人間にも犬にも女性には性周期と呼ばれるリズムがあります。赤ちゃんを作るのに必要な卵胞が卵巣から排卵されて、子宮に移動し、妊娠に適した黄体期と呼ばれる期間がやってきます。人間ではこの黄体期のときに子宮内の粘膜である子宮内膜が著しく発達し、受精が起こった後の受精卵を保護するベッドのような役割を果たします。妊娠が成立しないと不要となった子宮内膜が脱落し、経血として外陰部から排出され、生理として現れるのです。
犬にも生理のような現象が生じますが、厳密には人間の生理とは異なります。犬における生理は正式には「発情出血」と呼ばれます。これは卵巣で卵胞の排卵に向けての準備が進むとエストロゲンと呼ばれるホルモンの濃度が上がり、これからの妊娠に備えて子宮内膜の血液量が増え、子宮内膜の血管が破けて出血をし、その血液が子宮頸管、膣を通過して外陰部から排出されて生理として認識されているのです。排卵は発情期に生じるので、この前に生じる発情出血は発情前期と呼ばれる期間に生じます。
雌犬の性成熟で最も特徴的な徴候が、上述の発情出血です。卵胞が発育する段階で出血するため、これから交配できるという明確なサインとなるのです。最初の発情期が来るのは、犬の大きさや個体によって違いますが、一般的に小型犬では8~10ヵ月齢、中・大型犬では10~12ヵ月齢で訪れます。
犬は繁殖期に1回発情する単発情動物で、1年に1~2回発情します。犬の性周期は発情出血がスタートしてから次の発情出血が来るまでの期間を言います。性周期のサイクルはほぼ一定です。個体差がかなりありますが、およそ6~10ヵ月くらいの期間で訪れます。
犬の性周期は「発情前期」「発情期」「発情休止期」「無発情期」の4つの期間から構成されています。
発情前期とは、発情出血の開始から雄犬に交尾を許す前日までの約8日間のことを言います。外陰部が硬く大きくなり、頻尿で排尿量が多く、そわそわし始めます。
発情期の前半に排卵が起こります。この時には出血は収まり、発情期の終わり頃にはほとんどなくなります。排卵から3日後には外陰部が小さく柔らかくなります。
発情休止期は卵巣からプロゲステロンと呼ばれる妊娠ホルモンが分泌されている妊娠期間に当たります。子宮では子宮内膜を増殖させ、卵子が着床できるようにベッドを作ります。この時に妊娠していてもいなくても乳房が発達し、母乳が出る時もあります。別名黄体期とも呼ばれます。発情休止期の終わり頃は子宮内感染が起こりやすいです。特に高齢でお産をしたことがない犬は子宮蓄膿症に罹りやすい時期です。
その後、無発情期という卵巣に卵胞も黄体もない状態になり、その状態がおよそ3~8ヵ月続きます。
人間では生理痛がひどく、体調が悪くなる方もいますよね。犬では生理に対するケアなどは必要なのでしょうか?犬の発情出血時は中には普段よりも大人しくなるコや先にも述べたように頻尿がひどくなるコがいますが、普段通りにしているコもいます。精神的にデリケートな状態になっていることが多いため、体調に合わせて散歩などは無理させないようにした方が良いでしょう。
外陰部からの出血が多いコに対してはおむつを使用するのも手かもしれません。キレイ好きな犬にとっても清潔に保てるので良いでしょう。ただし、犬が自らきちんと舐め取っているのであれば、おむつはかぶれてしまうこともありますし、尿を妨げることにもなるため、出来れば使用しない方が良いと思います。
発情出血を完全に止める方法としては避妊手術を行うことも1つの手です。避妊手術により、上述した子宮蓄膿症や卵巣・子宮の病気、乳がんを予防できるので、メリットも大きいです。しかしながら繁殖に使用するエネルギーが余剰になるため、太りやすくなったり、全身麻酔が必要となったり、子供を取ることが出来なくなってしまったりと、デメリットもあります。メリット・デメリット双方をよく検討する必要があると、普段の診療時にもお伝えしています。
犬の生理は犬にとっては正常な反応ですが、精神的にデリケートな状態になっているため、普段以上に愛犬の体調には気を遣ってあげてくださいね。避妊については、メリット・デメリットを理解した中で、家族とよく話し合い、信頼できる獣医師のもとで行うようにしましょう。