを説明していきます。
【1】生ワクチンと不活化ワクチンの違い
【2】生ワクチンと不活化ワクチンの中身
【3】生ワクチンと不活化ワクチンの作り方

生ワクチンに入っているもの

勢籏剛

生ワクチンには、弱らせたウイルス安定剤が入っています。

弱らせたウイルスは、生きたままワクチンの瓶に入れるので、ワクチンの種となるウイルスを培養した培養液そのものです。

主原料はウイルス培養液

ワクチンの種になるウイルスは細胞がないと増えることができないので、ワクチンをつくるときには細胞を使います。

アミノ酸や塩分、ミネラルなどの栄養成分が入った栄養液(培地と呼ばれるもの)と細胞でウイルスを培養するのです。

最終的にウイルスの培養液は、細胞などの余分なものを取り除く工程を経てワクチンの瓶の中におさまります。

ウイルスを保護する安定剤

安定剤は、ウイルスを生きた状態のまま保つために入っています。

生きたウイルスをただ瓶に詰めるだけでは、どんどん死んでいってしまうのです。ウイルスを生きたまま瓶に閉じ込めるために、生ワクチンは真空状態にして乾燥したのち凍結させます。

これはフリーズドライとも呼ばれ、お湯をかけてふやかしたらできあがる具沢山のお味噌汁と同じです。新鮮さを保ったまま乾燥させて保存することができる技術です。

フリーズドライをする際、ウイルスを保護する目的で添加するのが安定剤です。安定剤は、ゼラチン、アミノ酸、糖類など、食品でもおなじみの成分で作られています。ワクチンの瓶1本につき50~60mgほどの安定剤が含まれていて、これはお米2~3粒と同じぐらい少ない量です。

不活化ワクチンに入っているもの

勢籏剛

不活化ワクチンには、死なせたウイルス+アジュバント+保存剤が入っています。

主原料は死んだウイルス

死なせたウイルスとは、病気の原因となるウイルスを培養したものに、薬剤を添加して死なせた(不活化させた)ものです。ウイルスは完全に感染しなくなり、病気を起こすことはありません。そのとき使用した薬剤は、からだに害がないようにしっかり除かれます。

免疫を「助ける」アジュバント

アジュバントという、聞き慣れない言葉が出てきましたね。アジュバントはラテン語のadjuvare(「助ける」の意)が語源で、一言でいうと「免疫を増強する物質」です。

不活化ワクチンには死なせたウイルスを使いますが、ウイルスが死んでいることで免疫を呼び起こす力が弱くなります。そこで、アジュバントを入れて免疫を増強させることもあるのです。ここで「こともある」としたのは、アジュバントは必ずしも必要というわけではなく「必要な不活性ワクチンもある」ということです。

ちなみに、狂犬病ワクチンは不活化ワクチンですがアジュバントは入っていません。

アジュバントとしてよく使われているのは、水酸化アルミニウムです。聞き慣れない名前なので、人によってはこのアジュバントがからだに良くないという人がいますが、人間用のワクチンにも使われていて安全性が受け入れられています。

犬の混合ワクチンにも一部使われていますが、ワクチンの瓶に入っているアルミニウムの量は最大でも0.05ミリグラムになります。食卓の塩一粒が0.1ミリグラムなので、その半分になりますね。非常に微量であることが分かると思います。

ワクチンの品質維持をする保存剤

ワクチンを瓶に入れて密閉した後、効果を維持するために微量の保存剤も入っています。使われているのはチメロサールです。チメロサールは、ワクチンの品質維持のための防腐剤として添加されております。

チメロサールは危険な水銀とは違う

チメロサールは体内で分解されて「エチル水銀」になる物質です。「水銀」という言葉から危険なものとイメージされる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、水俣病で知られるような体内に蓄積され危険だとされる水銀は「メチル水銀」と言い全く別物です。「エチル水銀」になるチメロサールは人間のワクチンにも使われており、明らかな健康被害は示されていません。

同じ水銀でも全く違うことを理解してください。犬のワクチンに含まれていても、心配は不要です。

ワクチンの瓶に入っている量は、最大でも0.1ミリグラム。塩に例えると一粒分で非常に微量です。

保存剤としての抗生物質は極微量

ワクチンの瓶の中に雑菌を繁殖させない目的で、ゲンタマイシンという抗生物質が入っているワクチンも一部にはあります。これについては、最大でも0.03ミリグラムと塩一粒の3分の1以下と極微量です。

次回はワクチンの作り方

勢籏剛

今回は、生ワクチンと不活化ワクチンに含まれるものを解説しました。入っているものの正体と量を正しく理解して、ワクチンに対する心配を少しでも取り除いていただけると嬉しいです。

次回は、動物のワクチンに対する理解をより深めてもらうために、ワクチンがどうやって作られるかをご紹介します。

参考文献
  • 公開日:

    2020.12.12

  • 更新日:

    2020.12.26

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ライター・専門家プロフィール
  • 勢籏 剛
  • 獣医師、獣医学博士、動物予防医療普及協会 学術顧問
  • 専門分野は犬猫の感染症、免疫、ワクチン。酪農学園大学獣医学部卒業後、動物用ワクチンメーカーの研究者として主に犬のワクチンの研究開発に12年間携わる。犬の感染症の研究で博士(獣医学)を取得。現在は民間企業で獣医師として働く傍ら、犬猫の感染症について確かな情報を提供するために、最新情報の収集に努めています。