magazine

黒と白と茶色の毛の犬が去勢手術のために手術台の上に横たわっている
犬を迎える
鉛筆アイコン

2021.09.28

【獣医師監修】犬の去勢はメリットばかり?知っておくべきリスクや各国の見解

あなたは犬の去勢についてどう考えていますか?最近では病気の予防的な観点、しつけなどの性格の観点や乱繁殖を防ぐべく、去勢手術を行うべきという考えが日本におけるスタンダードになりつつあります。
果たして、去勢手術をした犬は、大人しく飼いやすい健康な犬となるのでしょうか?
今回は、去勢手術が犬に与えるメリットとデメリット・各国における見解の違い等について解説します。記事を参考に、去勢について考えてみましょう。

監修:葛野 莉奈/獣医師、かどのペットクリニック 院長(文:西村 百合子/ホリスティックケア・カウンセラー、愛玩動物救命士)

犬の去勢は賛否両論ある選択

グレーと白の毛の犬が枯葉が落ちる地面の上に立っている

日本では、当たり前のように行われている去勢手術。動物病院によっては、パピー検診時に去勢手術を勧められることがあります。「生殖系の病気予防になる」「おとなしくなる」「マーキングしなくなる」「ストレスが減る」などがメリットとして説明され、獣医師に勧められるがまま手術をする方も多いようです。

しかし、去勢手術は全身麻酔によって行われるため、麻酔のリスク、生殖器以外の病気のリスク、関節系の病気のリスクなどデメリットも存在するのが事実です。知識のないまま手術をしたことで、後悔する結果となったとしても誰も責めることはできません。
まずは、飼い主として正しい知識を持ち、安易な選択に踏み切らないことが大切です。

諸外国で分かれる去勢に関する見解

レスキューされた犬を迎え入れる割合が高いアメリカでは、避妊・去勢手術を条例で定めている州があるほど、犬の去勢手術は一般的な認識として広まっています。

また、キッチンブリーダー、バックヤードブリーダーと呼ばれる悪徳ブリーダーや、野良犬などによる望まれない繁殖を防ぐ手段として、去勢手術が推奨されています。このことを受けて、日本でも去勢手術が当たり前と思われている風潮があります。

反対に、過去には去勢手術が法律で禁止されていたスウェーデンでは、「望まれない子犬」はほとんど生まれません。その背景には、純血種を保護、繁殖を念頭に置いた知識を持つブリーダーのみが繁殖を行っている現状が挙げられます。

また、犬の飼育方法に関しても法律で細かく定められており、犬の去勢手術を推奨していません。

日本の去勢手術事情は?

「かわいい我が子の子犬の顔が見たい」と家庭内で繁殖が行われることもあれば、一方で「去勢手術は子犬を迎えたら必ずするもの」という認識も両立しているのが日本です。

動物保護団体など、犬のレスキューを行っている団体では、「去勢・避妊」を譲渡の絶対条件と掲げているところも多く、最近では「去勢ありき」と考えている方も多いようです。
日本はアメリカの姿勢を踏襲し、純血種をブリーダーから迎えた場合でも、去勢を第一に考えているケースがまだまだ多いことが現状です。

犬の去勢手術に関する基本知識

白と茶色の毛のたくさんの子犬たち

犬の去勢手術は病院によって異なりますが、日帰りまたは1泊2日でおこなわれることが多く、費用は2~3万円が相場となっています。

動物病院の方針にもよりますが、術前検査や手術後の予後によっては入院が必要となり、これ以上の日数・費用が掛かる場合もありますので費用等に関して、手術を決定する前にきちんとかかりつけもしくはお近くの動物病院に事前に確認していただくことをお勧めします。

去勢手術でやること

現在の日本では、全身麻酔による外科手術によって睾丸の摘出が行われる手術が主流です。アメリカでは最新の去勢方法として、手術以外の方法が話題となっており注射や投薬によって行われるため、全身麻酔のリスクから回避できます。

しかし、どちらの方法もホルモンバランスが崩れることに違いはなく、いずれの方法であっても去勢を行うことによるメリット・デメリットは生じてしまいます。

犬の去勢手術をするメリットとは?

ベージュの毛の犬が木の幹にマーキングをしている

犬のカラダにメスを入れることになる去勢手術ですが、全身麻酔・ホルモンバランスの崩れといったリスク以上に得られるメリットはあるのでしょうか?

オスならではの病気を予防できる可能性がある

去勢手術によって、前立腺肥大症、前立腺ガン、精巣腫瘍、肛門周囲腺腫など、男性ホルモンが関与する病気の予防になると言われています。

女の子の場合、避妊手術はできるだけ早い段階で行ったほうが病気の予防率が上がると言われています。

男の子に関しては、手術の時期と予防率の関係性は現段階ではないと言われています。しかし、できるだけ早い時期に行うと、精巣も小さいため傷口が小さくて済むなどのメリットもあります。

生殖に関する精神的なストレスの軽減

去勢していない犬は、野生の本能としてメスのヒートの匂いを敏感に感じ取ります。その犬の気質にもよりますが、メスの匂いが気になって食欲が減退したり、一晩中鳴き続けたりする場合があり、これは犬にとっても大きなストレスとなります。
オスとしての本能が強い場合は、去勢手術をすることによってストレスを軽減できると言われています。

マーキングが減る

オス犬はマーキングをすることでテリトリーを示し、自分の強さを強調する行動であると言われています。去勢手術によってマーキングがなくなると説明する獣医師もいますが、まったくマーキングしなくなるとは言い切れません。
室内でのマーキングは回数が減る可能性があり、メリットとなりますが、外でのマーキングにはさまざまな意味があり、また個体差も大きいことから、去勢したことでマーキングがなくなるとは言い切れません。

犬の去勢手術には、思わぬリスクも

茶色と白の毛の犬2匹がフローリングの上で口と口をくっつけあっている

去勢手術は飼い主の判断によって行う医療行為です。そのため、飼い主の去勢手術への知識が大きなカギとなります。去勢手術をする選択をするとしても、しない選択をするとしても、きちんと去勢手術のメリット・デメリット、そしてどんなリスクがあるかを理解したうえで選択をしなければいけません。

ここでは、去勢手術によるリスクについてご紹介します。

太りやすくなる

去勢手術をした犬は、太りやすいとよく言われています。これはホルモンバランスが崩れることによって、基礎代謝が落ちることや食欲が亢進することが原因であると言われていますが、詳細なメカニズムに関してはよく分かっていません。

麻酔のリスクがある

去勢手術は全身麻酔によって行われます。ほとんどの動物病院で術中に危険な状態に陥らないよう、術前に血液検査などで全身状態のチェックを行ったり、術中も心電図や呼吸数、酸素の濃度などのモニタリングを行うことで管理をしていることが多いです。

しかし、どんな健康な犬でも麻酔を使用する以上、100%の安全保障というものはあり得ません。全身麻酔はどんな犬にもそのリスクが伴います

犬の攻撃性は去勢によって無くならない

白と茶色の毛の犬がもう1匹の犬に噛みつこうとしている

多くの飼い主が勘違いしていることに、去勢すると「おとなしくなる」「攻撃性が減少する」という性質上のメリットが挙げられます。しかし、去勢によって性質が変わることはありません。逆に、去勢することによって臆病になったことから攻撃性が増すケースもあります。

去勢をしてしまうと、二度と元に戻すことはできません。なぜ去勢が必要なのか、よく考えてから手術に踏み切ることが、愛犬の健康を守る上で重要なことと言えるのではないでしょうか。

  • 公開日:

    2020.01.21

  • 更新日:

    2021.09.28

いいなと思ったらシェア
ライター・専門家プロフィール
  • 葛野 莉奈
  • 獣医師、かどのペットクリニック 院長
  • 麻布大学卒。2015年より神奈川県内にてかどのペットクリニックを開業。ながたの皮膚科塾を卒業し、普段の診療でも皮膚科には力を入れております。 私生活では犬8頭と猫2匹と生活しているので、一飼い主として、そして獣医師として飼い主さんと動物たちとの生活がよりよくなることに少しでも貢献できると嬉しいです。