
犬との暮らしの中での困ったことや素朴な疑問などをお聞きする、庶民派犬オタクによるお悩みよろず相談コーナー。みなさんからの熱のこもったご相談にお応えしていくには、記事1本必要だ!ということで、1コーナーとして不定期連載していくことになりました。今回のご相談は、犬のごはんに関してです。
【ご相談】
先日は、(飼い主がそばにいないと)ごはんをむしゃむしゃ食べないボーダー・コリーの相談に、丁寧な回答をありがとうございました。
おかげ様で、ボーダー・コリーに詳しい方々のご意見もいただき、少し余裕を持てるようになりました。そうすると飼い主の余裕が、犬にもわかるのか、傍らにいると安心してか最近はずいぶんと食べるようになりました。とはいえ、少食の感じですが、元気なので良し、です! 今朝もいっぱいランニングとボール遊びをしてきました。
さて今回、もう一つ質問をさせてください。
「かえさんは、手作りとドックフードを両方、上手に与えているようですが、生肉を与えることもしているのでしょうか?」
本来は、生肉が主食だった犬も、人間に飼い慣らされ、現代では雑食になったけれど、本当は、生肉を週1回位でも与えた方が歯もきれいになるし、骨付きならカルシウムなどの摂取にも良いと聞きました。さていかがなものか......。注意点などもあれば教えてくださいませ。
(E.Sさん/女性)
こんにちは、Eさん。またお便りくださり、ありがとうございます。「クパメル隔週レポートvol.16」で、「犬ってパクパクと餌を食べるものではないのでしょうか」とご質問してくださった方ですね。
愛犬がごはんを食べるようになって、よかった! そして何よりも、飼い主さん自身がおおらかになり、余裕がでてきた感じがして、それがよかったと感じます。
さて本題の「犬に生肉を与えてもよいか」というご質問についてお答えします。この案件は、いろいろな獣医さんらの意見があるので、いち飼い主の私が言うのもおこがましいですが、個人的な意見としては、答えは「YES」です。
Eさんの言うとおり我が家では、手作り食をベースに、生肉や生卵、生魚(生の動物性タンパク質)、豆腐、油揚げ、納豆(植物性タンパク質)を入れたり、ドライフードをふりかけのようにトッピングしたりしています(基本、大雑把なニンゲンなので、分量を量ったり、細かいことは気にしていません。笑)。ただやはり栄養バランスが崩れるのが心配なので、動物の栄養学について詳しい獣医の友人を「犬めし師匠」と頼り、いろいろ教えてもらいました。手作り食や生食についてはいろいろな意見があるし、与えていい食材(肉はほぼ同じ見解ですが、野菜やミネラルにはご意見が複数あるようです)や、生食の是非など、諸説あるので、やはりセミナーに参加するなどして犬に必要な栄養素などについて勉強されることをオススメします。くわえて、それぞれの犬により、アレルギーなどの体質の差がありますから、すべての犬でOKとも言えません。最初は少量からトライして(ちなみに初めて生肉を急に与えると、ウンチが緩くなる犬が多いようです)、愛犬のウンチや皮膚などを観察し、徐々に量を増やしていく方が安心。
今日は贅沢にラムチョップ(骨付き仔羊肉)。野菜は、カボチャとサツマイモとイタリアンパセリとチアシード。亜鉛とオメガ3-6-9のサプリも入れてみた
ただうちがドライフードをトッピングしているのは、万が一、被災して犬とともに避難したときや、冷蔵庫のないキャンプ旅行などをするときに、好き嫌いなく、保存性の高いドライフードでもなんでも食べられる犬に育てたいからです。あと、多少なりとも栄養バランスの補填になるかなとも思っています。
とにかく、我が家の犬めしは、下痢や軟便にならずにいいウンチがでて、オシッコ量や色がほどよく、太ってきてないか、痩せてきてないか、毛艶が悪くなっていないか、皮膚に紅斑などがでていないか、などが基本の指標です。犬がデブになってきたかもーと思ったらごはん量を減らし、痩せてきたかもーと思ったら炭水化物や脂を多めにします。肉球のガサガサ度のチェック(亜鉛不足の可能性あり)や、歯茎の色のチェック(貧血の可能性あり)もします。ニンゲンの子どもは声にだして「具合が悪い」とか「おなかが痛いくらい食べ過ぎた」と言ってくれますが、犬は言えないので、そこは飼い主の観察力が非常に重要であり、責任重大な部分です(これはドライフードオンリーのおうちでも同じですね)。
そして「なんかへんだぞ」と思ったら、動物病院で血液検査をしてもらい、栄養状態の検査をしてもらおうと心づもりしていますが、今のところ(毎日生肉をあげるわけでないですが、こんな犬ごはんの与え方を15年ほどしています)その必要性はなく、通常の健康診断で問題がないので、そのまま続けています。
生肉が犬によいかどうかですか、私見ではありますが、日本でもそれこそ昔のマタギはじめとする猟師が飼っていた犬は、シカやイノシシやウサギなどの生の赤身肉やモツを与えられることが普通だったと思います。海に囲まれた日本の地犬である日本犬たちは、漁師が獲った魚のおこぼれをもらうことも普通だったでしょう。刺身の切れ端や頭などを生のままポンと与えられることあったでしょうし、猫まんまのように味噌汁の残りや穀類や野菜の切れ端を加熱調理したごはんのときもありました。犬は雑食動物なので、わりと消化器の守備範囲が広い、適応能力の高い動物の1種だと感じます。
でも、1960年(昭和35年)に日本初のドッグフードのビタワンが発売され(懐かしいですね〜。あのマークは可愛い。最初は、畜産業の飼料に近く粉状だったそうです)、それから高度経済成長期になり、一気にドライフードが日本に普及しました。つまり日本で飼育されている犬がドライフードを食べるようになって、まだ60年も経っていないということです。
「生肉はダメ」という説もありますが、それは新鮮な生肉を調達することが難しいから、という理由の方が大きいのではないかなと思います(寄生虫や感染症の問題が起きやすいため)。1960年代までは生の動物性タンパク質を食べていた日本の犬は多くいたはずです。
また私は、こちらの記事など、以前から生食について何度も記事を書きました。1993年、オーストラリアのDr. ビリングハースト獣医師が提唱した「バーフ(BARF)」(Biologically Appropriate Raw Food。「生物学的に適正な生食」という意味)で広まった「バーフ・ダイエット」(骨付きの生肉を与える食事療法)が、日本に上陸した頃、最初取材したときは、自分も生食に対して半信半疑というか、今までの常識を覆されて戸惑いましたが、ともあれ取材をきっかけに、生食や手作りごはんに興味を持ち始め(Dr. ビリングハーストにもお会いしました)、うちの犬で人体実験ならぬ犬体実験をしてみました。
英語でロー・フード(Raw food。Raw=生)と言われる生食のメリットは、ざっくり言うと、以下のとおりです。
新鮮であれば(最近では生食対応の犬用の精肉が通販などで入手できます)、ほぼ何の肉でも生でOKです。ウシ、チキン、ラム、シカ、ウマなどの生食は日本でもわりとポピュラーになりつつありますし、ターキー、カンガルー、ウサギなどもあります。また赤身肉のところだけでなく、骨の髄(ここに栄養が詰まっています)、内臓(ここに草食動物の消化器官にある野菜の残骸と酵素が多く含まれています)も新鮮で適量であればOKです。また、お魚のお刺身も生の動物性タンパク質です。
北海道からシカ肉がいっぱい届いた! きっと犬にはかなり魅惑的な香り。箱から離れないクーパー
ただ、よく知られているように、豚肉の生はNG。トキソプラズマやE型肝炎などの感染の恐れがあります。でもたまに生食OKの豚肉も販売されているので「おや?」と思うかもしれません。それは、業務用冷凍庫で−20℃以下で急速冷凍し、24時間以上経過すると、ウィルスや内部寄生虫が死滅するから。そのような特別な処理をされているブタは生でOKとペット用に市販されていることがありますが、うっかりスーパーで普通に買った豚肉を生であげないようにしてください。ちなみにイノシシも生では与えません。イノシシを家畜化したのがブタだからです。
さらに、青魚(アジ、イワシ、サバなど)は鮮度が落ちやすく、アニサキスという寄生虫がいる場合があります。内臓はあげないように。また鮮度が悪いと寄生虫が身の部分に移動していることがありますから、心配な場合は青魚は加熱した方がいいかもしれません。
漁港直送の業務用の魚を取り寄せることも。大型犬2頭だと10kg以上でもけっこうすぐ食べちゃいます。なので犬のごはんのための冷凍庫を買いました
白身魚(タイ、ヒラメなど)、赤身魚(マグロ、カツオなど)のお刺身はOK(加熱してももちろんOK)。ちなみにシャケは、サーモンピンク色をしているので赤身魚かと思われがちですが、実は白身魚に分類されます。シャケのオイルにはとてもいい栄養があり、ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)、アスタキサンチンなどが豊富。「魚肉の消化性は一般的にほ乳類・鳥類の肉に比べ劣るが、日本犬や北方のソリ犬など何世紀もの間魚を食べ続けてきた歴史から、犬種によってはほ乳類の肉よりも魚の方が体に合ったタンパク質源であることがある」「鮭の生食によるビタミンB1欠乏の心配はない」とまで評されているほどで、うちのすぐ下痢になりやすいジャーマン・ショートヘアード・ポインターでの実験でも、シャケはけっこう生でも煮てもOKの便利な食材で、出番が多いです。
ちなみに「チキンの骨は、犬にあげてはいけない」とよく言われますが、生の骨なら大丈夫なんです。加熱した骨はタテに裂けて食道に刺さったりするのでダメですが、生の骨なら裂けません。大型犬ならチキン丸ごと生で1羽与えても平気です(犬へのお誕生日プレゼントにしたことがあります。笑)
骨を噛み砕くのは、思いきりアゴを噛みしめ、前肢まで使ったりしてけっこう全身運動なので、犬にとってはストレス発散というか、犬としての悦びを感じる瞬間でもあります。酵素もそのまま摂取できるし(酵素のおかげで歯石がとれる)、骨をしゃぶったり、囓ったりすると唾液がたくさん出て歯石が取れるとも言われています。もちろんカルシウムも摂取できます。
ただし、生の骨を狂喜する犬も多いですが、食べ過ぎは、ウンチが硬く白くなり便秘になったり、歯が欠けるコもいます。さらに中途半端に大きいまま飲み込んでしまうと、消化器官内に詰まって閉塞を起こし、最悪、開腹手術して除去しないといけないような大ごとになることもあります。骨を与えるときは、しっかりそばで見張っておいてください。
ウシやシカの大腿骨など大きな骨の場合はいっぺんに食べると多すぎるので(犬の大きさや消化機能にもよりますが)、途中で取り上げることも必要です。犬は骨に夢中になっていると思いますが、そんなとき「ウーッ」と飼い主に唸ったり、噛みついたりしないように、普段からよい関係を築いておいてくださいね。また多頭飼育の場合は、骨を食べているときは犬同士のケンカが勃発しやすいので注意してください。まあ、それくらい生の骨は、狂喜しちゃう魅力的な食べ物といえます。野性の本能を呼び起こすのかもしれません。
燻製したシカの足。最高にいい香りで犬は狂喜。大きな骨付き肉を囓ることは全身運動になる
こんな風に魅力も注意点もある生食(生の食材を与えること)ですが、とにかく、犬によって消化機能に個体差が大きいです。体質により、加熱したごはんでないとどうしても下痢する犬もいます。また、食材によって、あるいは量によっても左右されます。たとえばうちの下痢しやすいジャーマン・ショートヘアード・ポインターは、生でも茹でてもレバーはほんの少しならセーフですが、ちょっとでも多めだと見事に翌日水下痢になります。でも胃腸が強靱なボクサーの方は同じものを食べているのに全然平気。個体差もありますが、消化酵素の違いなのか、犬種差もあると聞きました。もちろん血統差もあると思います。
なので、鮮度にしろ、食材の種類にしろ、量にしろ、生食はそういう加減が難しいのは事実。加熱してあるドライフードを、体重換算で与える方が、簡単でリスクが低いと思います。「生食がいいと聞いたから」と、何が何でも愛犬に生食にする必要もありません。
でも生肉を食べるときに、犬が目をキラキラさせるというのはたしかにあります。最初は、ドライフードに少量をトッピングすることから始めてみてはどうでしょう? あ、もうひとつ注意点がありました。新鮮ないい肉や生骨が手に入ると、ついつい解凍したとき「新鮮なうちにいっぱい食べな♪」とあげたくなったりしますが(←私のこと)、与えすぎは下痢のもと。とくに赤身肉は消化がよいゆえに、吸収もされずにスルーして水下痢となって出てしまうことが多いそうです。愛情のつもりが、大失敗になることもあるので、注意してください。おなかを壊さないように、ゆっくり試してみてくださいね。
生肉(ラム肉)、加熱した野菜や肉(豚肉)、オートミール、ドライフード入りの手作りごはん。クーパー、ワクワク!! 早くちょうだい!
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白石かえ
犬学研究家・雑文家。家族は、ジャーマン・ショートヘアード・ポインターのクーパー、ボクサーのメル、黒猫のまめちゃん、夫1、娘1。前職は、自然環境保護NGO・WWFジャパン。犬猫と暮らして30数年。彼らの存在は可愛いだけでなく、尊い。犬が犬らしく生き生きと暮らせる、犬目線の原稿を書くのがライフワーク。
●執筆サイト: dogplus.me 犬種図鑑 ほか多数
●ブログ: バドバドサーカス
●主な著書:
『東京犬散歩ガイド』、『東京犬散歩ガイド武蔵野編』、『うちの犬 あるいは、あなたが犬との新生活で幸せになるか不幸になるかが分かる本』、『ジャパンケネルクラブ最新犬種図鑑』(構成・文)
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