
私たちが風邪をひくと、咳が出る、喉が痛くなる、鼻水が出る、鼻づまり、くしゃみ、熱が出るなどの症状が現れます。風邪は、正式には風邪症候群と言って、鼻や喉がウイルスに感染することで炎症が起こる呼吸器の急性炎症のことを指します。
人間がひく風邪の80~90%は、鼻や喉から外気を吸い込んだ時に風邪ウイルスを同時に吸い込むことで感染します。
風邪を引き起こすウイルスは約200種類以上あると言われていますが、代表的なウイルスとして、以下の6種類が挙げられます。
・年間を通じて多いRSウイルス
・鼻風邪の症状が出るライノウイルス
・秋と春?夏に流行するパラインフルエンザウイルス
・プール熱の原因ともなるアデノウイルス
・夏風邪の原因となるエンテロウイルス
・冬に流行するコロナウイルス
この6種類のウイルスの中には、犬が感染するのと同じ名称のパラインフルエンザウイルス、アデノウイルスといったウイルスが含まれていますが、人間が感染するウイルスと犬が感染するウイルスは別のものです。
飼い主が風邪をひくことはよくあることですが、その風邪が犬にうつることはありません。前述のように、人間の風邪はウイルスを吸い込むことによって起こる呼吸器の疾患です。
人間が感染するウイルスと犬が感染するウイルスは異なるため、飼い主が風邪をひいたからといって犬にうつる心配はないのです。
動物病院で「単なる風邪ですね」と告げられる方も多いのではないでしょうか?しかし、実際には犬に「風邪」という病気はありません。
風邪という表現は、飼い主が理解しやすいために使われているのです。では、犬が人間の風邪と似たような症状を起こした時に考えられる病気はあるのでしょうか?
犬も、鼻や気管、肺などが炎症を起こすと人間の風邪と同じような症状を見せることがあります。特に、犬の咳には重篤な病気が隠れていることもあるので注意が必要です。
ここでは、症状別に考えられる病気をご紹介します。
風邪のような症状で最も多い病気が犬風邪とも呼ばれるケンネルコフです。ケンネルコフに感染すると、ゴホゴホと乾いた激しい咳が続きます。
ケンネルコフは感染症であるため、感染している犬の鼻水やくしゃみなどを吸い込むことで感染します。この病気の特徴は、感染力の強さにあります。
そのため、集団感染しやすく、ペットショップやブリーダーの犬舎で感染したり、動物病院の待合室やドッグランなど多くの犬が集まる場所に出かけた時にで感染します。
特に、子犬やシニア犬は抵抗力が弱いため感染のリスクが高いので注意が必要です。
安静時にケッケッと乾いた咳を繰り返しする場合は、喉頭炎、気管支炎、気管虚脱などの他に心臓病の可能性もあります。
咳をしていることに気がついたら、いつ、どんな状態の時に、どのぐらいの時間咳をしているかを観察して、動物病院に連れて行きましょう。
湿った咳をしている場合に疑われるのは、慢性気管支炎、肺炎、心臓弁膜症、心筋症による肺水腫などです。
この場合も、いつ、どんな状態の時に、どのぐらいの時間咳をしているかを観察して、動物病院に連れて行きましょう。
犬のくしゃみは気温の変化や鼻に異物が入った時、興奮した時などによく起こります。人間のようにウイルス感染でくしゃみをすることは少ないため、まずは経過観察をします。
あまりに、長期間くしゃみが続くような場合は、呼吸器に異物が混入していることも考えられるので、動物病院に連れて行きましょう。
犬は鼻水を垂らすことがよくあります。その原因には2種類あり、透明な鼻水が出る場合は、ホコリや寒い日の冷たい空気が原因です。
また、色のついた鼻水や粘り気のある鼻水、血が混ざっている場合は、アレルギーや呼吸器の病気、鼻の病気の場合があるので動物病院を受診することがおすすめです。
特に、鼻血が混ざっている場合は、鼻腔内腫瘍の可能性もあるため、早めに受診しましょう。
人の風邪も犬の風邪もお互いにうつることはないのですが、人獣共通感染症と言われる動物由来の感染症があります。
ズーノージスとも言われる動物から人へ感染する病気は、人における感染症の中で半数以上が占めると言われています。
犬から人へ感染する病気で、近年大きな話題となっているのが、マダニが媒介するSFTS(重症熱性血小板減少症候群)、ライム病、ダニ媒介脳炎があります。
また、ジフテリアに似た感染症も注目されています。これらの感染症は、犬には症状がない場合が多く、犬から感染した人間は命に関わる重篤な症状となることが特徴です。
感染症は、犬との直接接触によってうつるケースがほとんどであるため、知らない犬にはなるべく触らないようにすることが予防となります。
風邪は犬、人ともにうつしあうことがないことが分かりましたが、もし飼い主が風邪をひいて寝込んでしまった場合や重篤な病気になってしまった場合を想定して、預け先を確保しておくことがおすすめです。
飼い主が病気で寝込んでしまうと、お散歩をはじめとした犬の生活には大きな支障が出ます。旅行などの場合は、あらかじめペットホテルなどを予約することができますが、病気の場合はいつ発症するか予想がつかないため、どんな時でも預けることができる信頼できる預け先やペットシッターを確保しておくことが大切です。
意外と知らない方が多い犬の風邪についてご紹介しました。犬は人間のような風邪をひきませんが、咳やくしゃみ、鼻水といった風邪のような症状を見せることがあります。
人間にとっては風邪程度の症状でも、犬の場合は重篤な病気が隠れている可能性があります。もし、そのような症状に気がついたら様子を見るのではなく、なるべく早く動物病院へ連れて行き、獣医師に詳しく症状を伝えることが大切です。
また、いざという時に頼りになる友人を見つけておくことに加え、日頃から犬と友人の信頼関係を作るようにしておくことがおすすめです。
西村 百合子/ホリスティックケア・カウンセラー、愛玩動物救命士
ゴールデンレトリバーと暮らして20年以上。今は3代目ディロンと海・湖でSUP、ウインドサーフィンを楽しむ日々を過ごす。初代の愛犬が心臓病を患ったことをきっかけに、ホリスティックケア・カウンセラーの資格を取得。
現在、愛犬のためにハーブ療法・東洋医学などを学んでおり、2014年よりその知識を広めるべく執筆活動を開始。記事を書く上で大切にしていることは常に犬目線を主軸を置き、「正しい」だけでなく「犬オーナーが納得して使える」知識を届ける、ということ。