熱いアスファルトで肉球を低温火傷してしまうこともありますが、犬が火傷してしまうシチュエーションには、意外にも家の中での症例がほとんどです。「まさか、そんなことで?」と考えがちですが、そこに思わぬ落とし穴があるのです。自宅のありふれたシーンの中で、火傷の危険がある場面はどういったことがあるのでしょうか?詳しく見ていきましょう。
冬の寒い時期はストーブのある環境がありがたいですし、とても幸せに感じますよね。それは人間も犬も同じです。あまりの居心地の良さに、ストーブの前でうつらうつらするなんてことも。
しかし冬場のストーブは絶対に注意が必要です。あまり近付きすぎると犬の毛に火が燃え移ってしまうなど、大火傷をする恐れがありますし、安全に思える灯油式ファンヒーターにしても、近くでずっと温風に当たっていると低温火傷になる可能性もあります。ホットカーペットにも同じことが言えますね。犬が熱いと思った時に移動できる空間は作ってあげましょう。
調理の際に火を使う台所にも危険が潜んでいます。多くのご家庭では、台所に犬が入って来ないようにガードや柵を設置している場合も多いかと思いますが、危険はそれだけではありません。
室内飼いの犬は、台所で何を作っているのか?かなり気になるものです。もしかしたらおこぼれに預かれるかも知れない。そんな期待を込めて台所の前で待っているワンちゃんも多いことでしょう。もし寒い季節に家族で鍋を食べようとした時、あらかじめ台所で煮込んでから食卓に運ぶことがあるかも知れません。すると目の前にいる愛犬が突然飛びついてきたら・・・。その拍子に鍋がひっくり返って大火傷を負わせてしまうことになりかねません。実際にそういった台所での事故が起こっているのです。
火傷の原因で特に多い事例として、家電製品の電気コードをかじってしまい、感電したうえ口腔内に火傷を負うことです。特に噛み癖のあるワンちゃんや、歯が生え変わったばかりの子犬などですね。感電して痛い目を見れば、その後はもうかじらないという声もありますが、やはり事故を予測した上で予防措置はしておくべきでしょう。
犬の「火傷」とは、現在では「熱傷(ねっしょう)」と呼ばれ、熱による皮膚へのダメージ全般のことを言います。具体的にどのような火傷のケースがあるのでしょうか?見ていきましょう。
犬の火傷でよく耳にするのが「低温やけど」。これも熱傷のひとつです。短時間であれば問題の少ない程度の熱が、長時間皮膚に接触したことによって「低温やけど」が引き起こされます。一般的に熱源が44度の場合に約6~10時間程で「低温やけど」となります。主な原因は、ホッカイロ・湯たんぽ・ホットカーペットなどで飼い主さんが気付かないうちに低温やけどしているケースが多く見られます。
火傷は重症度の負荷さによってI・Ⅱa・Ⅱb・Ⅲに分類されます。Iレベルでは、熱源の到達度合いが表皮までとなっており、皮膚が赤くなったり痛みを発したりしますが、数日で自然治癒するレベルと定義されています。
Ⅱaレベルは、赤みや痛みのほか、水膨れになったりすることもあり、治療に10~2週間ほど要します。Ⅱbレベルは、赤み・痛み・水ぶくれのほか、真皮を構成しているコラーゲンが破壊されてしまうため、軽度のケロイドが形成されます。ここまで到達してしまうと治療には1ヶ月以上を要します。
最後に、Ⅲレベルは血管や繊維細胞までが熱によって破壊されるため、組織が再生することはありません。
何かの拍子で愛犬が火傷を負ってしまった場合には、早期に動物病院を受診しましょう。また、飼い主さんがするべき対処法もありますので、ポイントを押さえておきましょう。手早く的確に処置することによって、治りが早くなることもあります。
人間の火傷と同じように、まず患部を氷嚢や氷水などでよく冷やして炎症の激化を抑えます。犬には被毛がありますから、長い毛の子ほど患部の確認が難しくなります。しかし何とかして赤くなっている部分を探し出してください。また広範囲にわたって火傷を負っている場合は、水を溜めた浴槽に浸したり、濡れたタオルなどで体を冷やします。
おそらく痛さと不安で犬が暴れることも考えられますが、家族みんなで犬に声を掛けながら処置するようにしてください。
自宅での応急処置ができたら獣医師の診察を受けるようにしましょう。ただし連絡せずに動物病院等へ行くことは避けましょう。病院側に受け入れる態勢を取ってもらうため、事前に電話を掛けて「どのような状態か?」「どこの部位を火傷したか?」「緊急性があるかどうか」等を詳しく伝えるようにしましょう。
動物病院等へ移動する際は、安静を保つためになるべくマイカーを使ったほうが良いでしょう。ペットタクシーでも良いと思います。また火傷が重いようであれば、水に浸した脱脂綿を患部に当てることも忘れないようにしましょう。
犬が痛い思いをせずに暮らすために、飼い主さんに出来ることは火傷のリスクを減らすことです。まず自宅に潜む危険な要因を排除することから始めていきましょう。
ペットケージを一回り小さくしたような柵がストーブガードです。ストーブを囲うように設置することで、犬が近付き過ぎないようにするためのものです。これなら火傷する心配がありませんよね。石油ストーブ用、ファンヒーター用といった種別があります。
感電防止のために電気コードカバーを取り付けましょう。スパイラルチューブになっているので曲がりにも強く、高い耐久性があります。電気コードを入れやすいスリットも入っていますから施工性は良好です。ワンちゃんが噛むと苦みを感じる成分が入っていますから、他の用途にも使えそうですね。
普通の生活をしていて、犬が火傷を負うなんて飼い主さんにとっては「まさか!」の出来事です。しかしそんな想定外なことだからこそ、いざ直面すればパニックになったり慌てたりするわけですね。危険はどこにでも存在しているものですので、「まさか」の危険性を意識して、しっかりと対策を講じていけるといいですね。
加藤 みゆき/獣医師
日本獣医生命科学大学(旧・日本獣医畜産学部)を卒業後、獣医師として埼玉県内の動物病院にて犬・猫・小鳥の小動物臨床とホリスティック医療を経験。その後、小動物臨床専門誌の編集者を勤めた後、現在は都内の動物病院にて臨床に従事。
日々発展する小動物臨床の知識を常にアップデートし、犬に関する情報を通じて皆様と愛犬との暮らしがより豊かなものとなるように勉強を重ねて参ります。