
まず、「犬」の漢字の成り立ちについてご紹介します。
「犬」の漢字は、立った状態の犬を横から見た姿がもとになって作られました。立った犬の姿を描いたものを90度に立たせた形からけものへんに変化し、「犬」の漢字が誕生したとされています。
「犬」の漢字には、右上に点がついていますが、これは犬の耳を表したものです。「犬の耳なら2つの点になるのでは?」と思うかもしれませんが、先述のように、「犬」の漢字は、横から見た犬の立ち姿が象形化されたものなので、点は1つしかついていないのです。
「犬」と似ている漢字に、「尤」「大」「太」「木」がありますが、「犬」の漢字と成り立ちは関係がありません。間違えないために、これらの漢字の成り立ちについてもご紹介します。
象形文字の「犬」に対し、「他より優れている、とがめること、とはいえ」を意味する「尤」は、形のないものや抽象的なことなど、絵として描きにくいものを点や線で表した指事文字に該当します。
「大」の漢字は、手と足を広げた人間の姿が成り立ちです。手足を広げて立つと、手を体の側面につけた直立の姿勢や座っている姿よりも大きく見えることから、「大きい」という意味を持つ漢字になりました。
「太」は、「泰」の漢字が由来となっています。「太」には、「豊かであるさま」や「ふくれている様子」などの意味があり、もともとは「泰」の漢字が使われていました。やがて「泰」が簡略化され「太」に変化したとされています。
「木」は、立木の形が成り立ちの漢字です。幹、枝、根を「木」として表しています。
「戌」や「狗」も「イヌ」と読みますが、「犬」の漢字とは、以下のような違いがあります。
「狗」も「犬」と同様、動物の「イヌ」を意味する漢字なのですが、「狗」の場合は子犬や小型犬、つまり「小さいイヌ」を指します。「句」は「小さくかがむ」という意味があり、けものへんと組み合わさって子犬や小型犬のことを表す漢字になりました。
とはいえ現在は、例えばチワワやマルチーズをはじめとした小型犬や各犬種の子犬を、「狗」と表すことはほぼなくなっています。
戌年などとして使われている「戌」ですが、もともとは動物の犬とは全く関係ない漢字です。「戌」は旧暦9月を指し、草木が枯れて新たな生命が生まれる、作物を収穫しまとめるという意味が込められているとされています。
本来「戌」は十二支や年月日、時刻や方角に使われていましたが、十二支を覚えやすくするために12種類の動物を当てはめた際、「イヌ=戌」となったと言われています。
「犬」の漢字は、犬の特徴を側面からとらえた姿が成り立ちです。「大」や「太」などは「犬」と特に似ているので、成り立ちが関連しているのかと思いきや、それぞれ全く異なるのは少し意外ではないでしょうか。
また、日常生活で「狗」や「戌」の漢字を使う機会はあまりありませんが、それぞれ「犬」とは違う別の意味を持っていること覚えておきましょう。
新井 絵美子/動物ライター
2017年よりフリーランスライターとして、犬や動物関連の記事を中心に執筆活動をおこなう。
過去に、マルチーズと一緒に暮らしていた経験をもとに、犬との生活の魅力や育て方のコツなどを、わかりやすくお伝えします。