「かゆくてかゆくてたまらない!」愛犬がやたらと体を掻きむしっていることはありませんか?かゆみにはさまざまな原因がありますが、気にしなくても良い一時的なかゆみと病院に連れて行くべきひどいかゆみの2種類があります。とにかくかゆくて仕方ない!毛が抜けてしまう、皮膚が赤い、かさぶたができている、フケが大量に出るなどの症状が見られたら、疥癬という皮膚病を疑いましょう。
激しいかゆみや炎症、脱毛などを引き起こす疥癬は、ヒゼンダニという目には見えない0.2~0.4mmほどの小さなダニによって起きる皮膚病です。ヒゼンダニにはいくつか種類がありますが、犬が感染するヒゼンダニは『イヌセンコウヒゼンダニ』という種類のダニ。このヒゼンダニは犬に寄生すると皮膚の角質層にトンネルを作り、その中に住みつき、産卵や排便などを行います。これらヒゼンダニの分泌物や糞が強いかゆみを招くのです。ヒゼンダニは感染力が強いことが特徴で、接触感染によって拡大するので注意が必要です。
疥癬の特徴は、重度のかゆみです。初期症状としては、常に体をかゆがり掻きむしっている、特定の部位を舐めているなどの行動が見られます。また、症状が進行すると、赤いポツポツ、脱毛、かさぶたなどが見られます。ヒゼンダニは被毛のない皮膚を好むとされているため、お腹、耳、肘、膝、かかとなどの被毛のない部位で発症するのが一般的です。
ヒゼンダニに犬が感染すると数日でかゆみや赤い発疹が発症します。ヒゼンダニは、20日前後で卵から成虫へと成長していくと言われることから、20日~約1ヶ月程度でダニの数が増え、それに伴ってかゆみは激しくなります。疥癬には、たくさんのダニが寄生することで大量のフケが出る角化型疥癬とヒゼンダニに対してアレルギーを起こすアレルギー型疥癬の2タイプがあります。
たくさんのヒゼンダニの寄生によって、疥癬が重症化すると激しいかゆみだけではなく、リンパの腫れ、発熱などの他に体重減少などの症状が現れることがあり、完治までに数カ月以上かかる可能性があります。
感染力の強いヒゼンダニは、接触するだけで感染する伝染力の強さが特徴です。また、犬だけではなく人にもうつります。ヒゼンダニが寄生している犬を触ったり、抱っこするなどの接触によって感染するため注意が必要です。疥癬と診断された犬と暮らしている場合、多頭飼いでは感染している犬を隔離する必要があります。また、飼い主をはじめ同居している人間にも感染する可能性があります。特に、小さな子供や高齢者は感染しやすいので注意が必要です。人への感染は、犬と接触後24時間以内に、かゆみが起こるとされていますが、犬との接触を避けることで2週間程度で自然治癒すると言われています。
疥癬の原因となるヒゼンダニは、もともとはタヌキなどの野生動物が持っているダニです。野生動物が生息している自然豊かな草原や山などでは、タヌキなどが落としたヒゼンダニが生息しています。そのような場所に出かけた犬が、ヒゼンダニをつけて帰ってくることで疥癬を発症します。感染症である疥癬は、症状のある犬との接触によって感染します。そのため、犬が疥癬を発症する原因はいくつかあります。
疥癬は発症している犬との接触によって感染する病気です。そのため、ドッグラン、トリミングサロン、動物病院などへ行った後に、かゆみの症状を見せたら疥癬を疑いましょう。また、発症している犬と、同じタオルやブラシなどを共有することによっても感染する可能性があるため、こまめな消毒を行っている清潔なトリミングサロンを選ぶようにすることがおすすめです。
ペットショップや保護施設など、不特定多数の犬がいる施設では、疥癬を発症している犬と同じ空間で生活をしていることが多くあります。疥癬は接触によって感染するため、狭い空間に多くの犬が暮らしているような環境にいた犬を迎えた場合は注意が必要です。
疥癬は、子犬やシニアといった抵抗力が低い犬が発症しやすいと言われています。また、ヒゼンダニは被毛のない部分を好むため、ヘアレスの犬種、シングルコートの犬種やトリミングによって被毛を剃ってしまっている犬やサマーカットなどをしている犬は注意が必要です。
伝染力の強い疥癬は、他の犬や人にうつさないためにも、早期発見早期治療が必要となります。あまりにも激しく犬がかゆみの症状を見せている場合には、疥癬を疑い早めに動物病院へ連れて行くことがおすすめです。
疥癬の治療方法としては、まずセロハンテープを皮膚の表面に貼り付けて、感染の有無を確認する皮膚検査やかゆみのある部分の皮膚をかき取って、寄生虫の検出を行う検査が行われます。検査によってヒゼンダニの存在が確認されると、通常はイベルメクチンなどの殺ダニ剤を投与します。症状の度合いによって、投与される薬が異なりますが、初めは滴下型の薬を定期的に投与し、経過を観察します。改善されない場合は、薬の種類を変え完全にヒゼンダニを駆除します。
疥癬の治療には、殺ダニ剤が有効ですがフィラリア症を発症している犬の場合は、この薬によってショック症状を起こす可能性があります。また、コリー種をはじめとする遺伝子変異を持つ犬種は重篤な副作用が出ることから一般的にイベルメクチンは使用されません。
疥癬は少しの接触でも感染する伝染病であるため、多頭飼いの場合はかゆみなどの症状が見られなくても全ての犬に対しての検査が必要となります。また、小さな子供や高齢者が同居している場合も念のため皮膚科を受診することがおすすめです。
疥癬は、犬にとても多い病気です。治療はその犬それぞれの状態によって異なり、治療費や治療期間はまちまちです。目安として、通院1回当たりの平均治療費は4000円前後ですが、動物病院によって異なります。また、治療期間も、1~2ヶ月程度またはそれ以上かかる場合があり、治療期間が長引けばそれに比例して治療費は加算されていきます。なお、かゆみの治療は長期にわたることもあるとされているので、信頼のおける動物病院を選ぶことも大切です。
一度感染してしまうと、かゆみという犬にとって大きなストレスとなる疥癬ですが、予防薬や予防法がないことから注意が必要です。残念なことに、通常のノミ・ダニ駆除薬の効果も期待できません。重症化すると全身の健康状態にも影響するため注意が必要な病気です。
多くの犬が集まるドッグランは、疥癬に感染する可能性が最も高い場所です。ドッグランで遊んだ後は、丁寧なブラッシングとシャンプーを心がけ、1週間以内にかゆみの症状が出た時には、なるべく早く動物病院で受診することがおすすめです。
ヒゼンダニは、治療薬によって駆虫することが可能です。ただし、前述のように疥癬は予防薬がないため、罹患している犬との接触による感染は防げません。あまりにも何度も強いかゆみを発症する場合は、いつも犬が寝ている場所のこまめな掃除や毛布、タオル、ぬいぐるみなどを洗濯し、清潔な生活環境を作るようにしましょう。
疥癬を発症させるヒゼンダニは、通常のダニと違い季節を問わず生息しています。また、いつどこで、愛犬が発症するのかもわからない厄介な病気です。感染している犬との接触を避ける以外に予防法はありませんが、定期的にブラッシングやシャンプーをして常に清潔に保つように心がけることが大切です。また、抵抗力が落ちると重症化しやすくなるため、健康状態にも気を配りましょう。犬のかゆみに気がついた時には、できるだけ早く動物病院を受診して、早期治療を行うことが大切です。
加藤 みゆき/獣医師
日本獣医生命科学大学(旧・日本獣医畜産学部)を卒業後、獣医師として埼玉県内の動物病院にて犬・猫・小鳥の小動物臨床とホリスティック医療を経験。その後、小動物臨床専門誌の編集者を勤めた後、現在は都内の動物病院にて臨床に従事。
日々発展する小動物臨床の知識を常にアップデートし、犬に関する情報を通じて皆様と愛犬との暮らしがより豊かなものとなるように勉強を重ねて参ります。