
「エストレラ・マウンテン・ドッグ」は、英語で『Estrela Mountain Dog』と書きます。ポルトガル北部に位置する“エストレラ山脈”に主に生息していたことから、その犬種名が付きました。それでは、まずはエストレラ・マウンテン・ドッグの歴史をご紹介します。
エストレラ・マウンテン・ドッグの歴史については明らかになっていない部分もありますが、古代よりポルトガル北部のエストレラ山脈に生息していて、イベリア半島では最古の犬種の一つと考えられています。エストレラ山脈のふもとから頂上にまで生息し、牧羊犬・番犬としての役割を担っていました。
しばらくの長い間、羊飼いだけに育てられてきたエストレラ・マウンテン・ドッグですが、19世紀頃にはポルトガルの貴族に気に入られ、ペット兼お屋敷の番犬としても重宝されるようになりました。この頃、経済が非常に裕福であったこと等も影響し、とても栄養価の高い贅沢な食事を与えられており、それによって、元々大きかった体格が更に大きくなった、と言われています。
19世紀後半には戦争・牧羊の生業の縮小によって、羊飼いに育てられてきたエストレラ・マウンテン・ドッグたちは絶滅の危機に陥りましたが、貴族によって飼育されたコたちが国外に疎開をしたことによって、現在でも犬種の血が存命しています。
多くの犬種は「昔は●●をしていました」「古くは貴族に・・・」などといった歴史があり、現在は異なる活動をしていることが多いのですが、エストレラ・マウンテン・ドッグは、現在もなお、エストレラ山脈に生息し、牧羊犬としてこの地域に生息する野生動物から羊の群れを守ったり、番犬として家を守る役割を担っています。
ポルトガルの他の地域でもエストレラ・マウンテン・ドッグが点在していますが、これは子犬の頃にこの地域に連れてこられたか、エストレラ山脈地方出身であるブリーダーによって繁殖されたものと考えられています。
エストレラ・マウンテン・ドッグは狼のように大きな体格をしており、山脈で暮らす上での装備としては、短毛タイプ・長毛タイプが存在します。ここでは、体格や被毛の特徴についてご紹介していきます。
身体の大きさの目安は、オスは体高が65~72cm、体重は40~50kgであり、メスは体高が62~68cm、体重は30~40kgです。身体はわずかに膨らみを帯び、引き締まっていて素朴感があります。
被毛の手触りはヤギに似ており、下毛が密に生えているため、山脈の寒さにも耐えることができます。ジャパン・ケネル・クラブか(JKC)によるとカラーはフォーン、ウルフ・グレー、イエローの3色があり、どの色にも共通して顔と耳はブラックです。また、いずれも単色もしくはホワイトのマーキングのみ認められています。
被毛の長さは2タイプあり、短毛の「ショートコートタイプ」と豊かで長い被毛をもつ「ロングコートタイプ」に分けられます。
ロングコートタイプのエストレラ・マウンテン・ドッグの首周りには特徴的で豊かな被毛が生え揃っています。これは、寒い環境下で体温を放熱してしまうことを防いだり、急所である首をオオカミに咬まれた場合に負傷しにくいなど、厳しい生活環境に適した身体に進化したものと考えられています。
知的で威厳があります。見知らぬ人に対する警戒心が強く、迅速に反応できるため軍用犬や警察犬にされることもあります。飼い主に対しては忠実で献身的であり、与えられた仕事をきちんとこなします。
独立心が強いため、他のペットと生活させる場合には子犬の頃から仲良く過ごすようしつける必要があります。飼い主以外にはあまり友好的でないため、いざというときに制止命令を聞くようにしっかりとした服従訓練が必要です。
ただ、エストレラ・マウンテン・ドッグは、現在アメリカやヨーロッパなどで飼育されていますが、いずれも実用犬やショードッグとして活躍していることが多く、一般の家庭での飼育についてはあまり実例がありません。
現在もなおエストレラ山脈に生息するエストレラ・マウンテン・ドッグは羊を守ったり、番犬として大切な役割を果たしています。ペットというよりは実用的に与えられた仕事をこなす犬種であり、運動量も必要で日本では希少な犬であるため簡単に飼育することはできないかもしれません。ポルトガル旅行に行った際などには、ぜひエストレラ・マウンテン・ドッグに想いを馳せてみてくださいね。
江野友紀/認定動物看護士
地域密着型の動物病院にて、動物看護士として14年ほど勤務。看護業務の合間にトリミングもしています。
ドッググルーミングスペシャリスト、コンパニオンドッグトレーナーの資格を保有。
普段の仕事では、飼い主様の様々な疑問や悩みを解消できるよう、親身な対応を心掛けています。
ライターの仕事を通して、犬と人が幸せでより良い生活を送るためのお手伝いさせていただきたいです。