magazine

  1. トップページ
  2. MAGAZINE
  3. 愛犬の健康状態はウェアラブルデバイスが教えてくれる時代に!?

2018.10.11

読みもの        

シャープと大阪府立大学のウェアラブル開発秘話<前編>

愛犬の健康状態はウェアラブルデバイスが教えてくれる時代に!?

飼い主が体の不調に気付くかどうかに依存してしまいがちな、愛犬の健康管理。それを、科学的なデータをもとにサポートしてもらえたら...? そんなサービスの研究開発が、電機メーカーのシャープ大阪府立大学との共同研究で進んでいます。今年7月に企業や研究機関向けに「バイタル計測サービス」を始めた、シャープの梅本あずささんと林哲也さん、大阪府立大学の島村俊介先生に、お話を聞きました!

#Healthcare / #Lifestyle

Author :写真=大浦真吾 文=山賀沙耶

愛犬の健康管理をサポートしたい! しかし道のりは長かった

――今、人間の世界では、ウェアラブルが心拍数の急上昇を知らせてくれたことで命を救われたという話もあるようですが、犬用のアイテムとなると、まだそこまでではないですよね。

梅本さん:そうですね。弊社では「機器やサービスで人に寄り添う」という世界観を「AIoT*」という言葉でご提案させていただいています。AIとは「人工知能」、IoTとは「モノのインターネット」、つまりインターネットを通じてさまざまなモノを相互接続する仕組みのことですが、それを組み合わせた弊社独自の造語がAIoTです。IoTで生活を見守るだけでなく、AIで最適な提案をする「快適なAIoTライフ」を、人間と同じように犬にも提供できたらと。

181004_02.jpg

左からシャープの梅本さん、林さん、大阪府立大学の島村先生

――なるほど。それで、今回のデバイスを開発することになったわけですね?

梅本さん:はい。ウェアラブルで何らかのデータを取り続けることによって、飼い主様がペットの健康状態を見守れるようなサービスができないかという話が社内で持ち上がったとき、縁あって大阪府立大学の島村俊介先生に相談させていただいたのが、2014年のことでした。

島村先生:そうなんです。ところが、体温や血糖値、排泄物、血液データなどからそれぞれ病気が見つかることはありますが、血液検査だけでも大学病院でルーチンに測定しているもので二十数項目あるわけで。何か一つで犬の調子がわかるような、そんな素晴らしい数値はありませんと(笑)。「それでは、病院に来たすべての犬猫に対して、間違いなく調べることは何ですか?」と言われたら、それはTPR(体温、心拍数、呼吸数)だと。じゃあ、そこなんじゃないかと...。

梅本さん:そうそう。ところが、呼吸数の正常値はどれぐらいなのかというと、それはよくわかっていないそうなんです。獣医さんの持っているデータって、病院に来て興奮状態にあるときか、実験動物のデータなので、実際に犬が普段の環境でリラックスしているときのデータはよくわからないと。

島村先生:はい。ベースになるデータというのはないので、そこから始めなきゃいけないということがわかってきて。それでもTPRに着目して、できるだけ長時間測れるようなセンサーを作ろうと、そこに焦点を絞って進めるまでに半年から1年ぐらいかかりました。
シャープさんとしてもこんなに長い道のりになるとは思われていなかったと思うんですが、それなら諦めますと言わずに、「獣医学に貢献できるなら我々としても願ったりです」と言っていただいて。共同研究を始めて5年目を迎えます。

――なるほど、それは確かに長い道のりですね!

試作品は何十種類! 全身毛だらけゆえの難しさも

――今のデバイスは、ランドセルのように背負って脇からデータを取る形になっていますが、最初からこの形だったんですか?

島村先生:いえ、今までに試作品をたくさん作ってきたんですが...。

梅本さん:もう黒歴史に近いですね(笑)。初期の試作品に関しては、私が会社でミシン踏んで作りました。電機メーカーに入って、まさかミシン踏むとは(笑)

181004_03.jpg

現在のデバイスの形。犬のサイズだけでなく、首の太さと足の太さ、胸の大きさが関係してくるが、犬種や個体によっても体形が違うため、どんなコにも合う形を作るのにも相当苦労したそう

――何種類ぐらい作られたんですか?

林さん:数えたことないです(笑)。微調整も合わせると何十種類ですかね...?

島村先生:最初は、いろんな人にアンケートをとった結果、24時間365日装着し続けて見守るなら首輪だろうということだったんです。ところが、データを取るにはある程度密着させないといけなくて、首を締め付けるのは逆に健康を害してしまう危険性もあって。

――確かに(笑)。首輪だと便利ですが、難しいんですね。

梅本さん:それで、最初はたすき掛けから始まりましたよね。それに、ずっと作っていると慣れてきてしまうんですが、いざモニターさんに装着してもらおうと思ったら、着け方が複雑すぎたり。最終的には飼い主様ご自身で着けていただけるものを目指しているので、精度と簡便さのバランスを取る必要があるんです。

島村先生:データの取得方法に関しても、人間のウェアラブルデバイスを調べてみるとだいたい3パターンで、そのすべてのパターンに関してシャープさんのほうで試行していただいて、プロトタイプを作って、最適なものを探しました。それで、僕から見ているとこれで決まりじゃないかと思っても、林さんがいつも大きい荷物抱えて、別のやり方がまた見つかったのでって(笑)。そうやって試している中で、消去法で残ってきたのが、今の形ですね。

181004_04.jpg

試行錯誤を重ねて作られてきた、試作品の数々。これでもほんの一部だそう

――開発でいちばん苦労したところは?

林さん:全身に毛がたくさんあるのが人と違うところで、そのおかげで心電を取るのがすごく難しくて...。今でも毛が長かったり多かったりすると、なかなか大変です。いかに皮膚にリーチできるかなので、毛をかきわける機構を脇の下に組み込めれば理論上はできるはずなんですが、そんなに硬いものを脇に当て続けるわけにもいきません。そんな中、回路とウエアを工夫することによって、毛が短いコや少なめのコであれば、毛をそらなくても測ることができるようになりました。

梅本さん:それと、普段家電を作っているときは、何か不具合が起こったら、その症状が再現する条件を見つけて、その通りになるかどうか確認をするんですが、なんせ生き物相手なので、そのときと同じ状態は2度と再現してくれない(笑)。なんでこんなデータになったんだろう、なんでここで失敗したんだろう、などは推論で組み立てるしかなくて、けっきょく本当の原因はわからなかったこともたくさんありました。

181004_05.jpg

首の後ろのバッグ部分に、黒いデバイス本体が入る形。脇に当たる部分は導電性のある布でできており、ここからデータを取る

健康状態だけでなく、ストレス状況もわかる

――今測れるのは、体表温、脈拍、呼吸数と、自律神経のバランスということですが、自律神経のバランスって何ですか?

島村先生:自律神経には交感神経と副交感神経があって、その2つのバランスで体のベースをメンテナンスしていて、交感神経が活発になると心拍数が増えます。そこで、心拍数を測ることで自律神経の活動状況を推測する「心拍変動解析」という方法が、人では確立されているんです。自律神経のバランスは人のストレス状況を反映することがわかっているので、心拍数からストレス状況を推測できるというわけです。
ところが、動物で心拍変動解析っていうのが、あまり一般的ではなくて。その理由は、テクニカルなサポートが必要だから。

梅本さん:はい。そこは解析方法も含めて、私たちがサポートさせていただきますと。

島村先生:そこで、安静にしているときの心拍変動を解析して、いつもと違う動きが出てきたら「何かストレスがかかっていませんか」というフィードバッグができる手法になっています。

181004_06.jpg

健康状態を見るには、リラックスしている平常時のデータが必要になるため、自宅でも着け続けることに意味がある

――なるほど。心拍数から愛犬のストレス状況がわかるわけですね。

島村先生:はい。まだサービスのスタートポイントなので、犬でもストレス状況が心拍数に影響を与えるらしいということまで確認しているのですが、その実験結果がどの犬にも当てはまる数値なのか、犬によって違うのか、今追いかけているところです。仮にその犬ごとに固有のものであったとしても、ある程度の間隔で定期的に測定してもらえば、変化の可能性をお知らせできるのではと思います。

――今年7月から企業や研究機関向けに試験提供開始ということですが、すでにサービスの提供を始めているところもありますか?

梅本さん:いくつかお問い合わせいただいているのが、働く犬にかかわる団体様からです。犬に仕事をさせるのは動物虐待だという方もいらっしゃって、実際どうかを確かめたいと、利用を検討されているようです。それと、犬用品を扱う企業の方が、本当に犬のためになっているかを比較したいというお話もありますね。

――なるほど。犬の靴に関しても、調べてみたいですね!

犬を飼いやすい環境づくりをお手伝いしたい

――今後、研究開発が進んだらどうなるのでしょうか?

梅本さん:企業や大学、病院などと一緒に知見を蓄積させていただいたうえで、いずれは飼い主様向けのサービスにシフトしたいと思っています。それには、小型化やメンテナンス性など、いろんな面で工夫が必要ですね。

島村先生:このウェアラブルデバイスを用いたサービスの目的の一つは、動物の状態の変化を検知して、飼い主様にいち早くお知らせし、病院に行くよう背中を押してあげるといったこと。さらに将来的には、獣医師がこのデバイスから心拍履歴などのデータを抽出して、診断に役立てるといったこともできるかなと思います。

181004_07.jpg

専用のデータ解析用のパソコンにつなぐと、心拍数、呼吸数、体表温、自律神経バランスが数値として出てくる

梅本さん:それプラス、「使って嬉しい」という要素も入れたいなと。

――使って嬉しい、というと?

梅本さん:人のウェアラブルも、着けている人はたくさんいるんですが、着け続ける人ってあんまりいないですよね。最初珍しいからと買って、数カ月後にはやめてしまう。なぜかというと、着けていてもつまらないとか、メリットを感じられなくなってくるから。犬に関しても、おそらく病気を検出するということだけでは着け続ける動機にはならないだろうと考えていますので、着けていただくことによって生活が変わるというところにつなげていきたいと思っています。着け続けていただかないと、変化も検知できないので。

――最終的に目指しているゴールは?

梅本さん:もちろん、愛犬の体調不良に気づいていただきたいというのはあるんですが、これを着けていただくことによって、犬を飼いやすくなるとか、犬のことがよくわかるようになるとか、そうなればいいなと思っています。この計測サービスで、愛犬との「快適なAIoTライフ」をサポートできたらいいですね。

――ありがとうございました!

>>後編では、実際にモデル犬2頭にウェアラブルを着けて3日間過ごしてもらった結果、その測定データからどんなことがわかるのかを紹介します!

(*「AIoT」は、シャープ株式会社の登録商標です)

掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法等により保護されています。



 この記事が気に入ったらいいねしよう!
 最新記事をお届けします。

白柴・あお「三度目の旅」

白柴・あお「マンネリ注意報?」

白柴・あお「マンネリ注意報?」
白柴・あお「三度目の旅」