胃が膨れ上がる胃拡張と、胃が捻じれる胃捻転とはセットだと考えて良いかも知れません。なぜなら急性胃拡張が起こった直後に胃捻転になるケースが圧倒的に多く、そのまま放置してしまえば数時間で危険な状態となってしまうからです。
何らかの原因で胃の中にガスがたまり、捻じれ現象が起こると、胃の入り口と出口が閉塞されて吐き気を覚えます。しかし吐物が出ない状態が続いて、次第に呼吸も荒くなってしまい、大きな血管を圧迫することで脈拍が低下してしまい、ショック状態に陥ることも少なくありません。
胃拡張は食べた直後ではなく、食べてから数時間後に起こることが多いとされています。例えば、夜にごはんを食べる犬の場合、夜中や明け方に発症してしまうケースが多く、そういったケースに備え、あらかじめ救命・救急処置が可能な獣医師さんを探しておくことが必要とされます。
胃拡張になった場合、犬は不快感を覚えると思いますが、飼い主さんがそれに気付くケースは稀で、多くは胃捻転を併発してから大変な事態になったことに気付きます。
伝染性の疾患ではありませんので、他の犬や人にうつることはありません。
胃拡張に伴う胃捻転という疾患がなぜ起こるのか?はっきりとしたことは分かっていないのが現状となりますが、要因となることがいくつか挙げられます。
本来なら適量を与えるはずのドライフードを大量に食べてしまい、さらに多くの水を飲んだことで胃が拡張してしまいます。 またそれに伴ってガスも発生しますので、胃が膨れ上がった状態になってしまいます。 また、食事後すぐに運動をさせることで胃捻転が誘発されてしまうこともあるので注意が必要です。
胃拡張が起こる要因については遺伝的要因も指摘されています。また胸の深い犬種であるグレート・デンやジャーマン・シェパードなど大型犬のオスに起こりやすいとされています。中型犬・小型犬がかからないということはなく、ダックスフンドなども好発犬種として知られていますね。いずれにしても、胃の蠕動運動があまり活発ではないときに起こりやすいということは言えるでしょう。
犬が高齢になると、胃の周辺にある靭帯に張りがなくなってきます。するとどうなるでしょう。胃を支える靭帯が伸びてしまい、全体的に胃の位置が下がってしまいます。特に深い腹腔を持つ大型犬ほど、摂取した食べ物が滞留しやすくなり、発酵してガスが発生してしまうのです。
もう一度おさらいになりますが、好発犬種として腹腔の深い大型犬はかかりやすいと言えるでしょう。
・グレート・デン
・ジャーマン・シェパード
・ボクサー
・セントバーナード
・アイリッシュ・セターなど
またかかりやすい年齢としては、高齢期となるに従って顕著になります。多くの症例では大型犬の5~6歳以降に現れることが多いと言われています。
胃拡張・胃捻転を併発しているとショック状態になっていることも多く、点滴や不整脈の治療などが行われます。また胃拡張を緩和するために口からチューブを入れて胃内のガスを抜く減圧処置が施されます。緊急を要する場合は開腹手術が先になる場合もあります。
手術する際、部分的に胃を切除することもありますが、胃の状態を修復し、しっかり胃を腹壁に固定して再捻転を防ぐことが重要になりますね。また手術後は胃の運動改善薬を投与し、再発防止のために食餌管理が求められます。
治療にかかる費用は決して安くはありません。胃拡張から胃捻転を併発した場合、治療期間を3週間として考えます。
・手術費17万円(手術前処置や検査、入院費などを含む)
・通院費1日5千円ほど。3回通院したとする。
単純に計算しただけで約18万円ほどかかりますが、不整脈や他の臓器の捻転、血管圧迫に伴う血液凝固などを併発した場合、治療期間はさらに長くなりますし、治療費も高くなってしまいます。
犬の胃拡張を予防するために気を付けて頂きたいことは、まず胃にガスが溜まりにくくすることです。一度にたくさんのフードを与えず、1日のうち何回かに小分けして与えるようにしましょう。フードもなるべく消化に良いものが望ましいですね。
また胃捻転を予防するために、食後に急激な運動をさせることは避けましょう。十分な休息を取らせることが大切です。
一旦、胃拡張の症状が治っても再発のリスクは付きまといます。そのため食餌や運動に関して飼い主さんでしっかり管理する必要があります。また胃捻転の再発を予防するために、ガストロペクシー(胃壁固定具)を使った予防胃固定術を受けることもできます。
胃拡張・胃捻転は、人間ですら発症すると七転八倒の苦しみだと言います。ましてや愛犬がかかってしまった場合、その処置は一刻を争います。どのような病気もそうなのですが、急病になった際、すぐに頼れる動物病院等を事前に探しておくことが求められます。早めに適切な処置ができれば多くの場合、また元気いっぱいに遊べるので、愛犬の命を背負っている責任を感じて、行動してあげてください。
加藤 みゆき/獣医師
日本獣医生命科学大学(旧・日本獣医畜産学部)を卒業後、獣医師として埼玉県内の動物病院にて犬・猫・小鳥の小動物臨床とホリスティック医療を経験。その後、小動物臨床専門誌の編集者を勤めた後、現在は都内の動物病院にて臨床に従事。
日々発展する小動物臨床の知識を常にアップデートし、犬に関する情報を通じて皆様と愛犬との暮らしがより豊かなものとなるように勉強を重ねて参ります。