
ハーブの語源はラテン語の「herba(ヘルバ)」で、これが英語に変化して「herb」となったと言われています。ハーブと聞くと、特殊な植物のように感じるかもしれませんが、香りの強い植物がハーブと呼ばれています。料理ではスパイスとして使われている植物もハーブの一種です。
スパイスとハーブの違いは、使用する部位によって分けられています。スパイスとして使用するのは主に葉や茎の部分で、料理の香り付や臭み消し、味付けなどに使われます。薬用として使用する場合は、葉、茎、花の他に根や種なども乾燥して使用します。
ハーブにはさまざまな種類があり、それぞれ特徴を生かした利用方法があります。みなさんがよくご存知なのは、キッチンでも育てられる料理用ハーブやガーデニングで人気の園芸用ハーブかもしれません。この他にも、薬用として栽培されているメディカルハーブ、アロマで使用されるハーブがあります。また、最近では、日本で古来から親しまれてきた紫蘇、山椒などの香草を「和ハーブ」と呼び注目されています。たくさんの種類があるハーブですが、犬に与える場合は、薬用として栽培されているメディカルハーブがおすすめです。
ハーブの歴史は、古代エジプトの時代にまで遡ります。医療が発展していなかった古代では、体の不調を治すために植物の力を借りていたのです。古代エジプトでは、あのクレオパトラも入浴剤、香水などとして愛用していたというハーブ。ミイラの防腐剤として、クローブ、シナモン、マジョラム、クミン、アニスなどが使用されていたと言われています。古代エジプト時代から古代ギリシア時代へと伝えられたハーブ。古代ギリシア時代には、ヒポクラテスが医療用として400種類ものハーブを処方したとされています。そして古代ローマ帝国には、さまざまな植物の研究がされ、医療用としてハーブが処方されていました。
ヨーロッパに渡ったハーブは、主に修道院で栽培されていました。また、王侯貴族はハーブガーデンを競って作り、さまざまなハーブを世界各地から取り寄せるようになります。やがて、庶民の間にも浸透したハーブは、香水をはじめさまざまな利用方法が開発され、当時の一大産業となったのです。ヨーロッパ各地でハーブの本格的な研究が始まったのもこの時代です。
日本にも昔から「おばあちゃんの知恵」として、お腹が痛い時にはドクダミを煎じて飲む、火傷をしたらアロエを塗るなど薬草を利用した民間療法が知られています。薬のない時代には、世界各地でさまざまな薬草を上手に利用して健康維持に役立てていたのです。そして、19世紀にはハーブから抽出した成分で世界初の薬「アスピリン」が開発され、現代の医学の礎となっているのです。
古来から人間以上に自然の持つ力に敏感な動物たちは、薬草のピュアな香りや味から本能で自分が必要とする薬草を選び、体調維持のために食べていたのです。現在、私たちと暮らしている犬は、野生の時のように大自然に囲まれているわけではありません。体調が悪い時には、動物病院へ行き薬が処方され、人間と同じような生活を送っています。たまに、散歩中に道端に生えている草を食べることがあるのも、もしかしたら本能で自分に必要な栄養素を補おうとしているのかもしれません。
ハーブは薬効のある天然の植物で、ハーブを健康に役立てることを植物療法と呼びます。化学で作られた薬と違い即効性はありませんが、副作用もほとんどなく、犬のカラダに緩やかに作用することが特徴です。また、種類が豊富で体質や体調に合わせて、数種類のハーブを組み合わせて使用することができることがハーブの特徴です。犬は、本能的に自然な香りや味のハーブが大好きです。病院で処方された薬を嫌がる犬ももしかしたらハーブなら受け入れてくれるかもしれませんね。
ハーブといえば、ミントティーやカモミールティー、たんぽぽコーヒーなどのハーブティーが一般に知られていますが、ハーブティー以外にも犬と相性のいいハーブはいろいろな使い方ができます。
初めてハーブを使用する場合は、手軽に作れるハーブティーがおすすめです。薄めのハーブティーを煮出して、冷やして飲み水の代わりとしたり、フードをふやかす時に使用してみてください。ハーブの味や香りに慣れてきたら、hチーを煮出した茶葉をフードに混ぜてあげることもできます。
体調や体質に合わせたハーブを選び、ミルでパウダー状に細くしたものをご飯のふりかけとして使用します。最近では、デトックスブレンド、免疫ブレンド、リラックスブレンドなど目的別にあらかじめブレンドされた犬用ハーブが販売されているので、目的に合わせてチョイスすることができます。
薄めに作ったハーブティーをスプレー容器に移し替えれば、シャンプー後のリンス代わりやお散歩後の足拭きに使用できます。ハーブスプレーをした後は、皮膚に刷り込んであげることで抗菌・抗炎症作用が期待できます。
ハーブには、虫が嫌う香りや成分のものがあります。化学成分の虫除けは苦手という犬には、手作りのハーブスプレーがおすすめです。市販の虫除けスプレーのように保存はできませんが、犬に優しい虫除けスプレーなら安心して毎日のお散歩に使用できます。
犬たちのヘルスケアに役立つハーブですが、与え方や与えてはいけない場合など使用する時には注意しなくてはいけない点があります。
ハーブは毎日与えることができるものと、定期的に休止期間を必要とするものがあります。最近では、犬用としてハーブブレンドが市販されていますが、パッケージに書かれている注意書きをよく読んで指示に従ってください。また、毎日与えることができるものでも、効果が薄れてしまう可能性があるため、2週間与えたら1週間休むなどの休止期間を入れることがおすすめです。
ハーブの中には、医薬品の効果を妨げるものがあるため病気治療中で薬が処方されている場合や妊娠中の犬は、獣医師に相談をしてから与えるようにしましょう。また、植物に対してアレルギーがある犬も稀に見かけます。そのような犬の場合は、無理にハーブを与えないようにしましょう。
ハーブは、パピーからシニアまで安心して使える植物を使った自然療法です。犬たちのカラダに緩やかに作用するハーブは、特に健康に問題がないパピーの頃から取り入れることができます。「ハーブは難しくて」という方は、例えば夏には紫蘇、冬にはシナモンといったように季節の植物を毎日の食事に少しだけトッピングしてあげてることから始めてみてください。
症状に対してのハーブは専門家による処方が必要となりますが、健康維持のためにあげるなら、市販のハーブミックスを取り入れることができます。筆者も、愛犬には定期的にハーブをあげています。そのおかげか多くの犬たちが不調を訴える梅雨時期や季節の変わり目も、健康に過ごすことができています。ぜひ、犬たちに植物のチカラを与えて、健康な日々を送らせてあげてください。
西村 百合子/ホリスティックケア・カウンセラー、愛玩動物救命士、犬の東洋医学生活管理士2級
ゴールデンレトリバーと暮らして20年以上。今は3代目ディロンと海・湖でSUP、ウインドサーフィンを楽しむ日々を過ごす。初代の愛犬が心臓病を患ったことをきっかけに、ホリスティックケア・カウンセラーの資格を取得。
現在、愛犬のためにハーブ療法・東洋医学などを学んでおり、2014年よりその知識を広めるべく執筆活動を開始。記事を書く上で大切にしていることは常に犬目線を主軸を置き、「正しい」だけでなく「犬オーナーが納得して使える」知識を届ける、ということ。