美味しいドッグフードや手作りご飯を用意しても、いつも変わらずにペロッと5秒で完食してしまう犬たち。量が足りないのだろうか?と心配にもなりますが、犬の早食いは飼い主さんのしつけ次第で治るものではないかもしれません。まずは犬の早食いの理由からご説明します。
犬は野生の狼が祖先であると言われています。野生環境で生活をする動物は、狩りをしたあとに、すぐに食事を済ませなければなりません。なぜなら、ゆっくりと食事をしていると、ほかの動物に食べものを奪われてしまう可能性があるからです。
そのため、犬も野生の頃の食事スタイルを受け継いでおり、現代の生活においても早食いをしているのだと考えられています。
人間の歯はどちらと言えば平たく食べものをすりつぶすのに向いていますが、犬の歯はとがった形をしています。この形状は、食べものをすりつぶすのではなく、生肉などを噛みちぎるのに向いています。このように歯の形状からも犬は咀嚼してゆっくりと味わうといったことが不向きとなっています。そのため、食べものをそのまま丸飲みしているかのようなスピードで一気に食べてしまうんですね。
犬本来の野生的な習性であれば、早食いをすることにも何の問題もないように思えますが、果たして早食い・丸飲みは、犬の身体にとって悪いことなのでしょうか?早食いをすることによるリスク・デメリットをご説明します。
野生環境下で狼が入手できる食べもの・獲物と言えば「生肉」です。新鮮な生肉は柔らかく、酵素たっぷりで消化もスムーズなため、胃腸への負担もあまりかかりません。しかし現代において犬が食べることの多いドライのドッグフードは、さまざまな栄養素が含まれており優れているとは言え、水分含有量が少ないことから消化吸収の場面においては大きく影響を及ぼします。具体的にその影響を見ていきましょう。
成犬であれば早食いをしても食べ物を喉に詰まらせてしまうことは少ないと思いますが、年齢を重ねてシニアと呼ばれる年代になってくると、犬も噛む力・飲み込む力が弱くなります。そのため、成犬の頃のように早食いをしていると、食べものを喉に詰まらせてしまうリスクが高まります。
加えて、ドライのドッグフードは唾液などの少量の水を含むと油分が解け出して粒同士が密着するため、固まって喉に詰まりやすくなるというリスクがあります。老犬になると、飲み込む力の弱まりに加えて吐き出す喉の力も弱くなってしまうため、予めドッグフードに水や鶏肉スープ等を加えてふやかしてから食べさせてあげるといいでしょう。
喉に詰まって上手に吐き出すことが出来ない状態で発見が遅れてしまうと最悪死に至ることもあるため、覚えておきましょう。
ガツガツと早食いをすると、胃が驚いて食べた後にすぐに吐いてしまうことがあります。犬が吐くことは、身体の負担にもなるため、出来れば避けたほうが良いでしょう。吐くことにより胃酸が逆流し、食道炎などの病気に繋がる可能性もあるため、実は吐くことにも注意が必要です。
胃捻転とは、激しい運動の後に食事をしたり、食事をした後に激しい運動をすることで起きてしまう病気と考えられています。詳しい原因は明確にはされていないものの、その名の通り、なんらかの原因で犬の中にガスが溜まることで胃が膨れあがり捻れてしまう病気です。血液が循環しなくなったり、膨らんだ胃が周りの臓器を圧迫するため、すぐに手術が必要になる、とても危険なものです。特に中・大型犬によく見られ、早食い後の運動によるものが原因だと考えられていますので、注意しましょう。
早食いをしてしまうことで満足感を得ずにどんどん食べものを食べてしまうため、早食いは肥満にも繋がると言えます。人間と同じように犬にも満腹中枢があると考えられているため、早食いをして満腹中枢が刺激される前に食べ終えてしまうと、満足感を得られにくく「もっと食べたい!」とご飯を欲するようになってしまいます。
肥満気味のコの場合は、食べるスピードを遅くすることで食べすぎ防止に繋がりますので、飼い主さんがコントロールしてあげましょう。
以上のように、犬が早食いをするリスク・デメリットはたくさんあります。しかし、しつけで早食いをやめさせることはなかなか難しいことと言えます。食事の最中に声をかけて気をそらす等の対策は逆効果になることもありますので、ここで紹介する「犬の早食いを防止・改善する5つの方法」をぜひ試してみてください。
早食いは胃に負担がかかってしまうため、食事を小分けにすることも効果的です。一度の食事で3~4回に小分けにしてフードを与えることで、犬は早食いをしても少しずつ食事を摂ることができます。ダイエットにも効果的な手法となります。
食器の底が凹凸になっていたり口が入りにくいいびつな形状をした「早食い防止用の犬用食器」があります。物理的に食事をしにくくなるように設計されていますので、犬の食べる速度を抑えることができます。
ただ毎日同じフードボウルを使うと犬もコツを掴んできてしまうため、色々な形状の食器を用意しておくといいかもしれません。また、要は犬にとって物理的に食べづらい状態を作れればいいので、いつも使用している食器に、大きめのコングやボールを入れ、食べづらくさせることも効果的であると言えます。
早食い防止用の食器を選ぶ際も、愛犬のサイズに合ったものを選ぶようにしましょう。
ドライフードの早食いは喉に詰まらせるリスクを高めますので、与える場合には水や鶏がらスープなどでふやかして膨張させるといいでしょう。水分の摂取量も増えるので一石二鳥ですね。
早食いは胃に負担がかかってしまうため、食事を小分けにすることも効果的です。
一度の食事で3~4回に小分けしたフードを与えることで、犬は早食いをしても少しずつ食事を摂ることができます。
多頭飼いの場合や、そういった環境で育った経験のある犬の場合、他の犬にフードを取られてしまわないように急いで食べるということがあります。
もし1つのお皿から食べさせていたり、上記策でなかなか改善しないと感じる場合には、愛犬が落ち着いてゆっくり食べられるよう環境づくりにも配慮してみてください。別々のお皿にするのはもちろんのこと、少し犬同士の距離を離してあげたり、別の部屋で食べさせるのも有効な手と言えます。
犬の早食いは、様々なリスク・デメリットがあるため、出来るだけ改善するようにしていく必要があります。 若いうちは大丈夫でも、老犬になったときに身体の機能が弱まり、早食いのリスクが高まります。 早食い防止用の食器を使用したり、食事を小分けにしたりなど、私たち飼い主ができるだけの工夫をすることで、犬の早食いを防止・改善することを考えていきましょう。
阿片 俊介/クロス動物医療センター 主任動物看護師
茨城県出身。日本獣医生命科学大学を卒業し、認定動物看護師の資格を取得。千葉県の動物病院に勤務後、動物用医薬品販売代理店にて動物病院への営業を経験。犬とのより良い暮らしをサポートできるよう、飼い主の方の気持ちに寄り添いながら、安心して正しい情報をお伝えできるよう心がけています。