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勢籏剛
連載 / ブログ

2020.11.16

犬猫の感染症が専門!獣医学博士による飼い主のためのブログ|vol.2

専門家コラム|ウイルスに感染する仕組み。動物のからだで一体なにが起こっているの?

突然ですが、みなさんは「感染」という現象がどういう仕組みかご存じでしょうか?
新型コロナウイルスの感染拡大によって、「感染」という言葉をほぼ毎日聞くようになりました。一言で「感染」といってもその仕組みはそれはそれはとても複雑です。
今回は、ウイルスの巧みな生存戦略である「ウイルスの感染」についてお話をしたいと思います。

#勢籏剛 / #専門家コラム / #犬猫のワクチン研究者

Author :勢籏 剛/獣医師、獣医学博士、動物予防医療普及協会 学術顧問

「感染」とは?

感染 犬 勢籏剛

感染症の教科書では、感染とは『微生物が動物体内に侵入して増殖する状態』と書かれています。ここでいう微生物とは目に見えない細菌やウイルスなどのことです。

感染について理解するうえで大切なキーワードは「増殖」です。ウイルスが体の中で増えて初めて「感染した」ということになります。

ウイルスって?

では、ウイルスが増殖するということはどういうことでしょうか。からだの中でウイルスはどのように増えているのでしょう。

ここではまずは、ウイルスそのもののことをお話いたします。

電子顕微鏡を使ってはじめて見ることができる

すでにみなさんご存知の通り、ウイルスはとても小さいので目で見ることはできません。小中学校の授業で使ったような、普通の顕微鏡でも見ることはできません。

ウイルスは、人の細胞の100~1000分の1の大きさなので、電子顕微鏡という大学にあるような特殊な顕微鏡でないと見ることができないのです。

ウイルスはとても小さい

ウイルス 見た目 大きさ 勢籏剛

最近は、新型コロナウイルスの白黒写真をテレビのニュースなどで見かけることが多いですが、あれが電子顕微鏡で見たウイルスの姿です。

同じように目に見えない微生物で「細菌」があります。新型コロナウイルス感染症がひろがってから、ウイルスと細菌は違うものということを知った方もいらっしゃるのではないでしょうか。

インフルエンザの「菌」と表現する人がいますが、インフルエンザはインフルエンザウイルスによって起こる病気なので、細菌を表す「菌」ではなく「ウイルス」が正しい表現です。

ウイルスがネズミの大きさなら人間は地球

ウイルスは細菌よりも小さく、細菌の10~100分の1の小ささです。よく言われる大きさの例えとして、ウイルスがネズミであれば、細菌は象の大きさほどです。ちなみに、そのとき人間の身体はなんと地球と同じ大きさということになります!

ウイルスの小ささを実感いただけたのではないでしょうか。

ウイルスの特徴とその増え方

ウイルスと細菌の違いは大きさだけではありません。ウイルスと細菌の決定的な違いは、「自分で増えることができるかどうか」です。

ウイルスは自分で分裂して増えることができない

ウイルス 増殖 仕組み 勢籏剛

細菌は自分で増えることができますが、ウイルスは自分で増えることができません。そういう意味で、ウイルスは生き物ではありません

細菌は、栄養さえあれば自分で分裂してどんどん増えていきます。一方、ウイルスはそれができません。

ウイルスが増えるためには、動物の細胞を利用する必要があるのです。それがウイルスの生存戦略なのです。

ウイルスは細胞の力を借りて増える

ウイルスは、動物の細胞が持っているものを利用して増えます。そのため、ウイルス自身は必要最低限のものしか持っていません。手ぶらで友達の家に行って、服から何まですべて借りて出ていくというイメージでしょうか。非常に迷惑な奴です・・・。

巧みな増殖の仕組み

ウイルス 構造 勢籏剛

ウイルスは、簡単に説明すると『ひも』と『殻』でできています。

この『ひも』は、ウイルスが自分の子孫を残すための情報がつまっている遺伝子(核酸)のことです。そして、この『ひも』を守るために『殻(たんぱく質)』があります。

細胞が乗っ取られる仕組み

ウイルスの役目は、『ひも』を細胞に解き放ち増殖することです。

解き放たれた『ひも』がウイルスの遺伝子だとはつゆ知らない細胞は、ひもからウイルスの遺伝情報を読み取ってしまい、ウイルスの材料であるタンパク質と核酸を新たに作り出してしまいます。このとき細胞はウイルスから解き放たれた遺伝子によって乗っ取られているのです!

その後はどんどん増える

こうして作られたウイルスの材料は、再び殻の中にひもが入ってウイルスの形となって外に飛び出すわけです。こうしてウイルスは次々と細胞の中に入っていき、殻とひもを作らせてどんどん増えていきます。
これがウイルス感染の実態です。

ウイルスの巧みな生存戦略

ここでお気づきになりましたでしょうか。ウイルスというのは実は遺伝子の運び屋なのです。ウイルスの殻は細胞に上手く侵入するためにあります。侵入したら役目を終える存在です。

細胞の中では遺伝子だけが一人歩きし、細胞を乗っとります。そうして、自分の子孫をどんどん作らせるのです。非常に巧みな戦略が、そこにはあるのです。

ウイルスに感染した細胞はどうなるの?

ウイルス 免疫 勢籏剛

細胞の中でウイルスが一気に増殖した場合、細胞そのものは正常な機能を保っていられなくなり死んでしまいます。ウイルスが細胞の膜を破って外に出る場合もあるので、それによって細胞が死んでしまうこともあります。

細胞を生かしながら自分が生きる場所を確保する

また、ウイルスは一度にたくさん増えずにジワジワ増えることで、細胞を生かしつつ自分が増える場を確保したままずっと感染し続けることもあります。それを『持続感染』と呼びます。

このようにウイルス自体も生きていくために、その種類によってさまざまな戦略をとっているのです。そのため、細胞へのダメージ、そして動物に起こる病気もただの風邪だったり、下痢だったり、さらには白血病だったりと様々なのです。

ウイルスと戦うために

ウイルス 免疫 勢籏剛

今回は、ウイルスそのものと感染の仕組みをご紹介しました。ウイルス感染の仕組みとウイルスの巧みな生存戦略について、お分かりいただけましたか?

動物のからだは、そんなウイルスと戦う機能をちゃんと備えています。それが「免疫」です。

次回は、動物たちの免疫の仕組みについてお話しさせていただきます。

参考文献
  • 『感染症科診療パーフェクトガイド 犬・猫・エキゾチック動物』監修:長谷川篤彦、発行:学窓社
  • 公開日:

    2020.10.31

  • 更新日:

    2020.11.16

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ライター・監修者プロフィール
  • 監修者:勢籏 剛
  • 獣医師、獣医学博士、動物予防医療普及協会 学術顧問
  • 専門分野は犬猫の感染症、免疫、ワクチン。酪農学園大学獣医学部卒業後、動物用ワクチンメーカーの研究者として主に犬のワクチンの研究開発に12年間携わる。犬の感染症の研究で博士(獣医学)を取得。現在は民間企業で獣医師として働く傍ら、犬猫の感染症について確かな情報を提供するために、最新情報の収集に努めています。