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2018.07.27

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順風満帆?!あおとの暮らし【柴犬生活航海記 vol.13】

白柴・あおの痛かった1カ月

2015年・秋から「あお」と名付けた柴の仔犬と暮らし始めた「犬の新人飼育員」の「僕」と「もうひとり」。これまで大きなケガも病気もしたことのなかったあおは、そのまま何事もなく3歳を迎えられるはずだったのだが......。

#Activity / #Lifestyle

Author :写真・文=舘川範雄 協力=(株)浅井企画

あお転倒

 あお、2歳最後の月であった6月は、あおにとっても、我々にとっても、過去最悪の1カ月だった。それはすべて僕のせい......。

 5月22日。誰もいない夜の公園。「走りたい!」とあおが言った。プレイバウで僕を見上げるのが、あおの"走り回り遊び"開始の合図である。誰もいないとはいえ、ちょっと気になった。それほど思い切り走り回れるような広い場所ではないこと、街灯の灯りがあるとはいえ、少々暗い。

 その日のあおは、近所の散歩コースに飽きていたのか、なかなか歩こうとしなかった。明らかに運動不足。そこにあおからの「走りたい」というリクエスト。僕はあおの要求に、つい応えてしまった。それが全ての始まりだった......。

 周りに誰もいないことを再確認し、長いリードに付け替えると、あおは嬉しそうに走り出した。障害物を器用に避けながら公園の中をぐるぐる走り回るあお。風を切るその顔は真剣さの中に楽しさがあふれている。僕が大好きな顔だ。

 あおが走る後を僕が追った。

 最初のうちはよかった。けれど3周目であおが走る軌道は大きくなり、それまでの爆走エリアに入っていなかった滑り台が新たな障害物として加わった。あおのスピードが乗ってきて追いつけない。

「あお、ストップ!」

 いつもならそれでスピードを緩めてくれるあおだったが、興奮していたのだろう、そのまま次のカーブを回ろうとしていた。僕の足元に、遊具の出っ張りが見えた。スピードを落とさず飛び越えようと思ったが引っ掛け倒れてしまうかもしれないと、あおに再度声をかけた。

「あお!ごめん、ストップ!」
 しかしあおは止まらなかった。ガツン!手元に衝撃が伝わった。リードの先を見ると、転倒しているあおの姿!

「うそ?!転んだ?!」
 急ブレーキをかけられたあおは、左側を下にして転んだ。

「あお、大丈夫か?!」
 声をかけるとあおはスクっと起き上がり、再び猛然と走り遊びを続けた。

 よかった。一安心。あおはその後、数周回ってヘトヘトになり、疲れたーと地面に寝転がった。水を飲ませながら「盛り上がったな、あお」などと言いつつ、しばし休憩後、帰宅した。

あお故障

 家で待っていた"もうひとりの飼育員"に足を洗われ、晩ごはんを食べたあおは、食後の休憩、横になっていた。しばらくして、のどを潤そうと起き上がったあお。歩き出した時、一瞬、左の後ろ足を引きずった......。

「え?」

 もうひとりの飼育員に公園で転んだこと、今足を引きずっていたことを伝えると、
「でも足を拭いた時は痛がってなかったよ」と、(心配しすぎ!)というトーンで言われた。

「でも今、足を引きずってたんだよ」
「さっきはなんともなかったよ。大丈夫でしょ?」

 嫌な予感がした。

 このパターン、もしや映画でよくあるアレではないのか?

「大丈夫だよ」と言う楽観的なキャラを信じ安心していると、いきなり巨大なサメ、もしくは肉食恐竜、またはゾンビ、及びエイリアンに襲われて命を落とすあのパターンじゃないのか?! ここで安心したら終わりだ......。転んだのも見た、そして今、ちょっと足を引きずっていたのも見た。これは大丈夫でもなんでもない。どうしよう......全ては僕のせいだ......。

 二日経ってもあおは、起き上がる度に足を引きずっていた。

 けれどすぐ普通に歩き出すので、様子を見ていたのだが、それが数日続いた。念の為、病院で診てもらった。

「骨にも異常はないようなので、様子をみましょう」
レントゲンは撮らなかった。

 翌日、今度は足を上げてぴょこぴょこ歩くようになった。もう一度病院へ行くが、特に異常はみられないと言われた。けれど次の日も、あおは座った状態、寝転んだ状態から起き上がると、左後ろ足をかばいながら浮かせていた。しかし、しばらくすると足をつけて普通に歩くことはできる......。この状態が1週間続いた。

 このまま様子を見続けようとも思ったが、近所にあるもうひとつの病院に、予約を入れた。念の為にセカンドオピニオンの意見も聞きたかったのだ。

 初めて診てもらう病院。僕は付き添えず、もうひとりの飼育員が担当した。

 打ち合わせ中にメール着信。彼女からの診察結果が届いた。文面を見て、息が苦しくなった。

  • 病名
  • 膝蓋骨内方脱臼
    グレードはⅣまであるうちのⅡ
  • ◯原因
    遺伝的要因と外的要因
  • ◯治療
    グレードⅡ以上から外科手術の対象となる。
  • 入院1週間
    費用30~35万円前後
    術後2~3ヶ月は散歩控える。
    柴犬は特になりやすく、手術しても再発の可能性高い。

 読み進めながら目の前が少し暗くなった。
(手術?!うそでしょ?)

 そもそも、病名が読めない。「膝蓋骨内方脱臼」?!調べる。
『しつがいこつないほうだっきゅう』

 

 もうひとりの飼育員に電話をかけて詳しく聞いた。
 病院の診断としては、「転んだ時、左後ろ足の膝の皿を脱臼していたのではないか。すぐに骨は戻ったがズレた時に筋肉を痛め、その痛みがまだ残っている状態ではないか」ということだった。「基本的には脱臼は治らないので、普段からよく歩いて筋肉をつける、飛び降り、フローリングには気をつける、今は大丈夫だが、歳をとってから20%くらいで前十字靭帯の損傷になる恐れがある」と言われて帰ってきたという。

 ため息が何度も出た。
 あの時、あおの誘いに乗らなければこんなことにはならなかったのに......。激しく悔やんだ。タイムマシンに乗ってあの夜に戻りたい......そんなことまで思った。

 散歩を始めた頃、初めてあおが走ったあの瞬間。並走しながら見た、あの嬉しそうな顔は今も忘れられない。必死に走るあおの横顔。

「こいつ走るのが好きなんだな、走るために生まれてきたんだな」と思ったことも覚えている。

 いつしか追いつけないぐらい速く走れるようになったあお。走ることが大好きなあお。それなのに僕のせいで、もう思い切り走れなくなるかもしれない......。

 泣きたくなった。
 少し泣いた。

 できることはないか?サプリメントを取り寄せた。家ではフローリング部分を減らすため、廊下にもタイルカーペットを敷いた。

 2週間経ってもあおの足は治らなかった。

 起き上がるたびに足を浮かせて歩く。時には左後ろ足を浮かせたまま3本足でぴょんぴょん駆けることもあった。その後ろ姿を見るたびに「不憫」の二文字だけが浮かんだ。

 ごめんあお、俺のせいだ。ごめん。

 立ち上がってから15秒ぐらいは足を上げているが、そのあとは普通に歩けた。走ることもできた。一体あおの足に何が起きているのか?

 医師には「たくさん歩いて筋肉をつけるように」と言われた。でも「そんな状態で歩かせてホントに大丈夫なの?」と言う人もいた。どうしていいのかわからなかった。

 いつ治るのか?本当に治るのか?一体どうすればいいのか......。

 毎日が不安で仕方なかった。

しょっちゅう左足をかばっていた

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左足を浮かせて走ることも......

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あお治る!

 歩行に支障はないが、立ち上がってしばらくの間、足を浮かせる症状はそのまま......。転倒からちょうど3週間が経った日、我々は3人目の先生にあおを診てもらうことにした。その先生は骨格のエキスパート。あおが足をあげて歩く動画を見せると
「膝じゃなくて足の裏かもしれない......」
 新たな説が浮上した。

 あおの足の触診が開始された。

「ウゥ......」
 左後ろ足、内側から数えて二番目の指を触られた時、今までおとなしかったあおが痛みを訴えて唸った。ある方向に曲げると、今度は顔をしかめた。

 先生がさらにいろいろな方向に曲げながらチェックすると、「キャン!」と珍しく強く吠えて先生に痛みを伝えた。
「これだな」
 先生の診断はその指の捻挫、もしくは亜脱臼。あおの指を引っ張りながら、調整してくれた。

「これでどうかな?」
 あおをしばらく座らせ、すこし離れたところに行って呼んだ。

「あお!おいで」
 いつもなら左足をかばい、立ち上がると左足を浮かせるあお......なのに、あおはしっかりと足をつけて歩き出した!! 1カ月以上治らなかったのが嘘のよう、あおの左後ろ足はしっかりと床を踏みしめていた!

 そして帰宅後も、あおが足を浮かせることはなかった。次の日も、その次の日も。やったー!治ったーーー!

 そもそも膝の脱臼自体があったのか、なかったのか......今となってはそれもわからない。ただあおが最後まで足を浮かせていた原因は膝ではなく、指だったということは事実だ。それまで指の故障を疑う人がいなかったのは不思議だが、素人の僕にはそれが誤診だとは言えない......。あおのケガはかなりのレアケースだったのかもしれない......。

 5週間と数日、もどかしい生活を送らせてしまったことを僕は心から反省した。あおとの関係は良好になり、いろいろなことをたやすく感じ始めていた。今思えばそれは気の緩み。

「あおは"ストップ!"と言えば走るのをやめるから大丈夫」

 ......過信である。あんな場所で走らせて良いわけがない。いけないと思わなかったことが問題だ。「あおなら大丈夫かな」......「かな」が付いた時点で「大丈夫」でもなんでもない。

 この経験で僕が学んだこと。それはあまりにも当たり前すぎて恥ずかしい......。

『油断大敵』

 太ゴシック体がよく似合う四字熟語のスタンダード。この言葉に尽きる。

"あらゆることに注意を怠らずにいこう"
"「大丈夫かな」はなしにしよう"

 僕の油断で辛い思いをするのは、あおなのだ。飼育員として、新たに気を引き締めた。


 あおをクルマに乗せ、久しぶりに新横浜にある公園に行った。ここは、あおが転倒した公園の数百、数千倍の広さだ。夜の7時を過ぎ、広大な芝生の広場には僕ら以外、誰もいなくなった。長いリードに付け替え、あおを誘った。

「あお~走るか!?」
 あおの表情が変わった。
「走る?いいよ!」
 あおの目は輝き、僕の合図を待つ。
「よし!いこー!」
 合図と共にあおは駆け出した。

 あおは走り出す時、実にいい顔をする。本当に走ることが好きなのだ。

 あおは駆け回った。僕を挑発するように周りをぐるぐる回り、リードの長さの限界がきて、少し首に抵抗を感じるとスピードをゆるめながら僕が追いつくのを待ち、そして再びスピードを上げて走り出す。空気抵抗を減らすためだろう、姿勢を低くし、弾丸のように突き進むあお。

 あおが走る姿を見られることは、これほど幸せなことなんだ。

 目の前をあおが走り抜けていく。僕はあおに声をかけた。

「あお走れ!お前は走るために生まれてきたんだ!あお走れ!もっと!もっと!走れ!あお!!」

 嬉しさで、前が滲んだ。

走り疲れて倒れ込み休憩

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 あの日、東京の梅雨が明けた。
 ひと月続いたあおの痛みは、梅雨空とともに消え去った。
 6月29日、あお復活!
 忘れられない日となった。

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(つづく)

◎プロフィール

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舘川範雄 (たてかわ のりお)
1966年9月19日生まれ。1987年4月から作家活動に入る。
「コサキン」「SMAPxSMAP」「ポンキッキーズ」「スクール革命!」「THEカラオケ☆バトル」などテレビ、ラジオで多数の番組構成を担当。また関根勤主宰「カンコンキンシアター」の他、オリジナルコメディーやミュージカルの作・演出など、活動は多岐にわたる。
*本連載の1stシーズン【柴犬生活漂流記】は、こちら
*インスタグラム(ao20150721)で白柴「あお」が毎日、犬の目線で日々の出来事を投稿中! 

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