この記事は、アマチュア小説家が「犬と暮らした日々のこと」をもとに綴る創作物語の連載第1話です。
カーテンを開けながらママが言います。
見上げた空には優しい青。虹の橋のたもとまで続いているでしょうか。
「あの日も、こんないい天気だったっけね」
犬と暮らすタイミング。家族になる子との出会い。
決して偶然ではないと、ママは今でも思っています。
それは神様からの贈り物。神様がくれた5270日の始まりの日に、ママはそっと想いを馳せました。
ショッピングモールの一角にあるペットコーナー。三連休の初日だったその日、たくさんのお客さんで賑わっていました。
ふらりと立ち寄った二人を、可愛らしい子犬や子猫が迎えてくれます。
家族に動物アレルギーを持つ者がいたり、ペットの飼育禁止のマンションに住んでいたり。
二人とも子供の頃から動物好きでしたが、それぞれの事情でペットを飼うことができませんでした。
結婚後の今は、共働きだからペットを飼ってもお世話が大変。そのため、こうしてペットコーナーを散策して、休日を過ごすことが多かったのです。
「本当に可愛いねぇ」
「見てるだけで癒されるねぇ」
いつものように二人は、子犬たちの前をゆっくりと歩いていました。ところが、その日に限って、ママが突然立ち止まりました。
「どうした?」
「……見つけた」
「え? 何を?」
「この子!」
小さな柴犬の女の子です。目が合った瞬間、ママは息が止まってしまいました。
雷に打たれた、と言っても大袈裟じゃないくらいの衝撃です。ママはもう、その子の前から動けません。
「抱っこしてみませんか?」
店員さんが声をかけてくれました。ママの腕に、その子をそっとのせます。
フワフワしていて温かくて。首を傾げて、じっとママを見つめていました。
「この子、目鼻立ちがはっきりしているでしょう?将来美人さんになると思いますよ」
「私もそう思います。って言うか、もうすでに一目惚れしました。中学2年生の秋以来です」
店員さんはケラケラと笑っています。
「よかったら、家族に迎えてあげてください」
「はい、喜んで!」
展開の早さに、パパはついてゆけません。
「え、え、どういうこと?」
「この子を、うちの子にするの」
「うちら共働きだよ、お世話が大変だよ?」
「大丈夫、がんばるから!」
「そもそも、犬を飼ったことないよね?」
「これは運命の出会いなんだよ。大丈夫、一緒に暮らそう!」
小さな柴犬の女の子は、小さな箱に入れられママに手渡されました。さっきよりずっと重く感じます。
命を託されたんだ。この子の一生を、私たちが守らなくては。
その帰り道。
「この子の名前、どうしようか?」
「その箱、メロンを入れる箱みたいだから…メロンはどう?」
パパが言いました。
「そのまんまだけど、いいね!」
ママが笑います。
「はじめましてメロン。今日から私たちは家族だよ。末永くよろしくね!」
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