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犬を迎える

2020.01.21

犬の去勢、どう考えますか?知っておくべきリスクや各国の見解

オスの仔犬を迎えるときに直面する問題が「去勢」です。「男の子は去勢しないと飼うのが大変だから」そんな噂を耳にしたり、「前立腺ガンなど病気のリスクを避けられる」と聞いて決断する方もいるのではないでしょうか。
果たして、去勢手術をした犬は、大人しく飼いやすい健康な犬となるのでしょうか?今回は、去勢手術が犬に与えるメリットとデメリットについて解説します。

Author :西村 百合子/ホリスティックケア・カウンセラー、愛玩動物救命士

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犬の去勢は、賛否両論ある選択

犬 去勢

日本では、当たり前のように行われている去勢手術。動物病院によっては、パピー検診時に去勢手術を勧められることがあります。「生殖系の病気予防になる」「おとなしくなる」「マーキングしなくなる」「ストレスが減る」などがメリットとして説明され、獣医師に勧められるがまま手術をする方も多いようです。

しかし、去勢手術は、全身麻酔によって行われるため麻酔のリスク、生殖器以外の病気のリスク、関節系の病気のリスクなどデメリットも存在するのが事実です。知識のないまま手術をしたことで、あとから後悔する結果となったとしても誰も責めることはできません。まずは、飼い主として正しい知識を持ち、安易な選択に踏み切らないことが大切です。

諸外国で分かれる見解

レスキューされた犬を迎える割合が高いアメリカでは、避妊・去勢手術を条例で定めている州があるほど、去勢手術が一般的な認識として広まっています。また、キッチンブリーダー、バックヤードブリーダーと呼ばれる悪徳ブリーダーや、野良犬などによる望まれない繁殖を防ぐ手段として、去勢手術が推奨されています。このことを受けて、日本でも去勢手術が当たり前と思われいる風潮が見られます。

反対に、過去には去勢手術が法律で禁止されていたスウェーデンでは、「望まれない子犬」はほとんど生まれません。その背景には、純血種を保護、繁殖を念頭に置いた知識を持つブリーダーのみが繁殖を行っている現状が挙げられます。また、犬の飼育方法に関しても細かい法律で定められているため、去勢手術を推奨していません。

日本の去勢手術事情は?

「可愛い我が子の子犬の顔が見たい」と家庭内で繁殖が行われることもあれば、一方で「去勢手術は子犬を迎えたら必ずするもの」という認識も両立しているのが日本です。

動物保護団体など、犬のレスキューを行っている団体では、「去勢・否認」を譲渡の絶対条件と掲げているところも多く、最近では「去勢ありき」と考えている方も多いようです。日本はアメリカの姿勢を踏襲し、純血種をブリーダーから迎えた場合でも去勢を第一に考えているケースがまだまだ多いことが現状です。

犬の去勢手術に関する基本知識

犬 去勢

オスの去勢手術は、日帰りか1泊2日でおこなわれることが多く、費用は2~3万円が相場となっています。
動物病院の方針にもよりますが、術前検査や手術後の予後によっては入院が必要となり、これ以上の日数・費用が掛かる場合もあります。

去勢手術でやること

現在の日本では、全身麻酔による外科手術によって睾丸の摘出が行われる手術が主流です。アメリカでは最新の去勢方法として、手術以外の方法が話題となっています。これは、注射や投薬によって行われるため、全身麻酔のリスクから回避できます。しかし、どちらの方法もホルモンバランスが崩れることに間違いはなく、犬の身体に対して最良と言える方法はないと言えます。

犬の去勢手術をするメリットとは?

犬 去勢

犬の身体にメスを入れる去勢手術ですが、全身麻酔、ホルモンバランスの崩れといったリスク以上に得られるメリットはあるのでしょうか?

オスならではの病気の予防

去勢手術によって、前立腺肥大症、前立腺ガン、精巣腫瘍、肛門周囲腺腫など、男性ホルモンが関与する病気の予防になると言われてしまいます。しかし、これらの病気は発症した時に去勢手術をすることによって、再発や転移を防ぐことができると言われているため、幼少期に去勢手術をすることが必ずしもメリットであるとは言えません。

精神的なストレスの軽減

去勢していない犬は、野生の本能としてメスのヒートの匂いを敏感に感じ取ります。その犬の気質にもよりますが、メスの匂いが気になって食欲が減退したり、一晩中鳴き続けたりする場合があり、これは本人にとっても大きなストレスとなります。オスとしての本能が強い場合は、去勢手術をすることによってストレスを軽減できると言われています。

マーキングが減る

マーキングは、自分のテリトリーを示し、強さを強調する行動であると言われています。去勢手術によってマーキングがなくなると説明する獣医師も多いようですが、全くマーキングしなくなるとは言い切れません。室内でのマーキングは回数が減る可能性がありメリットとなりますが、外でのマーキングにはさまざまな意味があり、また個体差も大きいことから、去勢したことでマーキングがなくなるとは言い切れません。

犬の去勢手術には、思わぬリスクも

犬 去勢

去勢手術は、飼い主の判断によって行う医療行為です。そのため、飼い主の去勢手術への知識が大きなカギとなります。去勢手術によってホルモンバランスが崩れることは、大きなリスクを伴うということが最新の研究でわかってきています。
ここでは、去勢手術に際して考えられるリスクをご紹介します。

関節障害を発症する可能性が高くなる

最新の研究では、股関節形成不全、十字靱帯損傷または断裂、肘形成異常といった関節障害の発症率が高まることが分かってきました。特に、股関節形成不全が多いゴールデンレトリバーの場合は、生後6ヶ月以前に去勢手術をした犬の発症率は、未去勢の犬の約5倍になるとされています。また、ラブラドールレトリバーでは、関節障害の発症率が未去勢の犬に比べて2倍になるというデータがあります。

ガンの発症率が増加する

去勢したゴールデンレトリバーと未去勢の子を比べた研究では、骨肉腫、血管肉腫、リンパ腫、肥満細胞腫といったガンの発症率が去勢した犬の方が高くなることが報告されています。

免疫系の疾患の発症リスクが高まる

自己免疫疾患とは、免疫反応の異常によって自分の身体を攻撃してしまう病気です。カリフォルニア大学の研究によると、去勢手術をすることによって、アトピー性皮膚炎、自己免疫性溶血性貧血、重症筋無力症、大腸炎、副腎皮質機能低下症、甲状腺機能低下症など、自己免疫疾患が増加すると報告されています。

太りやすくなる

去勢手術をした犬は太りやすいというのは、比較的よく知られています。これは、ホルモンバランスが崩れることによって、基礎代謝が落ちることが原因であると言われていますが、詳細なメカニズムはよく分かっていません。

小型犬は麻酔のリスクが高い

去勢手術は、全身麻酔をかけて行われます。全身麻酔はどんな犬にもそのリスクが伴いますが、特に小型犬、短頭種、シープドッグなどの牧羊犬種などは、麻酔のリスクが高まるとされています。

犬の去勢で攻撃性は無くならない

犬 去勢

多くの飼い主が勘違いしていることに、去勢すると「おとなしくなる」「攻撃性が減少する」という性質上のメリットが挙げられます。しかし、去勢によって性質が変わることはありません。逆に、去勢することによって臆病になったことから攻撃性が増すケースもあります。

また、犬は匂いでお互いの存在を確認する動物です。昨日までオスの匂いがしていたのに、去勢によってオスの匂いがしなくなったことに他の犬は敏感に反応します。自分に何が起きたのかよく理解できていない犬にとって、他の犬の対応が明らかに変わることは大きな精神的ショックを受けると言われています。

しつけの一端を去勢に頼りがちな傾向がある日本の現状ですが、去勢をする前に飼い主としてやらなければならないことはたくさんあるはずです。一度手術をしてしまえば二度と元に戻すことはできません。なぜ去勢が必要なのか、よく考えてから手術に踏み切ることが犬の健康を守る上で重要なことと言えるのではないでしょうか。

◎ライタープロフィール
西村 百合子

西村 百合子/ホリスティックケア・カウンセラー、愛玩動物救命士

ゴールデンレトリバーと暮らして20年以上。今は3代目ディロンと海・湖でSUP、ウインドサーフィンを楽しむ日々を過ごす。初代の愛犬が心臓病を患ったことをきっかけに、ホリスティックケア・カウンセラーの資格を取得。
現在、愛犬のためにハーブ療法・東洋医学などを学んでおり、2014年よりその知識を広めるべく執筆活動を開始。記事を書く上で大切にしていることは常に犬目線を主軸を置き、「正しい」だけでなく「犬オーナーが納得して使える」知識を届ける、ということ。

  • 更新日:

    2020.01.21

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