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2018.07.30

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クパメル隔週レポート「笑う犬には福てんこ盛り」vol.25

やってみてわかった、犬と群れで暮らす連帯感

犬とスローライフ体験記5回目。ゴールデンウィーク最終日から始まった山梨県北杜市・ヒマワリ畑で有名な明野での田舎暮らし。ヒマワリが咲き始めたのと入れ違いで、私たちの借りぐらしを終える日がやってきた。さみしーーーっ! バイバイ、明野。ありがとう、明野!

#Activity / #Lifestyle

Author :写真=高橋信行、白石かえ 文=白石かえ

アラフィフになってもまだある人生の「初体験」

【7月23日(月)】
 ついに、北杜市明野での仮りぐらし最終日がやってきた。野生動物(シカ、サル、キツネ、タヌキ、ノウサギ)、爬虫類(シマヘビ、カナヘビ、ニホントカゲ)、両生類(アマガエルちゃんのベビーラッシュ)、野鳥(キジ、ウグイス、アオサギ、ジョウビタキはじめ多種)、虫(ムカデ、スズメバチ、クマンバチ、カナブン、カミキリムシ、蚊、ブヨ、ダニはじめ各種)の息吹をリアルすぎるほどに感じ、少々のことでは動じなくなるほど、明野に馴染んでしまった。帰る1週間くらい前から、私は東京に帰りたくなくて「明野ロス」が始まりだす。

 明野に滞在して3カ月弱。最初は、果たして自分に田舎暮らしができるのか、ひとり暮らしができるのか、私にもわからなかった。オットやムスメ、友人も心配していたし、どうやら借りぐらしの滞在先である日本家屋の『りとんち』の管理人である私の友人も半信半疑だったらしい(と、東京に戻ってから聞いた。笑)。

 まあ、そりゃそうだろう。私は2年半前に難病を患い、背骨を開ける手術をした。手術が終わり、麻酔から覚醒したとき、真っ先に自分の足の指が、自分の意思で動かせるか(下半身不随でないか)やってみた。動いたときは本気で嬉しかった。執刀医に「先生! 足の指、動きますっ!」と歓喜の声を上げたくらい。車椅子の人生にならなかったことに感謝した。だけど、すぐ歩けるのかと思っていたのに、そのあと半年間ベッドに寝たきり患者で、症例数の少ない珍しい病気だったためリハビリしたくてもいくつもの病院で断られた身だ。

 術後2年半経っても、鎮痛剤なしには生活できない(つまり私は、一生この痛みと一緒に生きていくことになりそうだ)。そんなニンゲンがひとりと2頭で、田舎暮らしするなんて、普通だったら無謀すぎて、痛すぎて、考えもしないだろう。

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滞在した「りとんち」には広い庭がある。クーパーは毎日庭をパトロールするのが日課。オスのテリトリー意識ゆえだろう

犬と一緒に歩ける「当たり前の日常」に感謝

 一時は、もう二度とクパメルの散歩に行けない体になったと泣いた私。当時は今後もう二度と自分の犬を迎えられないのだと絶望した。犬と生きることが生きがいで、20年間犬の原稿を書くことばかりしてきた犬ライター白石かえはもうこれで終わりなんだと。

 だけど、クパメルとの散歩は諦めきれなかった。犬の飼い主をやめたくなかった(心の片隅で、こういう事情で捨てられる犬もいるんだろうと想像できた。うちには私以外にオットやムスメがいるから私が闘病中もクパメルは捨てられないけれど......。何か補填する仕組みはあった方がいいと思う)。絶対、クパメルの散歩に行ってやる、治ってやる、歩いてみせる。犬のために。それが私の最大のモチベーション。病院を探し、薬を調べ、痛み専門のお医者さんを探し、リハビリもし、努力した。

 だから、いま、鎮痛剤は手放せないとはいえ、自分の足が動き、犬の散歩に行けることがとにかく嬉しい。足が動くって、大好きな愛犬と一緒に散歩に行けるって、ものすごくありがたいこと。もちろん私も自分がこんな妙な病気になっていなかったら、いちいち感謝しなかったろう。歩けることは当たり前のことだったもの。でも、そうではない。「当たり前」のはずの日常は、いつ儚く崩れるかわからない。病気、事故、被災......ニンゲンにはときに非情なアクシデントが降りかかる。

 悔いなく生きるって大事。当たり前が当たり前のまま継続されることに感謝して生きるって大事。病気になったからこそ、そう思えた。なら、今いちばんしたいことはなんだ? やっぱ、そりゃ犬しかない。クパメルがまだ元気なうちに(クーパー9歳、メル8歳)、いっぱい思う存分走らせてやりたいと思った。それに、あいつらの幸せな顔を見ることが、自分のいちばんの幸せなのだから。

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山男クーパーの悦びは、山を探索し、狩猟本能を刺激すること

犬がいれば生きていかれる。大丈夫、ひとりじゃない

 そうして実行に移したこの借りぐらし計画。スタート時の心境については以前も書いたが、とにかくこの間、ひとりで古いおうちで暮らすことは全然怖くなかった。郵便屋さんなどが門を開けるカチャンという小さな金属音や、何か物音がすれば、クパメルが即座に反応して吠えて教えてくれるから。最高の番犬である。とくにボクサーのメルの方が24時間対応で見張る。さすが使役犬のボクサー。猟犬種のクパは、夜は勤務時間外のためにサクサクと寝るのだが、メルが吠えれば同調して飛び起きて一緒に吠えて、2頭でパトロールしてくれる。この2頭がいれば、泥棒も暴漢も入れない。

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ボクサーは優秀な番犬。不審者、物音に敏感。メルは頼りになるのだ

 高速バスの最終便で帰るオットやムスメをバス停に送るときは「寂しいなぁ」と思うけれど、おうちに帰るとサッサと寝る支度に取りかかる。夜だからもう寝なくちゃ。不眠症気味の私だったが、田舎ではめちゃ早寝。私の敷き布団と犬ベッドを並べて、茶色い頭を撫でて、消灯したらソッコー寝落ち。おもしろいくらいに健康的であった。ストレスがない生活で、散歩でよく歩き、そしてお日様によく当たるせいか、早寝早起き。いいわぁ、田舎暮らし。

 それに、ひとりと2頭で山歩き中も、夕暮れ時の散歩も怖くない。「クマ出没」の看板もあるが、クマ鈴をガランゴロン鳴らして走る2頭だから、クマの方が嫌がって避けてくれる。いざというとき本当にクーパーたちが私を守ってくれるかは試してないからわからないが、きっとなんとかしてくれるだろう(希望的観測)。そう信じさせてくれる連帯意識があった。シカの親子が急に目の前の道に飛び出してきたときは「シカってけっこうデカい!」と驚いたが、クーパーがいるから怖くなかった。ジャーマン・ポインターの原産国ドイツでは、シカやイノシシの大物猟にも使う猟犬なんだもの。それよりクーパーがシカを追いかけて失踪しないか、呼び戻しを強化する方に力を入れた。

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山暮らしでは、野生動物が思った以上にすぐそばにいる。でも西日本では絶滅しかかっているツキノワグマ。東日本でもいつ状況が悪化するかわからない。共生できる道を探りたい

 こんな風に田舎暮らしでは、私とクーパーとメルという、ひとつのパック(群れ)としての結束が高まった。遊ぶときも眠るときも、お互いで助け合い、補い合う一体感。心地いい仲間意識。ああ、私って、犬がいれば、怖くないんだー、ひとり暮らしもできるんだねー。クパメルがいれば百人力。強く確信した。

 ただ、反面、彼らは本来の群れであるほかの家族(オットとムスメとネコ)と分かれて暮らすことには不安があったように思う。2〜3週おきにオットやムスメが来ると、そりゃあもう喜んでくっついていた。そういうのを見ると、やっぱり犬は大人数で群れで暮らすことが好きなんだなぁとも思った。客人が来ると、人恋しそうに大喜びして誰彼にもくっついていたくらいだもの(笑)。いちばんいいのは、自分の群れ全員、すなわち白石家全員で山に移住できればベストなんだろーなー(でも、ニンゲン側にも会社とか学校とか諸事情があるのです。涙)。

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犬友達が来てくれると、べったりしまくり

明野が教えてくれた、大事なこと

 ほかにも、事件や問題は多少あったが(ムカデと闘ったり、私が坂道で転んで翌日散歩が厳しかったり、夏が近づくにつれスーパーや農協の駐車場の車内に犬を置いてはいかれないのでオットが来るまで私が食糧難になったり)はあったけれど、ニンゲンやってみればなんとかなるもんだ。

 少々無茶して強引に田舎暮らしに踏み切ったけれど、結果的に得たものがいっぱいあった。当初考えもしなかった想定外のことがたくさん体感できた。明野の夕焼けはとても美しいこと、山にかかる雲を見れば明日の天気がわかること、田んぼの風景を見ていると、田舎ってなんて綺麗なんだろうと思えたこと、そう思ってしまう自分はDNAの中から日本人なんだなぁと実感したこと、山の水は晴天続きでも涸れずに水路をドウドウと流れ続けること、朝どれの野菜はやっぱり最高に美味しいこと......。これはニンゲンとして学んだことの一部分。

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のどかな田園風景。向こうに見えるのは南アルプスの山なみ

 次に犬のことで学んだこと。どんなに広い庭、マイドッグランがあっても、犬は排泄だけしていればいいってもんじゃないこと、心がつながっていないと犬が不良になること、広い庭もいずれ自分のテリトリー内になり、そこでは排泄をしたがらなくなること、メルは(番犬気質が強いせいか)テリトリー外でのマーキングに余念がなく、メスのくせに(避妊しているのもあり)5回も6回もマーキング(オシッコ)し、その結果、尿道や膀胱も完全に空っぽになるらしく尿漏れを克服したこと(つまり都会散歩でもそれだけ好奇心を刺激するほかの動物などのニオイのある草や木のある場所を長く散歩し、マーキングさせてやればいいのかも)、山爆走をすることによりクーパーの体が厚みを増し、最高に美しい筋肉がついたこと......。など、ほかにもいっぱい。

 犬のために山に来たつもりだったのに、クパメル以上にここでの生活を満喫し、学んでいるのは自分だった。

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人生(犬生)最高のいい筋肉をつけたクーパー。胸が厚い。足の筋肉もすごい。惚れ惚れする。これぞガンドッグだ

都会の犬(飼い主)と田舎の犬(飼い主)の両方がいる

 それと、前にも書いたけれど、都会の犬と、田舎の犬とで、飼育環境や飼い主の価値観などが異なることを、今まで上っ面でしかわかってなかったと実感した。たとえば「夏は、アスファルト道路が熱いから、路面に触ってみて熱くないか確認し、夜に散歩に行きましょう」と書いていたけれど、田舎の夜道は外灯もなく真っ暗。日没はこの季節は19時すぎだが、路面が完全に冷えるような時間まで待って散歩に行ったら、田んぼか水路に落ちそうだ。こないだは道路を横断していたヘビを踏みかかった。夕暮れ時は懐中電灯が必須である(ウンチ拾うときは炭鉱の人みたいなヘッドランプがよい)。ただ標高の高いエリアだと、夕方になるとグッと気温が下がるから、夕焼けの時間に散歩に行っても涼しかったりする。都会の常識と、田舎の常識は同じではないのだ。

 雑誌に書く記事ならば、田舎だと本屋さんも少ないし(でも今ではAmazonもあるし、コンビニで書籍を受け取ることができるけどね)、有償で情報を得ようとする飼い主さんの目に触れる機会は少ないのかもしれない。だけど、このdocdogのようなweb媒体の記事ならば、日本全国津々浦々の飼い主さんが読んでくれる可能性が高い(インターネットって、なんて便利なのでしょう)。

 と、言うことは、都市部に特化した記事ばかりを書いている場合ではないのでは、とも思った。裏を返せば、田舎の飼い主さんの意識を底上げする記事だって書けるはず。たとえば、屋外で飼育するなら、いつよそのオスやメスと交配しちゃうかわからないから、完全管理できないのならちゃんとオスは去勢手術、メスは避妊手術をした方がいいってば、とか、犬を遺棄したり、いいかげんな飼い方したら動物愛護管理法違反の犯罪となり、罰金(100万円以下)に処せられるんだよ、殺したり埋めたりしたら2年以下の懲役または200万円以下の罰金なんだよ、だから繁殖させないように最初から対策しておいた方が絶対いいんだってば、とかね。

 そのほか、田舎は農業がさかんな分、有害鳥獣駆除も多く、犬が誤射されてしまったり、猟期以外でも駆除はされるので罠にかかって足を切断する犬がいたりするという話も聞いた。農家にとっては農作物を荒らされるのは死活問題(手塩にかけて作物を育てている姿をちゃんと目に焼き付けました)。野生動物と農家の共生のために都会人が協力できることはないか(共生する取り組みをしている農家から野菜を直接通信販売で取り寄せるとか)、飼い犬が事故に遭わないよう罠を仕掛けているという札を目立つようにつけることの徹底(行政がチェックするとか)、そういうことにも思いを向けることも大切なのではないかと思った。都会の人が食べる食材を生産してくれているのは、多くは田舎の農家の人たちであり、つまり有害鳥獣駆除も私たちと無関係ではなく、つながっているのだ。

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ニホンジカ・イノシシ管理捕獲実施中」という看板のあるところは、猟期に関係なく1年中、罠や銃器を使った狩猟が行われる。こういう山でオフリードにするのは絶対に危ないから注意して

灼熱の都会にカムバック。山より魅力のある飼い主に

 灼熱の東京に戻ってきて1週間。やっぱりクーパーは解せないもよう。不安やストレスがあるときにやってしまう左後肢の舐め壊しをまたやり出している(田舎暮らし中は一切してなかったのに。涙)。うー。都会暮らしは、やはり山男にはストレスフル。

 だけど「一生その生活をそのままさせられないのなら、その体験をさせてしまう方が可哀想だ」という意見には賛同しかねる。たしかにクーパーは、毎日、山を走れた方が楽しいだろう。でもそれ以上に、クーパーは、山より私が好きなはず。もしクーパーに「(別の飼い主と)山で住むのと、私と都会で住むのとどっちがいい?」と聞けるとしたら、尋ねてみたい。きっとクーパーは私に付いてくる(だから明野の最終日、クルマに荷物を積み込む間、ずっとクパメルはクルマのすぐ横にスタンバイしていた。まるで「置いて行かれたら大変」とでも言うように)。犬って、そういう生き物だ(そうでなければいけないと思う)。

 これからも、山よりも私の方が好きでいてくれるように、魅力のある親分になる。もちろんその精神的なつながりを重視しつつ、なおかつ週末には自然のあるところでたっぷり刺激も与えてあげるつもりだ。

 こうして3か月弱の、私とクパメルの借りぐらしという名の冒険は、幕を閉じた。たくさんのことを学ぶことのできた貴重な日々だった。この経験をもとに、多角的な視点を持った犬記事をこれから発信していきたい。

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そりゃーー、山暮らしはいいよ、最高だよ! ちょっとクルマで走れば大自然がいっぱい! 涼しいし! 明野ブラボー!!

【7月30日(月)】
「笑う犬には福てんこ盛り」vol.25公開。

 クパメルとの楽しくエキサイティングな明野でのスローライフのレポートが完結したところで、8月からこのコーナーをリニューアルしまーす。クーパーとメルとの現在進行形の暮らし、そして今は亡き先住犬たちと暮らしてきた経験、犬友達からの情報、犬ライターとして20年培ってきたことを総動員しながら、日本の犬を愛するみなさんに有益な情報をお届けしたいと思っています。それこそこのdocdogのwebという媒体ならではの強みを使って、全国津々浦々のみなさまに届くように。8月からもDon't miss it!(乞うご期待!)

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この笑顔をこれからも継続してもらえるよう、飼い主は全力で頑張ります!

  • ワンとヒトの充電施設『りとんち』(山梨県北杜市明野町)
  • HP:http://wellbe-dog.com/secondhouse/
  • 久しぶりの登場、担当編集Mです。
    お便り募集していた「そうだ、かえさんに聞いてみよう!」も、本コーナーリニューアルにともないちょいと出し方を検討しているところです。メールいただいている飼い主の方々、もう少々お待ちください。順次回答させていただきますね♪ こちらも、乞うご期待!

    ◎プロフィール

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    白石かえ
    犬学研究家・雑文家。家族は、ジャーマン・ショートヘアード・ポインターのクーパー、ボクサーのメル、黒猫のまめちゃん、夫1、娘1。前職は、自然環境保護NGO・WWFジャパン。犬猫と暮らして30数年。彼らの存在は可愛いだけでなく、尊い。犬が犬らしく生き生きと暮らせる、犬目線の原稿を書くのがライフワーク。

    ●執筆サイト: dogplus.me 犬種図鑑 ほか多数
    ●ブログ: バドバドサーカス
    ●主な著書:
    『東京犬散歩ガイド』、『東京犬散歩ガイド武蔵野編』、『うちの犬 あるいは、あなたが犬との新生活で幸せになるか不幸になるかが分かる本』、『ジャパンケネルクラブ最新犬種図鑑』(構成・文)

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