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健康管理 / 病気

2020.07.31

【獣医師監修】犬の眼振・目が揺れている状態から考えられる病気とは?

犬は外敵から身を守るために黒目がちな瞳をしていると言われています。また意識を集中してどこか1点だけを見つめていることも多い動物ですよね。そんな犬の瞳が小刻みに揺れていたり、痙攣を起こしたように動いていることを『眼振(がんしん)』と呼びますが、この症状は、前庭疾患と呼ばれる疾患の症状の1つであることがあります。今回は犬の眼振・目が揺れている状態から考えられる病気について解説していきます。

Author :監修:加藤 みゆき/獣医師(文:docdog編集部)

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犬の眼振・目が揺れている状態とは?

犬 眼振

まず、眼振(がんしん)とは、どのような状態を指すのでしょうか?眼振とは、犬の両目が自分の意思とは関係なしに、小刻みに左右・上下に揺れていたり、視点が定まらずに眼球が痙攣を起こしたように動いている状態のことを指します。通常、眼振が起きる場合には、その他に、めまいが起きたり、物が揺れて見えたり、その他の全身の症状を伴うことが大半であるため、眼振とはいわゆる目が回ってしまった状態のことを言います。

そして、このような眼振の症状が起きる原因として考えられる病気が前庭系の病気=前庭疾患です。眼球が揺れる方向が縦方向か横方向かなどによって病態を把握するヒントになることもあります。

愛犬の気持ちをもっと理解したいなら

もし前庭疾患(眼振)の状態を自分自身で体験してみたい場合は、周囲に危ないものがないか等の安全を確認した上で回転する椅子に座ったまま30秒ほどグルグル回ってみることです。想像するだけでも分かるかもしれませんが、回り終わった後、まっすぐに歩くことができないと思います。このとき、自分の目は「眼振」している状態となり、前庭疾患の犬に起きている状態となります。

犬の眼振から考えられる病気|前庭疾患とは?

犬 眼振

前庭疾患の一般的な症状は、目が回ったように揺れる状態である眼振の他に、首をかしげたような状態になる捻転斜頸、平衡感覚を失ったことによって起こる転倒・運動失調などが挙げられます。

眼と頭の位置を正常に保つとともに、身体の平衡感覚を正常に維持するための中枢神経系(小脳や脳幹)と末梢神経系(耳の中にある平衡感覚のセンサーと脳に繋がる神経)からなる前庭系と呼ばれる神経があります。ここに異常が起きる病気を総じて「前庭疾患」と言い、この病気は、内耳・中耳・小脳に悪さをする病気に由来し、その背景には複数の原因となる疾患が挙げられます。

さらに前庭疾患の原因は大きく分けて、1.耳の中(内耳)や耳と小脳や延髄をつなぐ前庭神経に異常があるものを末梢性前庭(内耳)疾患、2.延髄や小脳に異常があるものを中枢性前庭(脳幹・小脳)疾患と呼び、2つに分類することが出来ます。

1.末梢性前庭(内耳)疾患

末梢性前庭疾患の原因は、中耳炎・内耳炎、特発性前庭疾患が多く、過去の報告では末梢性前庭疾患の中で中耳炎・内耳炎が原因とされるものが約49%、特発性前庭疾患が約39%となっています。

中耳炎・内耳炎は外耳道内の感染が中耳を経て内耳に拡がることで、捻転斜頸や眼振といった症状が出ます。多くの原因が細菌性で、キャバリア・キングチャールズ・スパニエルやフレンチ・ブルドッグなどの犬種で多く遭遇します。

特発性前庭疾患はあらゆる年齢で発症しますが、特に高齢犬において遭遇するケースが多く、老齢性前庭疾患と呼ばれることもあります。特発性前庭疾患とは原因不明の前庭障害であり、様々な検査で異常が認められず、原因が不明な場合に診断される病気となります。

<眼振の原因と考えられる末梢性前庭(内耳)疾患>
・中耳炎
・内耳炎
・特発性前庭疾患

2.中枢性前庭(脳幹・小脳)疾患

中枢性前庭疾患の原因には、髄膜脳炎や小脳梗塞などの血管病変、腫瘍などが挙げられます。末梢性前庭疾患の患者のように捻転斜頸などの前庭症状のみを主訴に来院するケースもありますが、発作や目が見えないといった大脳や間脳の症状を併発しているケースの方が多く見られます。

髄膜脳炎には、細菌などの病原体が原因の場合とそうでない場合があります。犬に多い非感染性の場合は、壊死性脳炎、肉芽腫性髄膜脳脊髄炎といった原因不明の髄膜脳炎によるものが挙げられます。これらの疾患の原因は明らかにされていませんが、主に自己免疫疾患が疑われています。

発生が稀な感染性の原因としては、ステロイド反応性髄膜脳炎や犬ジステンパーウイルスといったウイルスが原因の疾患のほか、内耳炎から髄膜および脳へ波及した細菌感染を疑うケースもあります。まれですが、鼻などを経由した真菌(かび)による髄膜脳炎も存在します。

何らかの原因で小脳の動脈が詰まり、血が流れない虚血や出血が生じた結果、中枢性の前庭障害を発症します。高齢犬に多くみられ、急性発症する前庭症状のほか、運動失調、瞬きが消失するといった小脳症状が現れます。しかし発症から数時間経過後は、症状は進行しないのが特徴です。

また腫瘍病変による中枢性前庭疾患もしばしばみられます。

<眼振の原因と考えられる中枢性前庭(脳幹・小脳)疾患>
・髄膜脳炎
 (非感染性)壊死性脳炎、肉芽腫性髄膜脳脊髄炎
 (感染性)犬ジステンパーウイルス、細菌感染
・小脳梗塞
・腫瘍

前庭疾患の診断方法とは?

眼振をはじめとする症状が見られた場合、前庭疾患に遭遇した場合には、神経学的検査という神経の反射をみる検査を行い、大まかな部位を推定します。それと同時に耳鏡検査によって外耳道や鼓膜の観察、また外耳道炎があるのであれば原因菌の特定のために細菌培養やどの薬が効くのかを調べる抗菌薬感受性検査を行います。さらにMRI検査、CT検査、X線検査といった画像検査や脳脊髄液検査、抗体検査といった各種検査を行い、病気の原因を突き止めていきます。

犬に眼振の症状が見られたら?前庭疾患の治療法とは?

犬 眼振

犬に眼振の症状が見られたら、迷うことなく動物病院を受診しましょう。ここからは前庭疾患の原因となる主な病気の治療法をご紹介します。

中耳炎・内耳炎の治療法

中耳炎・内耳炎の治療法は、適切な細菌やかびに効く薬の投与を行い、場合によっては外耳道や鼓室胞に対する手術が必要なケースもあります。

特発性前庭疾患の治療法

特発性前庭疾患では、捻転斜頸や眼振といった前庭症状そのものに対する治療は存在しませんが、酔ってしまったことによる嘔吐や食欲不振に対する対症療法が必要となります。とりわけ犬では高齢動物での発症が多く、たとえ短期間であっても嘔吐や食欲不振といった消化器症状が続くことで全身状態の悪化につながりやすい傾向が見られますので、そういった症状を緩和する治療が必要とされます。

具体的には、点滴による脱水の改善と、薬による嘔吐や吐き気のコントロールを行なっていきます。前庭疾患の犬は、旋回や転倒を繰り返すコも少なくありません。

眼振が起きた場合の予後・経過は?

犬の特発性前庭疾患の予後は一般に良好です。多くが7~10日で正常に回復しますが、重症例では3~4週間かけて回復するケースもあります。眼振や旋回、食欲不振といった症状が消失しても捻転斜頸だけが残ることもしばしばあります。激しい眼振や旋回が生じていた末梢性前庭疾患の犬でも、1~2日で症状は軽減します。

これは前庭代償とよばれる中枢神経系による代償機構が関与した機能回復であると考えられています。末梢性前庭疾患と中枢性前庭疾患を比較した際、中枢性前庭障害の方が緊急性および重篤度が高くなります。

髄膜脳炎(非感染性)の治療法

髄膜脳炎(非感染性)では、プレドニゾロンと呼ばれるステロイド製剤の投与を行います。ステロイドについては前庭疾患に対して使用しても予後に影響しないとされていますが、専門医の間でも意見・見解の分かれるものです。使用する場合には、必ず感染症(内耳炎や中耳炎)を除外した上で投与し、投与期間は短期間に留めるべきです。しっかりと医師の治療方針を聞き、理解・納得した上で、愛犬に処置してもらえるようにしましょう。なお、発生自体が稀な感染性の場合には、抗生剤の投与などが求められます。

小脳梗塞の治療法

現在では有効な治療法は確立されていません。しかし、中枢性前庭疾患の中でも、小脳梗塞の症例は比較的短期間で改善がみられ、おおむね予後良好であることが知られています。

犬に眼振の症状が見られたら動物病院へ

犬 眼振

今回は犬の眼振・目が揺れている症状から考えられる病気をご紹介しました。もしも愛犬に眼振の症状が見られた場合には、落ち着いて、すぐに動物病院に連れて行くようにしましょう。もしすぐに動物病院に行けない場合には、後から獣医師に見てもらえるよう動画で眼振の様子を撮影するのも良い手です。眼振が起きて目が回っているとき、愛犬は今までにない状態を体験し、とても怖い思いをしていると考えられます。そのため、愛犬が怪我をしないようにするためにも落ち着けるようにするためにも、クレート等の落ち着ける場所に入れて、飼い主さんが寄り添ってあげるようにすると良いでしょう。視界を遮るのも有効な手です。飼い主さん自身が落ち着いて対処できるよう、犬がかかりやすい病気を認識しておくことが大切です。

◎監修者プロフィール
加藤みゆき 獣医師

加藤 みゆき/獣医師

日本獣医生命科学大学(旧・日本獣医畜産学部)を卒業後、獣医師として埼玉県内の動物病院にて犬・猫・小鳥の小動物臨床とホリスティック医療を経験。その後、小動物臨床専門誌の編集者を勤めた後、現在は都内の動物病院にて臨床に従事。
日々発展する小動物臨床の知識を常にアップデートし、犬に関する情報を通じて皆様と愛犬との暮らしがより豊かなものとなるように勉強を重ねて参ります。

  • 更新日:

    2020.07.31

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