西日本豪雨が甚大な被害をもたらしたのは記憶に新しい。しかし、哀しいかな、ニンゲンは、我が身に起きたことじゃないと、すぐ記憶の中から薄れていく。だけど、そんなことじゃいけない。私たちには、大切な獣の家族がいるじゃないか。まだ日本では、ペットに対するバックアップ体制は整備されていない。もちろん人命が優先なのはわかる。でも、私たちにとっては、犬たちはもうかけがえのない家族であり、仲間だ。彼らのために準備できること、忘れてはいけないことを、防災週間をきっかけに心に再燃させたい。
喉元過ぎれば熱さ忘れてしまいがちだが、日本は本当に自然災害の多い国だ。自然災害には大きく2つある。以前、別メディアの記事でも書いたことがあるが、ここでも簡単にまとめてみたい。
誘因(1次的自然現象)と、それによって引き起こされる2次的災害現象の主要なものを示してみたが、こんなにもいろいろな種類がある。言われてみるとニュースで聞いたことのあるものばかりだ。海辺に住んでいなければ津波に襲われることはないし、活火山のそばに住んでいなければたぶん噴火の危険は少ない(でもゼロではないのが日本列島の怖いところ)。しかし、人間に台風の進路を変える力はない。地震も全国どこで起きても不思議はない。明日、自分とその家族(犬も含む)が被災者になるかもしれないのだ。
自分が実際の被災者になったことがないと、つい呑気に構えがちだが、本当に自分が被災したり、あるいは実家、親戚、友人たちが被災したら、他人事ではなくなる。今はたまたまスーパー・ボランティアのおじいちゃんの登場で、テレビなどで繰り返し過去のボランティア活動についてもクロースアップされているが、それを見ると、7月にあった西日本豪雨でも、ああ、広島には8月中旬になってもまだこんなに土砂が積もっているのか、泥かきの作業は気の遠くなるほどの大変な作業だなぁ、と被災地の痛みを想像した。
災害後数週間くらいは、被災地の様子が報道されるけれど、西日本豪雨の報道ももうあまり目にしない。当時はあんなに大変だったのに。当時は、日本中のみんなが心配をしたのに。でも、昨日近所のコンビニで聞いたのだが、広島県や岡山県などで宅配便の発送受付をほんの昨日(8/30時点)まで中止していたエリアもあったそうだ。そして広島の一部のエリアでは、今日の時点でもまだ遅延になるとのこと。
道路が寸断されているのか、通行不能なのか、人が住めない集落になってしまったのか。いったい被災地は今なおどうなっているのだろう。6月28日から7月9日に起きた集中豪雨の影響が、まだこんなに人々に影響を与えているのか、と、都内のコンビニでふと身に染みた(とくに私は、広島育ちなので、大学のときの友人の家など、馴染みのあるローカルな町名が、渋谷区のコンビニのレジ横に貼られていたので、よけい気になったのだと思う。これが全然知らない町の名前だったら、気にも留めなかったかもしれない)。
そういう「他人事」意識が、防災のいちばんの見えない敵な気がする。
報道はほとんどされないけれど、自宅が全壊し、本格的な(長期的な)仮設住宅住まいになる人たちも多いに違いない。災害直後、土砂崩れ現場で人命を助ける、というのも一刻を争う重大なことだが、これから長期にわたり被災生活をしなければならない人々の暮らしを想像すると、胸が詰まる想いがする。災害は、一過性のものではなかった。辛いのは今からも、いや、もしかして今からが大変なんだ。
また、先日、犬関係の知人と数年ぶりにお話ししたら、彼女の実家は大阪北部で農家を営んでいるそうなのだが、今回の大雨でスイカとズッキーニの畑が全部水没したという。広島県や岡山県だけでなく、大阪府でもとは知らなかった(きっとかなり広い範囲で影響を受けている、困っている人たちが多いんだ、と恥ずかしながら今さら認識)。農家の人の経済的な被害も大きそうだ。しかも、彼女のおうちは、当時の阪神淡路大震災で自宅が全壊、そのうえ、大阪は今年の6月18日にも大きな地震(正式な名前がついていないそうだが、大阪府北部地震と俗称で呼ばれている)があったばかりじゃないか。
大阪府大阪市北区、高槻市、枚方市、茨木市、箕面市の5市区で震度6弱だそうだ(6弱とはけっこうひどい。東北大震災のとき、東京23区は5弱〜5強)。彼女の実家も今回トイレの柱が折れて、このたび新しく水洗トイレになった、と笑っていたけれど......。関西、大変だ......。
命が助かった後にのしかかる経済的負担や精神的負担もかなり大きいに違いない。もしかしたら、それで今後犬を飼うのを諦めてしまう人もいるのかもしれない。そうはしないで欲しいけれど、でも実際に家がなくなり、仮設住宅に行くとなると......。よそ様に迷惑をかけたくないので犬は連れていけないと、遠慮したくなる人の気持ちも想像できる。とくに中型犬や大型犬で、今まで屋外飼育だった犬はよけい同伴しずらいのかも。明日の自分の生活を守ることに必死にならざるをえないのはわかる。昼間、犬だけを仮設住宅に残して、もとの家の片付けや仕事に行っている間、吠えたらどうしようとか。(でも! そんな人のために一般社団法人Do One Goodでは、広範囲で洪水の被害にあった岡山県真備町で、トレーラーハウスを活用し、被災ペットのデイケア一時預かり活動をただいま実施中!)
身近な人の、身近な被災談。そういうのを聞いて、初めて我が身のように痛みを共有できる。でも本当はこんなことじゃいけないね。もっと想像力を働かせて、もっと知ろうとする努力をしないと。そしてその努力が、今後、自分の犬を守る礎になると思うのだ。
Do One Good代表の高橋一聡さん。東日本大震災、熊本地震、西日本豪雨災害への支援を今も継続して行っている
そこでふと気がつく。最近、迷子犬情報がとみに多いのだ。たしかに日本の夏は、花火大会や夕立の雷も多く、音響シャイ(大きな音が苦手)な犬にとってはしんどい季節である。でも、それに加えて、今回西日本で広範囲な災害があったために、避難する前に庭につないでいた犬を放したとか、同伴避難する場所がない、あるいはあったとしてもその情報を得ることができずに自宅に泣く泣く置き去りにして、離ればなれになった犬が意外と多いのではないか。川の氾濫に流されたり、本能的に高台の山の方へ逃げたりして、迷子になってしまった可能性はありそうだ。
実際、SNSでは迷子の犬の情報が毎日たくさん流れてくる。泥だらけでいかにも豪雨の中、彷徨った姿の犬もいた。ああ、迷子札を首輪に付けていてくれたなら(24時間付けっぱなしでお願いします)。さらにマイクロチップも入っていたら、少なくとも保健所で身元がわかり、飼い主さんとまた再会しやすいはずだ。
また、前述のDo One Good代表の高橋一聡さんと少し話したのだが、なるほど、と思ったことがある。
「(発災時)自分は会社、ペットは自宅にいたケースもあった。自宅までペットを迎えに行くのは間に合わず、会社近くに避難。自宅のエリアは被災していなくても、会社エリアだけ被災したらもう迎えにいけない」
例えば今回のケースでは、真備町で働いていたが、川が氾濫。川で阻まれた向こう側に自宅があり、そこに愛犬がいる。こういう状況だと、犬を助けに行きたくても、動けない。あるいは、もっと最悪なことに、会社にいても自宅にいても、飼い主だけその場で亡くなってしまい、犬だけ助かっていることもあるという。
そんなとき、動物保護団体や心ある有志が、犬を助けても、「名前も、病歴も、クセ(苦手なもの、攻撃しやすいもの、気を付けねばならないことなど)もわからない状態なんです。犬も混乱します」
なるほど......そうだよね(涙)。飼い主が迎えに来ず、知らない人が自分に近寄ってきて、知らない場所に連れて行かれて、とりあえず違う名前で呼ばれて、今まで食べていたものと全然違うフードになって......犬が混乱し、不安になるのは当然だ。
災害というのは、どういうタイミングで起きるかわからない。まず、いちばん大切なのは「飼い主が無事でいること。生きて、愛犬を迎えに行くこと」が望ましい。
その次は、もしすぐに迎えに行けないとしても、今はかなり動物福祉団体が頑張って人道的、いや「犬道的」「猫道的」な活動をしてくれることが多い(なんてありがたいのでしょう)。その際に、一時的に預かってくれるボランティアさんの手を少しでもわずらわせないようにすることが大事なのではないかと、今回、気がついた次第である。
そのためにできることを記してみよう。
以上は、飼い主以外の人が、しばらく愛犬を保護してくれるケースを想定してみたが、もちろん自分が自宅にいるときに、犬と一緒に被災することもある。そんなときのために、犬用の避難グッズを事前に用意しておくことや、指定避難場所の確認(できれば給水場の位置も確認。たとえば渋谷区なら代々木公園内に災害時の給水施設が設置される。地元の防災訓練に参加すれば、犬のことに関係なくいろいろ情報収集することができる。とにかく飼い主が無事でいることが、いちばん愛犬を守ることなのだ)。また、避難場所までの近所の道路にガラスの破片が散らばっていることもあるかもしれないから、靴を履いて歩ける練習もしておくとよいだろう。
地方自治体により、ペットの同行避難(発災時、犬猫も飼い主と一緒に避難すること)、同伴避難(発災時、犬猫も一緒に避難し、さらに避難所などで一緒に避難生活を送ること)に対する取り組みに、温度差があるのは事実である。しかし、今回、西日本豪雨では、岡山県総社市は同伴避難を市長自ら呼びかけ、ペットも連れて行けるすぐ避難所を設置したり、それに続くように真備町含む岡山県倉敷市でもペット同伴できる避難所ができた。飼い主にとっても、犬にとっても、ありがたいことである。こうした前例をお手本にして、全国どこの自治体でも犬とともに避難生活ができる体制が実現することを願う。
とにかく、災害は、明日は自分と自分の愛犬の住むこの場所で起きるかもしれない。その気持ちを常に持ち続けよう。そして、今、被災して頑張っている方々に、直接お手伝いしに行く時間や体力がなくてもできることはある。地元に飛んで頑張っている動物福祉団体の人や地元ボランティアもいるので、少しでも寄付などして応援したい。「復興をみんなで願う。痛みと悦びを共有する」、愛犬家同士の横のネットワークもつなげていこう。
【参考資料】
■国立研究開発法人 防災科学技術研究所 自然災害情報室
自然災害情報室(DIL):トップページ - 防災科学技術研究所
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