
2015年・秋から「あお」と名付けた柴の仔犬と暮らし始めた「犬の新人飼育員」の「僕」と「もうひとり」。3歳となったあおを連れ、少し遅い夏休みを取り旅に出たふたりは、またもや飼育員として多くを学んだ。今回はそんな旅の様子と、ふたりが得た教訓の数々......。
1歳の旅は箱根・富士、2歳は軽井沢、そして3歳となったあおを連れて今回向かった先は長野県。八ヶ岳、蓼科へ。2泊3日の旅である。
あおも我々も初めて訪れる場所なのに、忙しさにかまけて下調べもそこそこに出かけてしまった。
(いつもの悪い癖)
【教訓:下調べちゃんとやれ】
今回は、もうひとりの飼育員の舞台公演が終わるのを待ってからの旅、秋分の日を含む連休明け、火曜日の朝8時過ぎに出発した。
中央道はさすが平日、スイスイ走れて快適、気温は20℃を少し下回る、暑く寒くもなくちょうどいい感じ。しかし残念なことに天気予報は、我々が旅する間、ずっと雨マークだった。
(雨かぁ......)どんよりした気持ちのまま、まずは休憩地点として選んだ談合坂SAへ。ここはドッグランもあるので、あおの休憩場所としてもありがたい。あおは出発前に「小」も「大」もすませていたので安心だったが、この先事故などで、いつ渋滞にハマるかわからない。一気に諏訪南ICまで行けそうではあったが、念の為に立ち寄った。
(人間もトイレ休憩と気分をリフレッシュ)
ドッグランではなぜかずっと片足あげて緊張。すぐに出た。
緊張しつつも、あおはしっかり「小」をしてしばらくは安心。「あお、水飲むか?」とすすめるが、あおは「いらないっ」とプイッとドッグランの出口に向かう。涼しいから喉も渇かないのかな......。
サービスエリアをうろちょろする方が好き
"かわいいスタンプ"を集めたくて通り過ぎる人たちに熱視線
30分ほど休憩して出発。
談合坂で見上げた空が少し明るくなっていたからだろう、しばらくして"もうひとりの飼育員"の「今日、晴れるんじゃな~い?!」という根拠のない前向き発言が出た。
(そうなったらいいけど)と、思う間もなく、雨滴感知式ワイパーがむなしく動き出した......。
「雨振ってきたー!なんで~」という彼女の声に(予報通りですけど......)とつぶやきながら、蓼科を目指した。
昼食は蓼科で蕎麦にしようと、もうひとりの飼育員が犬と入れる店を調べ始めた。
「ありました!」
彼女が、いくつかある中から選んだのは、蓼科湖の近く、テラス席は犬同伴OKの蕎麦屋。しかし行く途中、雨はどんどん強くなってきて、テラス席で蕎麦を食べていたらきっとずぶ濡れ......という雰囲気になってきた。
「着いたら晴れるんじゃない?」
またも楽天的なもうひとりの飼育員の言葉を信じ、店に向かったのだがそれ以前の問題が......
「あれ?やってない」
「え~~~~」
電話をしても誰も出ない......時計を見ると12時過ぎ。この時間にやっていないということは......やってないぞ! 系列店を近くに見つけたが、尋ねると犬は一緒に入れなかった。
(※旅から帰って、この店のことを改めてネットで調べると......
「不定休でオフシーズンは休みが多いようなので電話してから向かった方がよさそう」......ちゃんと書いてあった。これを事前に読んでおけば......失敗)
【教訓:旅先で犬と入れる店は必ず事前チェック!】
「別の店を調べます!」
さすがの、とりあえずなんとかなるでしょ精神のもうひとりの飼育員も、これはまずいと思ったようで、大慌てで、犬・店内OKの店を検索し始めた。
「ありました。電話します」
確認すると空席あり、店内犬OK!一匹と人間二人で予約した。
「来た道を戻ってください」
戻るのかよ!とは言わず、元来た道をひた走った。
まだ~?という顔のあおに「あおちゃん、さっき通った道だね」と、わけのわからない解説をしている彼女を横目で見ながら走ること30分、ついに目的地に到着した。
店のホームページには......
「当店は八ヶ岳の西麓、標高1200m、上原山工業公園を上がった少しわかりにくい場所にあります」......とあった。
店の名は「ポップズカフェ」。
森の中にひっそり。入るまでちょっとドキドキ。ドアを開けると、僕の勝手な予想(魔女っぽくて怖そうな人が出てくるイメージ)と違って、優しそうな女性が「先ほどのお電話の......」と、丁寧に招き入れてくれた。
我々はサラダ・ドリンク付きのランチメニューを注文。本格的な味に喜んだ。
あおにはオヤツを......でも食べない。
あおの目当てはお店の方にかまって欲しい、ただそれだけ......。熱い視線を送り続け、時々かまってもらって満足。すっかり常連の顔でくつろぎ始めた。
雨はまだ止まない。少し早いがホテルに行くしかないかな......と思っていると、店のオーナーが犬連れが楽しめる近所のおすすめスポットを教えてくれた。ひとつは犬も一緒に乗れる遊覧カートで行く展望台。しかし今日は雨なので
明日、もし晴れたら......。
もうひとつは、農業大学敷地内にある直売所。
「買い物をして、そのついでに犬と遊んで帰る人が多いですよ」とのこと。どちらも僕が出発の朝、ざっくり調べた犬連れOKの場所には入っていない場所だった。
地図とチラシを頂き、店を出ると雨は少し小降りに変わっていた。
クルマでじっと2時間ちょっと。店でくつろぎ1時間弱。あおはすっかりエネルギー充電OK、動きたくてしかたない。クルマと反対方向にズンズン進みはじめた。
「あお!クルマクルマ!そっち行かないよ」
いつもの通り聞こえないフリ&座り込み......。
「あなたたちの声は聞こえてません」
しかたなく抱っこしてクルマへ。
(あおの足についていた泥で服汚れ、軽くショック......)
「直売所、行ってみる?」
せっかくのあおとの旅である。あっさりホテルに行くのも芸がない。地元の野菜を買って、小雨だったら軽く散歩して帰ろう!
我々は敷地内に犬と自由に遊べる場所があるという、なんともありがたい、その大学直営の直売所に行ってみることにした。
クルマを走らせること、3分。広い、いや広~~~い敷地が見えてきた。
ホームページには......
「八ヶ岳中央農業実践大学校の学生たちが育てた「長野県環境にやさしい農産物認証」のとれたて高原野菜や色鮮やかな花々。地下180mからくみ上げる八ヶ岳の伏流水を飲み、牧草をふんだんに食べた牛から搾ったミルク。そのミルクから丁寧に仕上げた乳製品や、放し飼いの鶏が生んだ有精卵。さらに地元の特産品などが、ございます」......と、ある。
クルマから降りると、なんと雨があがった!
「ほらね!」
もうひとりの飼育員が、いかにも自分が雨雲をどけましたというような顔でこちらをじっと見てくるので、心にもなかったが「すごいね」と言っておいた。
三角屋根のかわいい建物が緑の芝生に合っている。おしゃれ
おいしそうな野菜がずらり(ハロウィン用かぼちゃも)
もうひとりの飼育員が直売所をのぞいている間、僕とあおは広大な敷地を探索することにし......ようと思ったら、あおがいきなり走り出した!
なに?なに?!ついていくと、そこには!
2頭の馬がいた。
あおがこんなに近くで馬を見るのは初めて。初めて嗅ぐ匂いに興奮して走り出したようだった。「ウマだ!すごい!ウマだ!」......と言ってないとは思うが、そんなノリで大興奮。こちらが準備していなかった"あおに贈るはじめて"である。あまりうろちょろすると馬に迷惑だろうと、しばらく見学したところで「はい、おしまい」と、言っても聞くわけがない、そりゃそうだ。また確保。また汚れ。
(そもそもなぜこの日、白いシャツを着て行ったかが自分でもわからない)
【教訓:犬との旅に白物厳禁】
名残惜しそうに馬を見つめるあお
落ちついたので降ろすと、また走り出した!今度はなんだ!?また僕までダッシュ。あおが見つけたのは動物小屋!中にいたのは......
ヤギ!これまた想定外の「はじめて体験」。
あおの脳に刺激がどんどん与えられていく。
(※僕も含めて)白物大集合
(小屋の横には「どうぶつのエサ」の自動販売機があったが、ヤギのエサやり未体験、勇気がなくて出来ませんでした)
さっきの馬が小屋に帰ってきたので改めて挨拶
このままずっとここにいそうだったので、あおを再び抱き上げ、芝生ゾーンへ。
これまた広々、いや広々々々々々と言うべきスケールの芝生にあおがじっとしているはずがない。
「あお、走っていいぞ!」
こういう指示は耳に入るらしい。合図とともに走り出した! その速さ!バカじゃないの!?
またダッシュに付き合う
そろそろ帰ろうか......とクルマの方へ連れていこうとすると、途中であおが水たまりの匂いを嗅ぎだした。
と思ったらそうじゃない!水たまりの水を飲もうとしていた!
「え?あお!待て待て!」
慌てて水筒の水を出してあおに出すと、ゴクゴクゴクゴク飲みだした。
記憶をたどる......サービスエリアで水を......飲ませようとしたけど「いらないっ!」とそっぽを向かれたので飲ませなかった......その後はクルマの中......我々は店探しに必死......。飲ませてない。わ~!やってしまったーー!
言ってよあお~!言えないか~あおー!
飼育員として大失態!土下座ものである......。
この日は雨、さらに涼しいので我々も喉は乾かず。これが夏なら我々も喉が渇いて水分補給、あおも一緒に......となっていたのに。
あお、ごめ~ん!!!
ドライブでは、人間もトイレに行きたくなるから......と水分を摂らないように気をつけてしまう。あおに関しても、万が一の渋滞に備えて「排泄」に気をつけているばかりで、反対の「補給」をすっかり忘れていた......。やっちゃった、やっちまった......。
【教訓:「水いらない!」言っても小まめに差し出すべし】
水分補給後。散々走ったのにまだ足りない顔(雨の芝生走りでカラダびしょびしょ)
そして、まさかの「もう一回走りたい」......
(水分補給を忘れた罰として付き合いました)
予報では1日雨だった。事前に(ざっくり)調べていた、犬が遊べる牧場に行けないなぁと諦めていたが、まさかの晴れ間に大満足! 1時間ほど遊んだところでまた強い雨が降ってきた。急いでクルマに戻り、直売所をあとにした。
「寄ってよかったね」
「晴れてよかった~」
美味しいランチと情報を提供してくれた「ポップズカフェ」のオーナーにふたりで感謝した。
【教訓:下調べはしつつ、でも地元のことは地元の人に聞くのが一番!】
「あそこでお蕎麦食べてたら、ここには来られなかったからね!」
またも、もうひとりの飼育員が、さも自分の手柄のように言うので、まあそれはそうだな......と少し思えたのもあって、「そうだね!!」と明るく返事をしておいた。
しばらく走って、ふたり同時に思い出した。
「あ、野菜買うの忘れた......」
(直売所のみなさま、また来ます!次は必ず!!)
すっかり満足したあおを乗せ、オーナーに教えてもらった近道を通って、我々は1日目の宿へ到着した。
(つづく)
舘川範雄 (たてかわ のりお)
1966年9月19日生まれ。1987年4月から作家活動に入る。
「コサキン」「SMAPxSMAP」「ポンキッキーズ」「スクール革命!」「THEカラオケ☆バトル」などテレビ、ラジオで多数の番組構成を担当。また関根勤主宰「カンコンキンシアター」の他、オリジナルコメディーやミュージカルの作・演出など、活動は多岐にわたる。
*本連載の1stシーズン【柴犬生活漂流記】は、こちら。
*インスタグラム(ao20150721)で白柴「あお」が毎日、犬の目線で日々の出来事を投稿中!
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