犬のトリコモナス症は、トリコモナス原虫が腸内に寄生することで起こる病気です。トリコモナスのみの単体感染のほかに、ジアルジアと呼ばれる寄生虫との混合で感染している場合もあります。
なお、人間にもトリコモナスの寄生による性感染症の膣トリコモナス症がありますが、こちらはと異なる原虫なので相互に関係しないとされています。
成犬が感染した場合は症状が出ませんが、ジアルジアと共に感染すると下痢の症状が見られます。
子犬がトリコモナス症になったときは下痢の症状が現れ、ベトっとした粘液に血液が混ざったような粘血下痢便の場合もあります。
トリコモナス症は、他の犬だけでなく人にもうつる人獣共通感染症です。しかし、病原性が弱く人に感染する確率は低いと考えられています。
トリコモナス症には、以下に挙げるような感染経路があります。
感染している犬の糞便にはトリコモナス原虫が存在することから、その糞便を何らかの形で健康な犬が口にすると感染します。他の犬の糞便に接触させないようにしましょう。
また、成犬の場合は無症状であるため、もし愛犬が感染していたら愛犬の糞便が感染の原因になってしまいます。そのため、感染していないか検査をしておくことも大切です。
トリコモナス症にかかりやすい特定の犬種はありません。どの犬種も感染のリスクはありますが、免疫力の弱い犬はかかりやすいので子犬や免疫力が落ちている状態の犬は注意が必要です。
一般的にトリコモナス症の治療には、メトロニダゾールという抗原虫薬を用います。獣医師に指示された投薬回数、投薬期間を守って回復を図りましょう。もし下痢が長引いて脱水症状を起こしているときは、点滴も行われます。
動物病院によって異なりますが、トリコモナス症の治療にかかる費用は、1回の通院で3,000~4,000円ほどです。
トリコモナス症は食物アレルギーなどの他の疾患により、症状が悪化することもあります。その場合は、その疾患の治療費もプラスしてかかるので、上記の金額よりも高くなります。
トリコモナスの感染を防ぐためには、散歩のときなどに他の犬の糞便に近づかせないようにしましょう。愛犬が糞便を踏んで、その足を舐めて経口感染してしまうこともあるので注意が必要です。
また、多頭飼いで感染した犬が出た場合は、感染した犬の便の取り扱いに十分に注意しないと健康な同居犬も感染しやすくなります。そのため、定期的に検便をして感染していないかチェックしておくようにしましょう。
抗駆虫薬によってトリコモナスを駆除しますが、投薬治療をしても完全に駆除することが難しい場合もあるため、再発する可能性があります。よって、獣医師に相談のうえ、回復後も定期的に検便をすることをおすすめします。
犬のトリコモナス症は、ジアルジアとの混合感染の場合も少なくありません。その場合、トリコモナスの単体感染よりも症状が重いので、早めに動物病院で診察を受けるようにしましょう。特に子犬は悪化しないように注意が必要です。
また、再発の可能性もあるので、定期的に検便をしておいたほうがよいでしょう。
加藤みゆき/獣医師
日本獣医生命科学大学(旧・日本獣医畜産学部)を卒業後、獣医師として埼玉県内の動物病院にて犬・猫・小鳥の小動物臨床とホリスティック医療を経験。その後、小動物臨床専門誌の編集者を勤めた後、現在は都内の動物病院にて臨床に従事。
日々発展する小動物臨床の知識を常にアップデートし、犬に関する情報を通じて皆様と愛犬との暮らしがより豊かなものとなるように勉強を重ねて参ります。
新井 絵美子/動物ライター
2017年よりフリーランスライターとして、犬や動物関連の記事を中心に執筆活動をおこなう。
過去に、マルチーズと一緒に暮らしていた経験をもとに、犬との生活の魅力や育て方のコツなどを、わかりやすくお伝えします。