
見た目がそっくりなパグとブルドッグですが、この2犬種は全く違うルーツを持っています。まずは、パグとブルドッグの原産国を比べてみましょう。
中国原産のパグは、しわくちゃの顔、クリっとした大きな瞳につぶれた鼻が特徴の人気犬種です。古代の中国では皇帝の愛玩犬として、またチベットの寺院では番犬としてパグが飼われていたことから、欧米ではチャイニーズパグとも呼ばれています。有名タレントの愛犬としてマスコミへの登場も多く、2018年には日本記念日協会公認のパグ(8月9日)の日が認定されたほどの人気犬種です。
「勇猛で粘り強い」という意味を持つイギリス原産のブルドッグは、イギリス国民の象徴的存在と言われイングリッシュ・ブルドッグとも呼ばれています。もともとは、雄牛と戦う(ブルベイティング)ために育種された獰猛で勇敢な性質を持つ犬種でしたが、ブルベイティングが禁止されると、ブルドッグの存在理由がなくなってしまい、一時は絶滅の危機に瀕したのです。その後、愛好家たちによって家庭犬に向く穏やかなブルドッグが育種され、現在では多くのセレブにも愛される人気犬種となっています。
パグとブルドッグ、どちらも鼻ぺちゃでしわの多い外観はそっくりですが、犬種誕生の歴史が大きく異なるため、個体差はありますが、その性格にもかなり違いが出ています。
皇帝や貴族から愛玩犬として門外不出にされ、大切に育てられてきたパグ。人間にとって最良のパートナードッグとなるために、性格、容姿ともに改良が重ねられてきた犬種です。落ち着いた性格の持ち主で、飼い主のそばにいることが大好き、訓練も比較的入りやすいことで知られています。ただし、過去に甘やかされてきたため、頑固な一面やわがままな面を持ち合わせていることも特徴の一つです。
一方、マスティフを基礎犬として闘うために作出されたブルドッグですが、家庭犬として飼育しやすいように闘犬としての気質をそぎ落とす育種が重ねられました。現在のブルドッグは、温和で勇敢かつ忠誠心の強い性格が特徴です。明るく陽気ですが、マイペースで頑固な一面があり訓練にはあまり向きません。
小型犬のパグと中型犬のブルドッグは、並べばそのサイズの差がはっきりとわかります。具体的にサイズの違いを見てみましょう。
パグは小型犬種の中で最も大きなサイズの犬種です。筋肉質でスクエアなボディで、体高は23~28cm、体重は6~8kgが標準のサイズです。
マッチョでがっしりとした体型のブルドッグは、幅広い肩幅、低い体高の逆三角形のボディで、体高は35~38cm、体重は23~25kgが標準の中型犬です。
パグ、ブルドッグともに鼻ぺちゃ、しわくちゃの顔が特徴ですが、体格や被毛の色を比べてみると大きな違いがあります。
握りこぶしという意味を持つパグはその名の通り、拳を握りしめたようなしわくちゃな顔とがっしりとした四角いカラダが特徴です。潰れた鼻と大きな瞳で黒いマスクをしているような顔そして、長い足、くるっと巻いた尻尾もパグの特徴の一つ。
被毛の色は、シルバー、アプリコット、フォーンまたはブラックがスタンダードとされ、耳、顔などのマーキングは黒いほどいいとされています。滑らかな短毛が特徴ですが、ブラックはシングルコート、フォーンはダブルコートと被毛のタイプが違います。
皮膚がたるんでいる大きな顔と肩幅が広くがっしりとしたカラダがブルドッグの特徴です。ブルドッグには、パグの特徴である黒いマスクは認められず、代わりにアンダーバイトと呼ばれる下顎が突き出た口元も特徴のひとつです。ガニ股のようにも見える太く短い足と短い尻尾、下顎から胸まで大きな皮膚のたるみがあり、過去に闘犬であった名残を感じさせる体型です。
また、ブルドッグは独特の骨格であるため、泳いだり、高いところから飛び降りることができません。パグと同じ短毛ですが、被毛の色は、明るく混じり気のない単色、ブリンドル、レッド、フォーン、ファロー、ホワイト、バイドなど多岐にわたります。
パグをひと回りもふた回りも大きくしたように感じるブルドッグですが、犬種の歴史や性格を知ると、その違いは歴然。特に、ブルドッグは家庭犬にふさわしい容姿と性格を持たせるために、その特徴であるタプタプの皮膚、鼻ぺちゃの顔を強調する育種が行われ、その結果、極端な短頭となってしまったため、多くの病気を抱えた上、短命であることが問題視されています。
また、パグも同様に鼻ぺちゃを強調するあまり、遺伝疾患を持つ犬が多く作出され、生まれながらにして身体的困難を抱えている犬が多いという現実もあります。鼻ぺちゃやブサカワブームによって、人間の手によって作出された一部を極端に強調した容姿を持つこの2犬種。多くのパグやブルドッグが抱える遺伝疾患は、人間の犠牲の結果であることも忘れてはいけません。
西村 百合子/ホリスティックケア・カウンセラー、愛玩動物救命士
ゴールデンレトリバーと暮らして20年以上。今は3代目ディロンと海・湖でSUP、ウインドサーフィンを楽しむ日々を過ごす。初代の愛犬が心臓病を患ったことをきっかけに、ホリスティックケア・カウンセラーの資格を取得。
現在、愛犬のためにハーブ療法・東洋医学などを学んでおり、2014年よりその知識を広めるべく執筆活動を開始。記事を書く上で大切にしていることは常に犬目線を主軸を置き、「正しい」だけでなく「犬オーナーが納得して使える」知識を届ける、ということ。