みなさんは、新型コロナウイルス感染症がこれほどまでに生活を不自由にさせることは想像すらしていなかったのではないでしょうか。かく言うわたしも、たったひとつの感染症がまたたく間に世界中に広がり、わたし達の生活様式をここまで変えてしまうとは想像していませんでした。
今は世界中の人々が、新型コロナウイルス感染症に対するワクチンが開発され、届くことを熱望していると思います。それほど、感染症をコントロールすることにおいて『ワクチン』は重要なツールなのです。
感染症にはわたし達人間と同じく、犬や猫にもたくさんの種類があります。そして、その中には『ワクチン』で予防できる感染症もあります。飼い主のみなさまは、定期的に動物病院で接種しているワクチンについて、どれくらい知っていますでしょうか?また、犬や猫にはどのような感染症があって、ワクチンはどうやって病気を防ぐことができるか知っていますでしょうか?
わたしは犬と猫のワクチンの研究をしてきた感染症の専門家として、飼い主のみなさまに『ワクチン』について正しく理解してほしいことがたくさんあります。
改めまして自己紹介させていただきます。獣医師・獣医学博士の勢籏 剛(せはた ごう)です。
わたしは1980年に生まれ、千葉県にある緑豊かな八千代市という場所で育ちました。獣医師としての専門は、犬と猫の感染症、免疫、そしてワクチンになります。
わたしは北海道にある酪農学園大学で獣医学を学び、獣医師免許を取得してから、動物用のワクチンをつくるメーカーで12年間、研究開発をしていました。
実は獣医師の職種はとても幅広く、動物病院で働く獣医さんだけではなく、わたしのように企業で研究する獣医師もおります。
そもそもわたしが大学の獣医学部に入ったのは、動物病院で働く獣医さんになりたかったからです。それが、いつの間にかワクチンの研究者になってしまったのです。笑 どこで変わってしまったのでしょう。少しお話させてください。
獣医の大学は6年間通うのですが、わたしも大学4年生ぐらいまでは、動物病院の獣医さんになるつもりで勉強をしていました。ですが、わたしはもともとラジコンとかパソコンを自作したりすることを趣味にしているマニアックな人間でして、獣医学についても、勉強していくにつれて他の人が興味をもちにくいマニアックなことに、どんどん興味が向いていったんですね。
大学4年生になると、獣医学生は研究室に所属します。当時、多くの学生は内科や外科、病理学などの研究室に所属するのですが、少し人と違う道を歩みたがるわたしは、あろうことかあまり人気のない放射線研究室を“選んでしまった”のです。
放射線研究室では、動物の診療などは一切行いません。マウスや細胞に放射線を当てて、体内で(しかも細胞レベルで)どういう変化が起こるかを研究する、というすごく地味なことをやっていました。(今を思うとすごく大事な研究だったと思いますが、当時は全く思っていなかった・・・)
でも、わたしにとっては、実はそれがすごく興味深かったのです。ひとつひとつコツコツと実験をしていくと、結果がわかってくるという『研究』という分野に心を奪われたのです。細胞に強い放射線を当てると、細胞のDNAは壊れてしまうのですが、細胞はちゃんとそれを修復する機能が備わっています。その働きについてコツコツ実験をしていました。その時、わたしは動物病院の獣医さんではなく『研究する獣医師』になりたいと思ったのです。そして、わたしに進路の光を灯してくれた研究室の教授には、とても感謝しております。
こうして、あっという間に研究室での時間が過ぎ、気づいた時にはすでに大学6年生、企業の就職活動シーズンはとっくに終わっていました。それまで動物病院で働きたいと考えていたわたしは、一般的な就職活動はせずに、地元の動物病院に見学や実習に行って卒業後の勤め先を探していました。そこから遅すぎるほどの就職活動を始めてみたのですが、当然、就職したいと思える製薬会社のエントリーは“全て”終わっていました。
身動きがとれず、途方に暮れていたわたし。ある日、そんな姿を見た研究室の教授が、ワクチンメーカーの求人票を持ってきてくれました。就職活動をまったくしていなかったわたしは、そこで初めて動物用のワクチンの研究開発をする仕事を知ったのです。思い返すと、それがわたしの“人生のターニングポイント”であったと思います。
勢籏(ワクチンかぁ、やったことないけど、研究したいし面白そうだな。)
そう思い、とりあえず面接を受けてみたら、あれよあれよと受かってしまったのです。笑 じゃあやってみるか、とその会社に決めてしまいました(実はその会社はボーナスが多かったという理由もあるのですが・・・笑)。そんなこんなで導かれるように、わたしはワクチンの研究者になったわけです。
マニアックなわたしにとって、ワクチンの世界というものは非常に面白く、どっぷりハマったわけです。動物のからだとウイルスの戦いの仕組みを知れば知るほどのめり込みました。その戦いはからだの中で、進入してくる敵である病原体と、軍隊のように命令されて動く細胞の戦争のようなものが起こっているのです!そして、ワクチンというものは非常に巧妙な仕組みで、動物のからだから感染症を防いでいるのです。
ワクチンメーカーでは、本当に様々な経験をさせてもらいました。犬のワクチンの研究をして、ワクチンを製造することもしていました。だから、ワクチンが全くのゼロから誕生するところから、研究を重ねて効果を確認していくことや、実際に世の中に流通させるために大量に製造することも経験しました。ありがたいことに研究成果をまとめて博士号をいただくこともできました。
現在、新型コロナウイルス感染症に対するワクチンが世界中で待ち望まれていますが、ワクチンをつくることって、一般の方々がとても想像つかないことをやっています。
わたしの妻は、研究者や獣医師ではなく、普通の一般人なのですが、ワクチンがどうやって生まれて作られてくるか、どうやってワクチンが病気を予防するのかを話した時に、何か新しい世界を知ったようにとても興味深く聞いてくれます。
勢籏(やっぱり、ワクチンって、名前だけは聞いたことあるけど、実際のところ何かよく理解されていないんだなぁ。)
そう思ったのと同時に、わたしがいたワクチンの世界は、すごく不思議な世界なんだろうなと気づきました。確かに、ワクチンを理解しようとすると専門的な用語が出てきたりして、とっつきにくいのかなと思います。それなら、飼い主様の誰もが理解できるように、わたしがわかりやすく説明しなければならないなと思ったのです。
わたしは、現在はワクチンの企業をはなれて、改めてワクチンについての情報を発信できる立場になりました。飼い主様に犬と猫の感染症やワクチンのことをわかりやすく伝えたいという想いがあります。
『飼い主さまが、知ることで行動することで防ぐことができるペットの病気があります』
その代表例が感染症です。
ぜひ、この記事で犬と猫の感染症とワクチンについて大事なポイントを理解してほしいと思います。
「犬猫の感染症が専門!獣医学博士による飼い主のためのブログ」記事一覧