愛犬を抱えて救急外来に駆け込まなければいけない状況は、突然やってきます。そのときに、どんな情報やモノを用意し、愛犬をどのように運べばいいのでしょうか。前編に引き続き、夜間救急部門をメインとするTRVA動物医療センターの院長、中村篤史先生にお話を聞きました。
写真=永田雅裕、大浦真吾 文=山賀沙耶
――救急外来を訪れるときには、どういう情報があるといいですか?
僕たちは初めて連れてこられた動物を診てすぐに、生きるか死ぬかのところをクリアにして、ある程度治療の方向性を決めなければいけないので、飼い主さんからの情報はすごく大きいです。だから、以下のような情報があると、診断や治療の助けになります。
――いざというときに備えて、日ごろからチェックしておくべきことは?
以下のようなことをチェックして、すぐ見られる場所にメモしておくと、いざというとき「いつもと違う」かどうかを判断する基準になります。
――愛犬を病院に運ぶときに、気をつけるべきことはありますか?
愛犬が楽な状態で、早く連れてくることが最優先です。例えば呼吸や心臓が止まっているといった超緊急の状況であっても、飼い主さんが正しい方法で胸部圧迫をすることはかなり難しいし、移動中運転しながらは無理ですよね。それよりは交通事故に気をつけて、早く連れてくることに集中してもらったほうがいいと思います。
動かないようにと無理に拘束するのも、かえってまずいケースもあります。ケージに入れるなどなるべく安定した状態で、呼吸をちゃんとしているかなど見える状況で連れてきてもらえれば、それで大丈夫です。
――救急外来での診療が終わった後は、どうなるのですか?
入院しなければいけない状況でなければ、家に連れて帰っていただいて、かかりつけの病院に引き継ぎます。僕らがどういう見立てをして、どんな検査をして、その検査結果からどういう鑑別診断が上がって、それに対してどういう治療をしたか、継続治療が必要だと思うかなどを、必ず報告書にまとめて、画像診断データなどと一緒にかかりつけの病院に渡してもらっています。
創業当時は、朝になると酸素を吸わせながら一般の病院に引き継いだりしていて、移動中に亡くなるということもありました。移動のストレスもあるし、一般の病院としても突然来られても受け入れ態勢ができていないこともあります。そこで現在は、昼間は一次診療の病院からの紹介で重体の動物を受け入れる二次診療部門とし、夜間救急の動物も引き続き入院できるようにしています。
――当然、亡くなってしまうケースもあるわけですよね......?
感覚的な数字ですが、院内や来院時に亡くなるケースは週に1症例ぐらい。来院数が1日10件ぐらいなので、70件に1件ぐらいです。亡くなってしまった症例に関しては、みんなでカンファレンスして、その原因を解決できるように模索し、改善しています。
――いざというとき、救急外来はどう探せばいいですか?
何かあってから探すのでは、パニックになってしまいます。普段からそこにアンテナを張っておいて、いざというときはどこに行けばいいのか、調べておくことが大切です。救急病院にこだわらなくても、かかりつけの獣医師の先生が夜間でも対応してくれるなら、それでOKです。近所の遅くまで診療している病院や夜間救急がどこにあるのか、何時までやっているかなど、夜間に何かあった場合にどう動けばいいかは、把握しておきましょう。
夜間救急病院は、全都道府県にはないけれど、全国の主要都市には必ずあります。当院にも全国からお電話がかかってきますが、最終的には「近くの病院に行ってください」とお話しするしかないんです。
――読者の方々に伝えたいことはありますか?
僕たちの理念は、飼い主さんに「この病院に来てよかった」と言っていただけるような診療を提供することです。それには、医療レベルはもちろん、飼い主さんの不安を共有することや、料金についてきちんと説明することも大事だと思っています。どれだけ信頼関係を築けて、いい医療を提供したとしても、最後に受付で料金に納得していただけなかったら、当院に来ていただいた経験はマイナスになってしまいます。
飼い主さんがいろんな不安を抱えて来られた中で、それを解決できればベスト。中には亡くなってしまうケースもありますが、それでも「夜でも安心できるしっかりとした医療を受けられてよかった」と言っていただくことを目指しています。そのために、僕たちは存在しているのだと思います。
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