カプノサイトファーガ感染症は、犬や猫の口腔内に常在している菌を原因として発症する人間の感染症です。日本では年間約6,000件の咬傷事故が保健所に報告されていますが、咬傷事故等の発生数に対して報告されている患者数は非常に少ないことから、極めて稀にしか発症していないと考えられます。
原因となる菌は犬や猫の口腔内に常に存在している菌ですので、犬や猫が保菌していても基本的には症状を示しません。
犬や猫に咬まれたり、引っ掻かれることで人に感染します。ごく小さな傷からでも菌が侵入し、感染するので注意が必要です。傷の状態と潜伏期次第では、病院を受診したときには傷が治ってしまっていて、病気が特定されない場合もあります。
日本国内においては1993年から2017年までの間に93症例の感染報告があり、そのうち19例が死亡しており、致死率は約20%です。
人から人への感染報告はありません。
1~14日(多くは1~5日)の潜伏期間の後、受傷部位には病変を作らず、発熱、倦怠感、腹痛、吐き気、頭痛などの症状が現われます。全身症状を発症すると進行が早く、致命的です。重症化した例では敗血症を示すことが最も多いですが、更に播種性血管内凝固症候群(DIC)、敗血症性ショックや多臓器不全などの重篤な症状に進行することがあります。
犬のカプノサイトファーガ感染症は、カプノサイトファーガ・カニモルサスという細菌によって引き起こされます。国内の犬では74~82%、猫では57~64%がカプノサイトファーガ・カニモルサスを保菌しているという報告があります。
カプノサイトファーガ・カルモニサスは犬や猫の口腔内の常在菌であるため、主に犬や猫に咬まれたり引っ掻かれることによっで感染します。
犬とキスをするなど、日頃から過度なスキンシップを取る人や、怪我をして外傷のある人はカプノサイトファーガ感染症にかかるリスクが高いと考えられます。高齢者や基礎疾患のある人など、免疫機能が低下している場合には重症化しやすいので特に注意が必要です。
カプノサイトファーガ感染症が疑われる場合には、なるべく早いうちに抗菌薬などによる治療を開始することが大切です。抗菌薬には、一般的にペニシリン系やテトラサイクリン系が用いられています。
カプノサイトファーガ感染症は症例が少なく、実際の治療にかかる費用はよく分かっていません。抗菌剤の投与のみで回復する場合には治療費は抑えられると考えられますが、重症化し、入院治療が必要になる場合には高額になるでしょう。
犬や猫との過度なスキンシップは避け、咬まれたり引っ掻かれないよう注意しましょう。もし咬まれたり引っ掻かれたときには、傷口を流水と石鹸でよく洗い、なるべく早く病院で治療を受けましょう。猫の飼い主さんは、定期的に爪を切っておくと良いでしょう。
症状が軽くなったからと抗菌剤の投与などを途中でやめてしまうと、再発する可能性があります。医師の指示どおりにきちんと治療を受けることが大切です。
カプノサイトファーガ感染症の原因菌は犬や猫の常在菌であるため、犬猫と暮らしを共にする以上、排除することはできません。飼っている犬や猫が保菌していることを前提に、顔を舐めさせる、キスなどの過度な触れ合いはできるだけ避けるようにしましょう。
加藤 みゆき/獣医師
日本獣医生命科学大学(旧・日本獣医畜産学部)を卒業後、獣医師として埼玉県内の動物病院にて犬・猫・小鳥の小動物臨床とホリスティック医療を経験。その後、小動物臨床専門誌の編集者を勤めた後、現在は都内の動物病院にて臨床に従事。
日々発展する小動物臨床の知識を常にアップデートし、犬に関する情報を通じて皆様と愛犬との暮らしがより豊かなものとなるように勉強を重ねて参ります。