ビオフェルミンは犬にも人にも使われる薬剤ですが、そもそもビオフェルミンとはどんな薬剤なのでしょう?
まずは、その成分や効果、種類を見ていきましょう。
動物の腸内には、とんでもなく多くの種類の細菌が生息しています。「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」と呼ばれることもあるこの細菌たちは、それぞれ「群れ」を作って集団で生活し互いにバランスを取りながら腸内環境を整えています。
顕微鏡で腸内を覗くと、この細菌集団たちの共同生活の様子がまるで「お花畑(フローラ)」のように見えるため、「腸内フローラ」と呼ばれるようになりました。
腸内フローラは、食べものを栄養に作り変えたり、身体の免疫力を高めたり、健康を維持するために一躍買っています。腸内フローラのバランスを整えることは、身体のバランスを整えることに直結するので非常に重要なことなのです。
ビオフェルミン製薬から発売されている「新ビオフェルミンS剤」には役割の異なる3つの乳酸菌が含まれており、それらが腸内フローラを整えてくれます。
小腸にすみつく乳酸菌です。乳酸と酢酸を生成して、腸内で有害物質をつくり出す「悪玉菌」の増殖を抑える役割を持っています。悪玉菌が増えると、便秘や下痢に繋がることもあります。
大腸にすみつく乳酸菌で、健康なヒトの腸の研究を重ねて発見されたビフィズス菌です。こちらも「悪玉菌」が増えるのを抑制する働きをします。
小腸にすみつく乳酸菌で、腸内に到着するとスピーディーに増殖して腸内フローラを整えます。他の有益菌が増えるのをサポートする役割を果たします。
3つの乳酸菌が腸内に届くと、それぞれ小腸や大腸で腸内フローラを整えながら悪玉菌が増えるのを抑制します。腸内フローラが整い改善されると、乱れていた便通が整い、下痢・便秘・ガスの発生が改善されます。
実はビオフェルミンには色んな種類があります。その中でも、ビオフェルミンR錠は「耐性乳酸菌製剤」と呼ばれる特殊な薬剤です。抗生剤を服用するとおなかの調子が悪くなることがありますが、これは抗生物質が腸内フローラを崩すからだとされています。
ビオフェルミンR錠は、抗生剤を飲んでいても増殖する性質を持つ乳酸菌が含まれています。そのため、抗生物質が原因で腸内フローラが乱れている状況で使用することができます。
ビオフェルミンには、人間用と動物用があります。犬に与える場合、必ずしも動物用出なければいけないというわけではありませんが、与え方には注意が必要です。
また、与える際には、愛犬をいつも診ている獣医師に相談してからにしましょう。
犬用のビオフェルミンは、人用のものと比べて以下のような違いがあります。
主には、容量と配合成分の違いです。人と犬では身体のサイズ(体重)が異なるため、用量には留意しなければなりません。また、人と比べて犬の場合は胃酸がより強酸なので、胃酸によって死なずに腸まで届くような菌が配合されています。
腸内環境を整えるのに有用で強い副作用がないビオフェルミンですが、実際に愛犬に使用する場合の使用法を見ていきましょう。
通常のビオフェルミン錠剤であれば、犬の体重1kgあたり10~20mgを1日2~3回使用します。
耐性乳酸菌製剤のビオフェルミンRについても、同様に犬の体重1kgあたり10~20mgを1日2~3回が適量です。
チワワに多い2kgくらいの体重の子の場合、ビオフェルミン1錠にビフィズス菌が12mg含まれているので1錠を飲ませます。
また、ミニチュアダックスフンドに多い4kgくらいの体重の子だと、1錠~2錠くらいを飲ませます。
自己判断で愛犬にビオフェルミンを与えることについては特に問題はありませんが、与える際は以下のような点に注意が必要です。
愛犬のお腹の調子が良くないからとビオフェルミンを飲ませたものの、いっこうに効果が見られない・・。ビオフェルミンはあくまで整腸剤ですので、下痢などの不調の原因がほかにある場合は根本的な治療をおこなわなければいけません。
ビオフェルミンを2-3日与えても下痢が止まらないなどといった場合には、早めにかかりつけの動物病院を受診しましょう。その際、愛犬の調子が悪くなる前後の様子や生活を詳しく伝えられるように記録しておくと良いでしょう。
乳酸菌に対するアレルギーを持っている子の場合は、ビオフェルミンを与えることで更に調子が悪くなってしまうことが考えられます。
自己判断で与える場合、愛犬がこれまでビオフェルミンを飲んだことがないのであれば、まずは動物病院で相談することがおすすめです。
ビオフェルミンは過剰に与えても効果が上がる性質のものではありません。反対に、用量が少なすぎてもきちんと効果が得られません。
また、抗生物質を飲んでいる場合は通常のビオフェルミンでは効果が十分に得られないことが考えられます。しっかりとビオフェルミンの効果を期待するには、まず用量用法を守って与えることが大切です。
今回は犬に対するビオフェルミンの使用についてご紹介しました。
下痢に対する対処法として比較的使用しやすいビオフェルミンですが、万能ではありません。下痢の原因には様々なものがあるため、特に長く続く下痢や下痢以外の嘔吐や元気消失などがある場合には安易にビオフェルミンを使用するのではなく、かならず動物病院を受診し獣医師に相談しましょう。
※参考文献:ファームプレス刊 MVM Vol.20 No.129 2011年、南江堂刊 今日の治療薬解説と便覧2010、インターズー刊 犬と猫の治療薬ガイド2017
加藤 みゆき/獣医師
日本獣医生命科学大学(旧・日本獣医畜産学部)を卒業後、獣医師として埼玉県内の動物病院にて犬・猫・小鳥の小動物臨床とホリスティック医療を経験。その後、小動物臨床専門誌の編集者を勤めた後、現在は都内の動物病院にて臨床に従事。
日々発展する小動物臨床の知識を常にアップデートし、犬に関する情報を通じて皆様と愛犬との暮らしがより豊かなものとなるように勉強を重ねて参ります。