
2015年・秋から「あお」と名付けた柴の仔犬と暮らし始めた「犬の新人飼育員」の「僕」と「もうひとり」。夏生まれのあおはいつもより早く訪れた今年の夏で3歳になった......。
2018年7月21日で、あお3歳。
「3歳おめでとう!!」という気持ちと「ああ、3歳かぁ......」というため息まじりの気持ちが行ったり来たりする。減っていく感じ......。これが犬と暮らすということなのか......。
なんて、そんなことを考えていても仕方ない!今この時を大切にしなくちゃもったいない! 元気に迎えられた3歳の誕生日。
「何歳ですか?」と聞かれて「まだ●ヶ月なんです」と答えていたあの頃。「まだ●ヶ月なんです」のあとには(なので飛びついたり、ぐいぐい進むんです。だから僕の言うこともなかなか聞いてくれないんです)という、言い訳のニュアンスを込めてつけていた『まだ』。
あおは「まだ●ヶ月なんです」時代を乗り越え、「今2歳です」時代を経て、新時代「もう3歳です」に突入した。
「まだ●ヶ月です」時代のあおと「もう3歳です」時代に入ったあおを、思い浮かぶ範囲で比較してみる......。
【甘噛み】
見事になくなった。「痛い!」とちょっと大げさに言ってその場を立ち去り、別室で息を潜め、あおの様子を伺っていた頃が懐かしい。
【散歩】
常にぐいぐいリードを引き、前へ前へと進んでいたあおは何処へ。今はリードを「し」の字に垂らし、横に並んで軽快に歩く。もちろんごくたまに、ぐいぐい引っ張る時もある。
例えば「カエル見つけた!」とか「ネコがいた!」とか「知らない犬がこっちに来る!」とか「そっち行きたくない!こっち!」とか「カフェ見つけた!入る!」とか......(あれ?結構ある......)。
とにかくまあ、あの頃よりはおとなしい。反対に増えたのは、柴犬あるある、「歩きたくない」の座り込み。今までリードを引かれていた我々がリードを引いてあおを引っ張ることが多い。
【足拭き】
散歩から帰ってきてやらなくてはならないこの作業。あおは大暴れ、こちらも慣れていないので大騒ぎ。足裏をシャワーで洗い流そうとしようものなら、風呂場内を逃げ回り、強引に捕まえてしまっては悪い印象を与えてずっと嫌がる犬になると言われ、左手におやつ、右手にシャワーを持ち「あお、いい子~いい子だね~」と心にもないおべっかを使いながらの作業、辛かった。毎回足を洗うのが苦痛で、履けるようになれば、災害時や怪我をした時にも役立つな、と靴を購入。
(今思えばこれでした。『Summit Trex long』(サミット トレックス ロング)/RUFFWEAR)
川野輪さん(あおが通っていたしつけ教室のトレーナーさん)にお願いして、靴履きトレーニングもやってもらい、それなりに履きこなせるようになった。
今なら我々でも(たぶん)履かせることはできと思うが、
当時はトレーナーさんしかできないワザだった
まずは前足だけ履いて練習
慣れたところで"はじめての靴歩き"
そんな大騒ぎの足洗いにも段々と慣れ、それでも何度か風呂場で軽い怒鳴り合いのようなケンカをしながら、今では日課として受け入れてくれている。
【拾い食い】
木の枝や松ぼっくりを片っ端から口に入れてボリボリ破壊するのが楽しみだったあおに、公園などに置かれているネコのフードなどを口にさせないよう施行した"地面に落ちているもの全部禁止令"。その効果で拾い食い問題は解決。たまーに落ちている松ぼっくりを咥えたそうにしているあおに「それはやめとこうか」と小さく声をかけるだけで「はいはい」と、やめてくれるあおに成長を感じる。
【コマンド】
向こうから知らない犬が来て、なんとなく臨戦態勢をとっているなと思ったら、その場で「オスワリ、マテ」でスルーさせる。これが1歳を越えたばかりの頃はまったくできなかった。それが3歳になった今、......まったくできない......あれ?おかしい。
オスワリを覚えたての頃、信号待ちの時にはよく練習で「オスワリ」をさせていた。横で信号を待っている人に「あら、おりこうね」と言われるたび、僕もあおも内心自慢げだったあの頃。今は「あお、座るか?」と声をかけるだけで、その場にスッと座るあお。命令口調の「オスワリ!」でも「スワレ」でもなく、「座るか?」とか「座っとく?」とか「信号変わるまでまだ時間あるから座ってれば」と話しかけるだけで座るようになったあお。個人的には好みです。
あおと我々は、いろいろな場面で"折り合い"をつけることによって衝突が減っていった。
あおは、今でもきっとされたくないはたくさんあると思う。でも「まあいいよ」と大抵のことは受け入れてくれている。こちらとしても、よっぽどのことでない限り、あおがどうしても嫌だということを強制はしない。だったら代わりにこれやって、と、代案を出すとそれを受け入れることも多い。
あおといっしょに暮らし始めてもう3年。互いの考えや性格がよくわかってきた今、思い悩むことよりも楽しいことの方が増えてきたと実感できる。
ところでオスワリといえば......。
大好きなカフェの店員さんからおやつをもらうあお。
同じオスワリでも、僕を見る時と目が違う
「あなたのことが大好きです......」
こんなにうっとりしているのは、オヤツの力というより、このカフェの店員さんの魅力。あおはこのカフェがおそらく一番のお気に入りなのだ。
この店は以前、よく行く大きな公園のそばにあった。初めて訪れたのは、あおがまだトイレも少々不安だった頃、2015年12月20日。あお、明日でちょうど5カ月という日だった。
そろそろカフェデビューしてみたいなと思った我々は、はじめてのカフェとして、近所にあったこの店を選び、行く前に店のホームページをチェックした。
この店はカフェの他にドッグサロンやホテル、ドッグランもあり、犬初心者にとってはかなり心強い施設であることがわかった。
昼前、公園で散歩をし、その足で店へ向かった。
あおにとって初めてのカフェ。つまり我々にとっても犬連れでの初入店......緊張した。果たしてあおはおとなしくしていられるのだろうか?
案内された席につく。あおは......早くも勝手に店の中を探険しようとしている!他のお客さんがしているように、リードをフックにつけようとしたが、こちら、犬と入店初のド素人、カラナビタイプのフックの外し方がわからない。
カチャカチャ、カチャカチャ......開かない、開かない......手こずっている間にあおは今にも飛んでいきそう......。
(あー爆発しちゃう、爆発しちゃうー)気分は時限爆弾が解除できないハワイ ファイブ オーの誰かである。そんな感じであたふたしていると、すかさずお店の人が現れて、扱い方を教えてくれた。
我々の料理が運ばれてきた。
しかしあおのちょろちょろは終わらない。他の犬はみんなじっとしているのにーーー!隣の犬に挨拶したい!通り過ぎる店員さんにかまってもらいたい!運ばれてきた料理を見たい!どんな匂いか嗅ぎたい!なんならひと口食べたい!とにかく落ち着きがなかったことを覚えている。
最初に運ばれてきたミニサラダに手をつけようとすると、あおがワチャワチャ。それに対応している間にメインが運ばれてきてしまい、テーブルは皿だらけ。それでもあおはチョロチョロし続けるので、どんどん料理が冷めていく。
どちらかがあおを見ている間に、もうひとりが大急ぎで食べる......。食事を楽しむどころではなかった。
最後はマットを借りてあおをソファーに乗せ、(このお店はマットを敷けば椅子の上OK)なんとか食事を終えた。
やっと落ち着いたあお
カフェの楽しさを存分に味わったあおは、この日を境に、この店に行くために散歩に出かけるようになってしまった。"あお・カフェLOVE"の幕明けである......。
例えるならホストクラブに足繁く通うマダムのごとく、あおはこの店に入り浸った。当然、付き添いが必要だ。我々も一緒に入り浸る形になった。
通っているうちに名前も覚えてもらえ、カフェスタッフ、そしてドッグサービスのスタッフまで、オールスタッフがあおを見つけるとかまってくれた。
店に入った瞬間からずっと笑顔のあお。店の人が近くを通るたびにかまって!遊んで!わたしはここにいるよ!と、クンクン鼻を鳴らし、尻尾をブンブン振り回し、アピールしていた。
そんなに好きなら......と、シャンプーもこの店のサロンでしてもらうことになり、すっかり常連となったところで、あおのはじめての誕生日が近づいてきた。
レストランでたまに、店内が暗くなってハッピーバースデーのサプライズが行われることがある。曲が流れて店員さんがローソクを立てたケーキを運んで......。知らない人だけど、一応同じ店にいる者として拍手かなんかする。
でも個人的にはこの手のお祝い、ちょっと恥ずかしい。もうひとりの飼育員もどうやらそうらしい。
このバースデーの演出、あおが大好きなこのカフェではほぼ、犬のために行われることがほとんど。何度か見たことがあった。
照明が暗くなり、曲が流れ、ローソクを立てたドッグメニューが運ばれて店員さんの「◯◯ちゃん、◯歳おめでとう!」の声。我々にはなかなかハードルの高い演出である。
「あおの誕生日、どうしよう?」
いつもの公園で会う犬との暮らしの先輩の中には、お手製のバースデーケーキを作っている人もいた。手作りのごちそうを作るスキルはまだない。
「あの店でやる?」
「やるしかないね」
2016年7月21日、我々は勇気を出して、あおお気に入りの店「アンディーカフェ」で1歳を祝うことにした。
その日は雨。あおはドギーステップ(あおが通っていた犬の幼稚園)の日だった。
誕生日の犬は記念撮影するのが恒例。その写真はブログにアップされる。被り物と撮影が苦手なあお、プロのトレーナーさんたちのワザで、こんな写真を撮ってもらった。
この顔!まるで「わたし今日、たんじょう日です!」と言っているように見える。
(※ちなみに被り物を嫌がりつつ、風船に囲まれるのも怖がったとか......一体どうしたらこんな写真が撮れるのか......これぞプロのワザ!)
このバースデー気分のまま、我々は店に繰り出した。
店の扉の前であおは早くも興奮。あれ?もしかして今日、イベントだってわかってる?そんな風だった。
いつもドッグメニューからなにか一品。でも誕生日!ぜいたくに盛り合わせプレートを注文することにした。ちなみに我々は何を頼んだのか記憶にない。
ムダに緊張していたのかもしれない。覚えているのは、「今日、あおの誕生日なんです」とお店の人に言うか言うまいか......。言わなければただ、プレートが運ばれてくる。言えばお店の人たちが祝ってくれる。と、同時に我々ごと注目される。店を見回すと、時間も少し遅かったこともあって、他のお客さんは数組だった。もうひとりの飼育員にささやいた。
「言う?」
彼女も覚悟を決めたようだった。
「言おう」
力強く答える彼女に言った。
「言って」
「え?わたしが?」
「こういうのは女の人が言った方がいいんだって」
自分で言うのは恥ずかったので、無理やり彼女に押し付けた。お店の人が注文を聞きにきた。
「ご注文はお決まりですか?」
メニューを手に彼女が言う。
「このプレートを......」
「かしこまりました」
「えっと~今日、誕生日なので、これがいいかな~と思って~」
さりげない会話の中で伝える戦法である。
店員さんが厨房に我々の注文を伝え、同時にスタッフがドッグメニューの準備に入った。
来る......あれが来る......。言わない方がよかったかも......などと、ふたりでブツブツ言っていると、急に店内の照明が落ちた。ついにキタ~!!!
「Happy Birthday~♪」
高らかに曲が流れ、ローソクが1本立てられたプレートが運ばれてきた!
「あおちゃんおめでとうございます!」
わ~!祝われてるよ~!あおなんとか言え!言えないの?代わりに言うしかない。
「ありがとうございます」
うわ~やっぱりちょっと恥ずかしい~!
誕生日のごちそうを見つめるあお
その後は当然、こうなる
ローソクを外してあおのバースデーディナーがスタート
おいしそうに食べていたことは覚えているが、あおが食べている写真も動画もなぜかない。その時の気持ちをはっきりとは覚えていないが、おそらく恥ずかしくなって、もうこれ以上写真はいいと思ったのだろう。
あおが食べ始める前、お店の人がカメラを手にやって来て「店のフェイスブックにあおちゃんと一緒の写真を載せてもいいですか?」と聞かれた。本音としては「恥ずかしいのでちょっと......」だったが、ここで照れるのも違うだろう、これもあおのためだと、記念撮影に応じた。そこで我々の照れはピークに達した。そして「記念撮影してもらったのに、まだ張り切って犬の写真いっぱい撮っちゃってるよ」と思われたくなかったのだろう。今思えばちょっともったいないことをした気もする。
食べ終わった直後のあお(撮影が雑。画像が悪い)
その後のあお(お互いに落ち着いた)
こうしてあおの1歳の誕生日イベントは実行された。かつてない高揚感を味わったあおは、家に帰るとコテンと寝た。
あお、あの時は楽しんでもらえたかな?
2歳の誕生日は、カフェが移転の時期で残念ながらこの店では祝えなかった。3歳の誕生日は......移転して新しくなったこのカフェにきっといるはず。
「今日、誕生日なんです」
今度で3回目、もう照れることなく堂々と言えるだろう。
この夏、あおは3歳になった。
(つづく)
舘川範雄 (たてかわ のりお)
1966年9月19日生まれ。1987年4月から作家活動に入る。
「コサキン」「SMAPxSMAP」「ポンキッキーズ」「スクール革命!」「THEカラオケ☆バトル」などテレビ、ラジオで多数の番組構成を担当。また関根勤主宰「カンコンキンシアター」の他、オリジナルコメディーやミュージカルの作・演出など、活動は多岐にわたる。
*本連載の1stシーズン【柴犬生活漂流記】は、こちら。
*インスタグラム(ao20150721)で白柴「あお」が毎日、犬の目線で日々の出来事を投稿中!
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