
スラリとした美しいボディラインが印象的なグレーハウンドは全犬種の中で最も足が速く、車と並走できるほどの俊足を誇る犬として知られています。犬種としての長い歴史を持ち、現在もなお世界中で人気を集めています。日本では圧倒的にイタリアン・グレーハウンドの人気が高くなっていますが、グレーハウンドとはどのような犬種の違いがあるのでしょうか?今回は、イタリアン・グレーハウンドよりも少し大きめな身体を持つグレーハウンドの誕生の歴史から、特徴や性格を紐解き、育てる上で飼い主さんが知っておきたい基本的なことをご紹介します。大型犬を迎えることを検討している方は、ぜひ参考にしてみてくださいね。
グレーハウンドという犬種名が付いた由来には、さまざまな説がありますが、どれも定かなものではありません。
世間でよく言われている代表的な名前の由来としては、「毛色が灰色だから“グレー”という説」「偉大・優秀を意味する“Great(グレイト)”という説」「ギリシャの犬を意味する“グリーク・ハウンド”が転じたという説」が挙げられます。
グレーハウンドは英語で「Greyhound」と表記するため、日本語読みでは「グレー」と「グレイ」の両方が使われています。なお、ジャパンケネルクラブ(JKC)では「グレー」と表記されており、イタリアン・グレーハウンドなどの他のグレーハウンド種と区別するために“イングリッシュグレーハウンド”と呼ぶこともしばしばあります。
グレーハウンドを家族として迎え入れ、仲良く暮らしていくためには、まずどのような犬なのか犬種の特性を理解しておくことが重要です。では、グレーハウンドには、どのような誕生の歴史があるのでしょうか?
グレーハウンドの起源は古く、5,000年前にはすでに存在していたのではないかと考えられています。というのも、紀元前3,000年頃の古代エジプトの壁画や遺物には、グレーハウンドによく似た犬が狩猟に従事する姿が描かれているからです。当時のエジプトでは、上流階級の人だけがウサギ狩りなどをするために、グレーハウンドの飼育・繁殖が許されていたと言われています。
また、紀元前100年頃のギリシャやローマの文献などにも、グレーハウンドの姿が残されており、エジプトからヨーロッパに渡ったことがわかっています。優れた狩猟能力を持っていることから、鹿狩りなどの狩猟犬としてヨーロッパ諸国で繁殖が進んでいきました。
そして、16世紀にイギリスでウサギを追うドッグレースが娯楽として始まると、グレーハウンドは、レースに欠かせない存在として大活躍します。この頃、グレーハウンドは、スペイン人の探検家の手によってマスティフとともにアメリカ大陸に渡っています。こうしてアメリカのドッグレースでも活躍し、その名はイギリスだけでなくアメリカにも拡がっていきました。
近年では、世界的に動物愛護の風潮が高まっていて、ドッグレースを引退したグレーハウンドたちを保護するボランティアが盛んに行なわれています。ちなみに、グレーハウンドは、イギリスで標準化されたため、原産国はイギリスとされています。
気品あふれる外見をしたグレーハウンドですが、その外見とは裏腹に運動能力は抜群です。そんなグレーハウンドの外見的特徴を詳しく見ていきましょう。
グレーハウンドは平均体高68~76cm、体重27~32kgの大型犬です。マズルや首、足が長く細身の体型をしています。一見、華奢な体つきに見えますが、筋肉質で流線型のボディラインは、速く走るのに適した体型なため、時速70kmを超えるスピートで走ることができます。
グレーハウンドには、以下の毛色が存在します。
・ホワイト
・ブラック
・ブリンドル(地の毛色に差し毛が入った毛色)
・フォーン(ゴールドを帯びた少し明るめのブラウン)
・ファロー(黄色を帯びたフォーン)
・ブルー(ブラックを帯びたグレー)
・レッド(赤みを帯びたブラウン)
上記の毛色にホワイトが混ざったタイプもあります。なお、これらの毛色は、犬種標準として認められている種類で、実際には他にもさまざまな毛色が存在します。触り心地が滑らかな毛質で、抜け毛は少なめです。
短毛の被毛は、温度調節の機能を果たす下毛は生えていないシングルコートです。寒さに弱い体質なので、冬場の散歩時は服を着せるなどの寒さ対策が必要になります。
グレーハウンドが原産国がイギリスであるのに対して、イタリアングレーハウンドはイタリアが原産の犬種となります。どちらの犬種もドッグレースで活躍していた経緯があり、走るのに適した体つきをしていますが、実際には体高に大きな差があり、グレーハウンドが70cm前後、イタリアングレーハウンドは35cm前後と、倍近い差があります。
続いて、グレーハウンドの平均寿命とかかりやすい病気について、ご紹介します。
グレーハウンドの平均寿命は10~12歳ぐらいです。かかりやすい病気としは、骨肉腫や水晶体脱臼などが挙げられます。
骨肉腫とは骨と軟骨にできる悪性腫瘍で、大型犬に発症しやすい病気の1つです。症状の進行が進むにつれ激しい痛みを伴うことから、かばうようにして歩いたり、歩くこと自体を嫌がったりといった何らかの異変が見られるようになります。
骨肉腫の原因はハッキリと分かっていません。また、発症してからの進行が早いので、様子がおかしいときは早急に動物病院を受診しましょう。早期に発見し治療をすることで、転移などのリスクも減らせます。
水晶体脱臼は、水晶体を眼球内に固定している糸状のチン小帯が断裂し、水晶体が正常な位置からずれて一方に偏ってしまう病気です。主な症状としては眼の充血や白濁、角膜の炎症などが挙げられます。
原因は遺伝的素因や打撲などの外傷、他の眼の疾患によって誘発されるなど、さまざまなケースがあります。水晶体脱臼も健康診断の際に、眼の検査をしてもらうなどして予防しましょう。
良きパートナーとして過ごしていく上で、グレーハウンドがどんな性格なのかは特に気になるところですよね。もちろん個体差はありますが、グレーハウンドは、以下のような魅力的な性格の傾向を持っています。
自分から攻撃的な態度を取るようなことはあまりなく、友好的な性格です。飼い主や家族だけでなく、先住犬にも優しく接することができます。また、吠えることも少なく、穏やかでムラのない落ち着いた性格です。
飼い主や家族への忠誠心が強いため、しつけは積極的に覚えていくことができます。よって、トレーニング次第で、いろいろなことができる犬に成長します。また、普段は穏やかですが勇敢さも兼ね備えているので、番犬にもなってくれます。
グレーハウンドは小型犬や中型犬と比べ、格段に体が大きいだけでなく力も強いため、大型犬ならではの特質を理解して飼わないと、扱いきれなくなる恐れがあります。特に運動面に関しては、それなりの条件が求められます。具体的に育て方のポイントを見ていきましょう。
フローリングの部屋や階段などは滑りやすいので、絨毯やカーペット、緩衝マットなどを敷いておくとよいでしょう。滑ったときに踏ん張りがきかず、捻挫や脱臼、転倒により骨折などをする恐れがあるからです。グレーハウンドをはじめとした足の長い犬種は、特に骨折しやすいため注意してください。
また、グレーハウンドは大型犬で体重が重く、かつ短毛で皮膚が薄いので、床ずれになりやすい傾向にあります。そのため、よく過ごす場所にはクッション性のあるマットなどを敷いてあげるようにしましょう。床が滑りやすくて思うように歩けないとき等は、足の関節にかかる負担が大きくなります。怪我のリスクや足にかかる負担を軽減する環境を作ってあげましょう。
グレーハウンドは全犬種の中で最も足が速く、時速70km以上のスピードを誇り、その歩幅はなんと5.4mにも達します。ドッグレースで活躍をしてきた犬種という歴史もあるため、グレーハウンドは、1日2回、1時間ずつの散歩は欠かせない、運動量がかなり必要な犬です。加えて、走ることが得意な犬種なので、定期的にドッグランでおもいっきり走らせてあげたり、アジリティで遊ばせたりして運動不足にならないようにする必要があります。
散歩を含め運動をさせてあげる時間の確保が必要なうえ、飼い主さんにも長距離の散歩を毎日できるぐらいの体力が求められます。
小動物などの動くものを見ると狩猟犬の気質が働き、追いかけたくなる衝動が出ることがあります。身勝手な行動をすることがないよう、「マテ!」の指示に従えるようにしておきましょう。
体が大きく体重30kg近くある犬が勝手に走り出してしまうと、リードを引っ張っても抑止できない可能性もあります。万が一そのようなことが起きると犬自身や飼い主だけでなく、相手の人や犬も怪我をする恐れがあるので、必ず追跡衝動を止められるようにしておきましょう。
週に1~2回、獣毛ブラシで抜け毛を取り除いて、美しいスムースコートを保ちましょう。抜け毛は少ないため、ブラッシングは頻繁に行う必要はありません。毛に艶を与えたい場合は、獣毛ブラシが向いています。
また、時々固く絞った濡れタオルで体を拭いてきれいにしてあげましょう。もともと体臭が少ないので、臭いや汚れが気になったらシャンプーするぐらいで大丈夫です。シャンプー剤は、必ず犬用のものを使うようにしましょう。人間の皮膚は弱酸性なのに対し犬の皮膚は弱アルカリ性なので、人間用のシャンプーは犬にとって刺激が強すぎる可能性があります。
トリミングなども不要なので、全体的にケアの手間はそれほどかからないほうです。
グレーハウンドは運動が得意なので、犬と一緒に体を動かしてたっぷりと遊びたいという方に向いています。なるべく時間を作って、たくさん運動をさせてあげると喜ぶでしょう。また、犬も飼い主も安全に暮らしていくには、飼い主の指示に従えるように子犬のうちから、しつけをしっかりと行うことが重要です。特に大型犬の場合は、犬が身勝手な行動をすると大きな怪我などにつながりやすいので十分に注意しましょう。よきパートナーとして信頼関係を築き、楽しい生活を送ってください。
新井 絵美子/動物ライター
2017年よりフリーランスライターとして、犬や動物関連の記事を中心に執筆活動をおこなう。
過去に、マルチーズと一緒に暮らしていた経験をもとに、犬との生活の魅力や育て方のコツなどを、わかりやすくお伝えします。