
水中毒は水分を大量に摂取することによって、血液中のナトリウム濃度が低下し低ナトリウム血症を発症することを言います。これは、犬だけではなく人間にも発症する可能性があり、手遅れになると命に関わることがあることから、夏になると注意喚起が行われていますが、まだまだその認知度は低いと言えるでしょう。水辺で遊ぶことが好きな犬にとって、いつどこで起こるかわからない水中毒。まずは、水中毒の危険性について解説します。
水中毒とは、大量の水分を摂取することによって起こる中毒症状のことを指します。大量の水分によって、体内の水分量が過剰な状態になると、排泄量を上回ってしまいます。大量におしっこをしたところで、摂取した水分を排泄しきれない状態と言えます。この状態になると、血液が水で薄まり、血液中のナトリウム濃度(塩分濃度)が正常値より低下、真水に近い状態となることが低ナトリウム血症です。
低ナトリウム血症では、お腹がふくれる、大量のおしっこをする、フラフラする、元気がなくなる、大量のよだれが出る、嘔吐、呼吸が荒くなる、瞳孔が開くなどの症状を起こします。さらに最悪の場合は、痙攣、意識がなくなる、昏睡など重篤な脳浮腫を起こし死に至ります。
最近では熱中症の危険性が声高に叫ばれ、特に暑い日には犬にも水分摂取を心がけていることも多いのではないでしょうか。1日に犬が必要な飲水量(水分量ではなく、飲む水の量)は、体重の40~60mlと覚えておくと計算しやすく、体重1kgにつき100mを超えた場合は過剰であると言われています。
5kgの犬で200~300ml、ペットボトルにすると1本の半分程度の量が適量とされていますが、食事の種類(ドライ・ウェット)によっても異なるため、だいたいの目安として覚えておくことがおすすめです。また、運動量が多い場合には、これより増えることもあります。
犬が水中毒を起こす原因は水遊びのしすぎです。久しぶりに水辺に行った時や暑い日は特に、犬があまりに楽しそうにしているために、日頃の運動不足解消とばかりに飼い主も夢中になって水遊びをさせてしまいます。これが、水中毒の原因となるのです。
プールや湖などで、ボールや流木を投げて持ってこさせる遊びは、犬が大好きな遊びです。何度も何度も、飽きることなくレトリーブを繰り返す犬が多く、飼い主も要求されるがままにボールや流木を投げてしまいがち。
実は、犬はボールや流木などをくわえて泳いでいる時に、水が口から胃に流れ込みます。犬としても、喉が渇いて水を飲んでいるわけではないため、水を飲んでいるという感覚が薄いのかもしれません。レトリーブをしている時に、無意識で大量の水を飲んだ結果、過剰な水分摂取となるのです。
海外の動画でよく目にするのが、ホースで犬に水をかける遊びがあります。犬は、勢いよく放水されている水を口で捕まえようとパクパクして遊びます。波立つ水や動く水は犬にとって興味の対象です。ボールやフリスビーをキャッチするのと同じ感覚で、水をキャッチしたくてたまらないのです。しかし、物体との大きな違いは、水はキャッチできないところにあります。そのため、キャッチしたい犬は何度もパクパクを繰り返すことになり、気がつかないうちに大量の水分摂取をしてしまうのです。
そうはいっても、犬は水遊びが大好きです。そこで、まずは休憩させることを念頭に置くことが重要です。水場でのレトリーブ遊びは、犬の大小もありますが、15分程度で一度休憩させることを目安にしましょう。もちろん、これはあくまでも目安の時間です。超小型犬の場合は、もっと頻繁に休憩させることを心がけてください。
何かを投げて遊ぶ場合は、なるべく口を大きく開けずにくわえられるものにすることがおすすめです。特に、ボールは大きく口を開けるため、大量の水を摂取していまう可能性があり水中毒のリスクが高まります。ボールの代わりとなるフリスビーなど口を大きく開けずにくわえられる平らなおもちゃを水遊び用に用意しておくことがおすすめです。
山の中にある清流や湖は、犬も人も気持ちの良いところ。しかし、人里から離れれば離れるほど、携帯電話の電波が通じない場合があります。また、近くの市町村に動物病院があるとは限りません。そのような場所へ行く場合は、もしもの時の備えとして、最寄りの動物病院をあらかじめ調べてから出かけることをおすすめします。
水中毒は、いつどこでどんな犬が起こすかわかりません。健康な犬や若い犬ほど、飼い主は油断しがちです。また、興奮しやすい犬、ボールジャンキーの傾向がある犬の場合は、いつも以上に注意が必要です。もし、水から上がってきた犬の足元がふらついている、呼吸が異常に荒い、よだれが大量に出ているなど、いつもと少しでも違うと感じたら、様子を見るのではなく、すぐに動物病院へ連れて行き「水中毒」の可能性があることを獣医師に伝えてください。
水遊びは犬にとってとても楽しい遊びの一つです。犬が嬉しそうにしていると、飼い主としてもついついサービスしていつも以上にボールを投げてあげたくなるもの。しかし、過度な水遊びは命取りになりかねません。川や湖で多くの悲劇が起こっていることも事実です。水中毒の危険性を知っている・知らないとでは、対処のスピードが変わります。ぜひ、この記事を参考にして、水中毒に十分注意して楽しく水遊びをさせてあげてください。
西村 百合子/ホリスティックケア・カウンセラー、愛玩動物救命士
ゴールデンレトリバーと暮らして20年以上。今は3代目ディロンと海・湖でSUP、ウインドサーフィンを楽しむ日々を過ごす。初代の愛犬が心臓病を患ったことをきっかけに、ホリスティックケア・カウンセラーの資格を取得。
現在、愛犬のためにハーブ療法・東洋医学などを学んでおり、2014年よりその知識を広めるべく執筆活動を開始。記事を書く上で大切にしていることは常に犬目線を主軸を置き、「正しい」だけでなく「犬オーナーが納得して使える」知識を届ける、ということ。