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2018.09.04

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犬と暮らして30余年。白石家の知恵袋<vol.1>

老犬に滑る床は大敵。座敷犬から現代の室内飼育犬への変貌<知識編>

クーパーは9歳、メルは8歳になりました。先日「そろそろシニア!?老犬の夏の攻略法<知識編>」でも書いたように、おおよそ8歳を過ぎたらシニア枠に突入するお年頃。室内飼育の犬は年齢に限らず滑らない床がいいのですが、特に老犬期に入ったら、本格的に床材について再検討してみるタイミングです。ではまず<知識編>で、なぜ滑る床がマズイのか説明しましょう。

#Lifestyle

Author :写真・文=白石かえ

滑りやすい床は、百害あって一利なし

可愛い顔だけど、肉体は老い始めている

 犬も高齢化すると、ニンゲンと同じく体全体の代謝が衰えてくる。いろいろな臓器や筋肉も弱ってくるのは致し方ない。今まで病気ひとつしたことのなかった健康優良児にも、ちょっとずつ老化が忍び寄ってきている。切ないことであるが、犬の寿命は、我々ニンゲンよりもずっと短い。彼らは邪気のない可愛い心のまま、悲しいかな、いつのまにか肉体はおじいちゃん犬、おばあちゃん犬になりつつあるのだ。

 だけど可愛い我がコたちはそんなことはおかまいなしに、毎日を楽しく朗らかに過ごしている。なので飼い主としても、寿命のカウントダウンをして悲しんでいるヒマはない。いかに余生を、元気に、ケガなく、痛くない室内環境を整えてあげられるかだ。

寝たきりは避けたい。歩くことは、生きること

 生き物として大事な基本は「自分の足で歩けること」ではないかと、私は思っている。野生動物ならば、自分で歩くことができなくなったら、食物を獲ることができず飢え死にする。歩くことは、生きることと直結している。

 でも、長い歴史の中で家畜化された犬は、野生動物ではない。だから飼い主さんの献身的な愛情により、寝たきりになっても生きていくことはできる。それも素晴らしい愛情だと思う。

 ただ自分で歩く、散歩に出る、というのは、食物を得るだけでなく、いろいろほかの意味もある。犬は寝たきりになっても、読書をしたり、テレビを見たりすることはないから、外の世界と接点を持つことは、心の健全性を保つためにすごく貴重な時間だと思う。外のニオイを嗅いだり、風を感じたり、喧噪を聞いたり、景色を見たりすることは、脳にとっていい刺激になるし、ひいては犬でも認知症予防になるかもしれない。また歩けば、おなかもすく。心肺も活発に動く。つまり内臓にもいい刺激になっているはずだ。ニンゲンを含みどの動物でも、自分の足で歩くということは、移動手段という意義以外にも重要な意味があると思うのだ。

 だから私は、自分の犬に、できるだけ長く自分の足で、歩いてほしいと願っている。先代のワイマラナーのバドは、享年16歳8カ月の犬生を、死ぬ2日前まで自分で食べ、死ぬ前日までヨロヨロしながらも自分の意志で歩いて外へ散歩に行き、ぎりぎりまで自分の力で生きてくれた。そんなバドのことを今でも私は、誇り高き自慢の相棒だと思っている(今、ブログを読み返しても涙でてくるよぅ)。

 むろんどんなに頑張っても、個体差があるので、長生きできるのか、どんな病気で亡くなるのか、どんな最期になるかはわからない。でも、愛犬の病気のリスクや寝たきり生活、また痛みを減らすことができるのなら、できるかぎりの努力を元気なうちからやってあげたい。

骨関節は老化し、すり減り、炎症を起こしやすくなる

 そこで考えてみる。元気に歩くための基本は、健全な骨関節や筋肉や靱帯や腱だ。裏を返せば、それらを痛めれば関節痛などが起きやすく、痛みがでると歩きたくなくなる。歩きたくなくなって運動量が減ると、筋肉や腱が弱る。そうすると筋肉や靱帯が支えていた骨関節がもっと動きが悪くなったり、痛みがひどくなったりする。また運動量が減ると、肥満にもなりやすくなり、そうなると関節への負担が増えてよけいに痛くなるという悪循環が生まれる。

 高齢化して関節痛(慢性の変形性関節症)が増えるのは、犬もニンゲンも同じ。骨や関節も老化で変形したり、関節の間のクッションの役目をする軟骨部分がすり減ったりして、じかに骨同士が当たり出すから痛み出す。そのため少しでも栄養面から補おうと、いろいろな種類のサプリメントが市販されている(犬用もヒト用も多種ある)。

防滑性、弾力性のある床はケガのリスクが減る

 ただ「もう年だから」と諦める前にやれることがある。滑ってゴキッと捻挫したり、脱臼したりして骨関節を痛めたり、着地に失敗して骨折したり、衝撃がダイレクトに関節に響かないように、まず元気なうちからケガのリスクを減らすことだ。ニンゲンの場合で想像するとわかるが、年をとると昔の古傷が痛み出したりするものだ。犬は思い出を語ってくれないけれど、やはり同じように昔のケガが年をとってから痛み出すこともあるのではないか。つまり、若いときからなるべく骨関節にダメージを与えないように、滑らない&クッション性のある床面にしてあげることが重要なのだ。

 私は今までたくさんの整形外科の専門の獣医さんを取材させてもらったが、犬のために「滑らない床にすること」は、間違いなく骨関節の健康を守るために欠かせない要素だと行き着いた。子犬だったら健全な骨関節の育成のために必要。成犬でも激しく遊んで脱臼や骨折、靱帯損傷などをしないために必要。股関節形成不全などの遺伝性疾患のある犬、膝関節など手術をしたことのある持病のある犬、軟骨がすり減り始め、筋肉も衰え始めて踏ん張りが効かなくなった老犬にも絶対必要。骨関節への負担を減らし、再発や別の疾患を誘発させないためにだ。滑る床は、どのステージの犬にとっても「百害あって一利なし」なのである。

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階段から上がったところは、前肢に力が強く入る部分。滑らないようにラグを敷いている。また床が傷つかない役目もしているはず

室内飼養とともに犬と暮らす床材の需要が伸びた

日本3大お座敷犬、マル、ポメ、ヨーキー

 さて、日本の現代のマンションや戸建て住宅では、畳の文化はかなり衰退しつつあり、もっぱら合板のフローリング床が増えている。その理由は、無垢材のフローリングより安価で、畳ほど摩耗が少なく、張り替えなどのメンテナンスをしないでいい(つまりコストや手間がかからない)、また断熱性、気密性のよくなった近代の建築物では畳や絨毯だと微細なダニが繁殖しやすいなどのことから急速に合板フローリング床が増えたと思われる。今では畳の部屋のないおうちもあるくらいだ。

 とはいえ、戦後の頃は、室内に犬を入れるという発想もなかった。そこへ戦後の高度経済成長期の頃、舶来品や西洋の暮らしへの憧れを体現するかのごとく、日本でも小型愛玩犬の洋犬の「お座敷犬」が流行った。日本3大お座敷犬といえば、マルチーズ、ポメラニアン、ヨークシャー・テリア。マルチーズは、1968~1984年まで日本の登録犬のトップだったというから驚く。どれだけマルチーズがお茶の間に浸透したか、想像できる。

畳は、お座敷犬にはよくても中・大型犬には不適

 マルチーズを屋外で飼う人はいないだろう。よってお座敷犬たちは、昭和の、まだ畳のある家屋の時代にも、文字どおりお座敷に上がることを許された。ちなみに、畳はフローリング床ほどではないが、まあまあ滑る。とくに新品の畳は滑る。でも経年劣化したちょっとガサガサした畳は、グリップ力が高まるようだ。また畳はクッション性という点では、とても優れている。

 ただし、猫のように犬は爪を引っ込めることができないので、畳の上を歩くと表面を傷つけてしまう。前述の3犬種のお座敷犬は、体重1.8〜3kgという軽量な犬なので、日本人も畳に上げることを許すことができた。しかし、もっと体重のある犬となると、畳の摩耗のことを考えると許してはもらえない。畳は、犬の室内飼養に向いている床材ではない。

 さらに言えば、もしかしたら当時のお座敷犬たちは毎日の散歩に連れ出してもらっていなかったかもしれない。外へ散歩に出れば、泥や草の実、あるいはノミやダニなどを家庭内に持ち込む可能性がある。畳は固く絞った雑巾で拭き掃除もできるが、天然のい草の畳は丸洗いはできないし、消毒もしにくいし、ノミやダニが繁殖してしまったら手に負えない。高温多湿な日本という気候、そのうえ清潔好きな民族性、さらに靴を脱いで生活する「土足厳禁」文化のある日本人にとって、土足で外出する犬を畳の部屋に上げるなんて許しがたいことだった。

日本の室内飼育のターニング・ポイントはどの犬種!?

 でもマルチーズが全盛を誇った時代のあとに、日本も変わった。ちょうどバブルの頃だ。シベリアン・ハスキーが流行り、続いてラブラドール・レトリーバー、ゴールデン・リトリーバーといった大型犬が流行った。人気犬種に流行があることじたい、動物福祉的にどうかと思うが(流行っているから欲しい、というのは命あるものに対して行うべきではない。犬は単なる商品ではない)、ともあれあの頃が日本人の犬との暮らしのターニング・ポイントだったように思う。つまり、大型犬さえもおうちの中で飼育するという日本人が登場したのである(ステキ♥)。

 もちろん全てのハスキーやレトリーバーたちが室内飼育されたわけではないし、今でも屋外で飼われている犬はいる。でも少なくとも現代では、大型犬を家の中で飼っていることを、そこまで変人扱いはされなくなった(笑)。前述のワイマラナーのバドは、1994年生まれだったが(レトリーバーが流行っていた頃と同年代)、体重38kgのワイマラナーと、2頭のコーギーを東京で室内飼育していた当時は、東京の人にも「えっ。こんな大きな犬を家の中で飼っているの?」と、よく怪訝そうな顔をされた。

 今は体重34kgのジャーマン・ポインターのクーパーと、22kgのボクサーのメルを、室内で多頭飼育しているのを特別視されることはない(地方に行くとたまに聞かれるけれど)。そう考えると、この20年あまりで、ずいぶん日本人の感覚も変わってきたなぁと思い、感慨深い(だからさらに20年後にはもっと日本における犬の市民権が向上しているのでは! そう信じる!)。

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我が家のリビングの床材はクッションフロアを選んだ。クッション性があり、拭き掃除もでき、床暖房にも対応。でも、柔らかいので傷はつく。でも傷ついてもいいじゃないか。犬と暮らした証しだ。どうにも汚くなったら十数年後に全面張り替えすればいい

土足禁止文化の日本で、犬と暮らすのによい床材は

 と、いうわけでこの20年ほどのうちに、日本でも、犬をおうちの中に入れて、一緒に暮らすことは普通になってきた。マルチーズのような小さな愛玩犬のみならず、大型犬でも、抜け毛がすごい長毛種やダブルコートの犬種(日本犬やコーギーなど)も室内飼育してもらえる時代の到来。これは日本で暮らす犬にとって朗報といえるだろう。そもそも犬は群れの動物で、群れ(家族)と一緒に過ごすことが好き。その方が心も安定し、ストレスも少ない。また往来の刺激(ほかの犬や猫やクルマが通り過ぎるなど)が目や耳に入らない、平穏な室内で休めることも大事なことである。もちろん室内飼育であれば、今夏のようなひどい暑さや風雨に晒されて、体力を奪われることもない。ストレスフリーな室内飼育にした方が、ムダ吠えなどの問題行動を減らす一助にもなる。

 ただ土足禁止文化は変わっていない日本で、室内の清潔さを保ちながら、かつ、犬の骨関節を守る防滑性とクッション性がある床、ついでにできれば集合住宅で階下の人にできるだけ犬の足音で迷惑をかけない防音性のある床の理想はなんだろう。

 私は『犬と住む家vol.1』(学研)の初代編集長をして、その後もホームデザイン&ライフスタイル誌『I'm home』などの雑誌記事のために、何度も犬と暮らす住まいについて探求し、整形外科の専門医に取材し、また建材を集め、自分の手で滑り具合を確かめた。そこで最終的にたどり着いたのは、洗濯機で洗えるタイルカーベットやラグ、嘔吐物もオシッコも拭けるクッションフロア、雨が降っても滑らない屋外用タイル、ついでにこれはかなりマニアックな選択であるがラバータイルなどである。

 とはいえ、何もフローリング床をはがしてリフォームすることはない。誰でも挑戦しやすい、コスト面でも高くないものを次回紹介する。来たるべき老犬期に備えて、ぜひ試してみてほしい。

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飼い主が帰宅すると大喜びして階段から飛び降りる内玄関には、黄色いラバータイル、丸いラグを敷いている我が家。詳細は次回の<グッズ編>で紹介する

☆合わせて読んでおきたい ~編集部オススメ記事~

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◎プロフィール

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白石かえ
犬学研究家・雑文家。家族は、ジャーマン・ショートヘアード・ポインターのクーパー、ボクサーのメル、黒猫のまめちゃん、夫1、娘1。前職は、自然環境保護NGO・WWFジャパン。犬猫と暮らして30数年。彼らの存在は可愛いだけでなく、尊い。犬が犬らしく生き生きと暮らせる、犬目線の原稿を書くのがライフワーク。

●執筆サイト: dogplus.me 犬種図鑑 ほか多数
●ブログ: バドバドサーカス
●主な著書:
『東京犬散歩ガイド』、『東京犬散歩ガイド武蔵野編』、『うちの犬 あるいは、あなたが犬との新生活で幸せになるか不幸になるかが分かる本』、『ジャパンケネルクラブ最新犬種図鑑』(構成・文)

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