
2015年・秋から「あお」と名付けた柴の仔犬と暮らし始めた「犬の新人飼育員」の「僕」と「もうひとり」。生後5カ月で「はじめての旅」に出たあおに、ふたりの飼育員は新たな「はじめて体験」をさせることにした......。
*1stシーズン【柴犬生活漂流記】をお読みでない方は、こちらからどうぞ。
突然始まったあおとの精神的・漂流生活。「僕」と「もうひとり」だけだったら、今頃まだどこかを漂っていたかも知れない。
SOSを発信し、駆けつけてくれた救助隊であるドッグトレーナーの川野輪さんに犬との生活について学びながら、僕たち新人飼育員の毎日は"漂流"から徐々に、風を受けて進む"航海"へ移行し始めていた。 あおも、我々同様、この街で一緒に暮らすためにさまざまなことを学んでくれていた。それはきっと柴犬本来の性質とは異なることも多かったはずである。
散歩から帰るたびに足を洗われ、ひっくり返されて濡れた足を拭かれ、肉球と爪の間の汚れをチマチマ取られ、シャンプータオルで身体を拭かれた後、換毛期だと1日2回はブラッシングされ、目の汚れをいちいち拭き取られる。
そもそも身体に触れられるのが苦手なはずなのに練習を重ねた結果、「やめてよ!」と噛み付きたい気持ちをぐっと堪えられるようになっていた。
一緒に家の中で暮らすのだ。泥だらけの足では困るのだ。抜け毛を少しでも減らしたいのだ。そんな事情をあおは理解してはいないだろうが、とにかく受け入れてくれるようになった。そんな関係になれたことが今はうれしい。
しかしやっとそう思えたのも、あおが2歳を越えてから。
2016年を迎えたあの頃は、まだまだ海と同じように、いつ荒波が襲ってくるかわからない状況だった。海と柴、油断は禁物である......。
あの頃、我々は相変わらずあおに振り回されていたが、体感年数3年(実際はたった3カ月)の飼育員経験を積むうちに、なんだか知らないが少し余裕が出てきていた。そこで我々は、あおとの生活にいろいろな"はじめて"をプラスし始めた。
第一弾は(漂流記・最終回に記した)"はじめての新幹線""はじめての外泊"。月齢5カ月だったにも関わらず、あおはこのふたつの"はじめて"をうまくやり遂げた。
(外泊先の"もうひとりの飼育員"の実家の絨毯に戸惑いすぎてまさかの「小」をしてしまった以外は(-_-;) )
2016年1月4日。「もうひとりの飼育員」が生まれ育った静岡から、無事帰京したあおを1日休ませた我々は、あおにさらなる"はじめて体験"をさせようと思い立った。
新しいモノ好きのあお。新しいおもちゃを出すとパッと笑顔、新しいオヤツを見るとパカっと笑顔。そんなあおが海を見たら、一体どんな顔を見せるのだろう?我々はあおをクルマに乗せ、片瀬海岸(神奈川県藤沢市)を目指した。
ここには、あおがウチに来る半年ほど前、コサキン(小堺一機・関根勤)の番組ロケで訪れたことがあった。番組の内容はコサキンの二人に、さまざまな体験で脳に刺激を与えていこう!というもので、この砂浜から見える美しい風景でふたりの脳に刺激を与えよう!と選んだ場所だった。
本番前、景色が見えない動線でふたりを砂浜に案内した。カメラを回して本番スタート。目の前に広がる広い海と遠くに見える富士山に、コサキンのふたりが思わず「おお〜!」と声をあげるシーンを撮ることができた。
『はじめての海』、せっかくだからあおにも、新鮮な驚きを味わってもらおう!と、ロケと同じ動線を使って、新江ノ島水族館の横を通ってあおを砂浜に案内した。
(ロケ同様、待ち受けカメラ)
「え?なにここ?」
「え?ここなに?」
あお、はじめての海
砂のにおいを念入りに嗅ぎ......
砂浜に降りて行きながら......
誰かのビーサンも嗅ごうとして止められる
砂浜に降りたら一気に駆け出した!
もう誰にも止められない......
初めて走る砂浜の感触にあおはなんともいえない興奮を覚えたようで、我々飼育員が一緒にいることなどすっかり忘れて猛ダッシュ。その顔は満面の笑み!ロングリードではあるが、その長さがあおのスピードに足りるはずもなく、新年早々我々も砂浜ダッシュに付き合わされた。砂浜トレーニングは太ももにくるが、あおの爽快な顔を見ていると、止まってはいられない。生まれて初めての砂浜を、最高の記憶にしてやろうと必死について行った。"砂浜を犬と一緒に走る"まだあおが来る前に描いていた理想のシーンのひとつが、ついに今目の前に!楽しいぞ!あおと海!
次にあおは、潮の香りを嗅ぎながら波打ち際へ。波が来るギリギリのところを歩く。きっと脳みそフル回転。
海に着いたのは昼過ぎだったので、一旦休憩。調べておいた近くにあるドッグカフェで昼食。あおは1週間前に家の近所でドッグカフェを初体験。おとなしくしていられることがわかったのでこの日も行ってみた。カフェは2度目だったが、ドッグメニューを食べるのはこの時がはじめて。注文の品が運ばれてきたとたん、夢中になって食べ始めた。まるで早食い選手権。器が浅いのか、勢いが良すぎるのか、こぼすこぼす。
床を汚すのもイヤだったので、こぼすたびにずっと拾っていた。こちらの食事どころではなかった。
食べ終わったら落ち着いた
おかげでこちらも落ち着けた
1時間弱休憩して、再び砂浜へ!ゴハンを食べて元気が戻ったのか、あおはまたも砂浜を走り始めた。そしてしばらくして、あおはふと気がついた。何に気付いたか?それは「本能」にである。
今まであおと公園に行っても、砂場には入らせなかった。ネットがかけられているところも多いので、マナーとしてやめておいた。そんなあおが初めて砂地に立った。湧き上がってくる欲求。我々は忘れていた。犬って穴掘るんだったー!
あおは、生まれてはじめて砂を掘り出した!「シュバシュバシュバシュバーーー」ものすごいスピードで後ろに砂を掘り出す。穴が開くのが楽しいのか、感触がクセになるのか、それは見ていてもわからない。分かるのは、あおのカラダがみるみる砂だらけになっていくことである。かき出す砂があおのお腹に当り、真っ黒!あ〜〜シャンプーしてまだ1週間も経ってないーー!
お腹だけではない、足も、顔も、砂で真っ黒!毛の中にも砂がしっかり入ってジャリジャリ!砂浜ってシャンプーしたてで来ちゃダメなところだったのか〜!知らなかった、大失敗ーー!
はじめての穴掘り 顔がバカみたいに真剣
ほぼトランス状態
顔、汚ったね〜!
顔も足も砂だらけで大満足。
帰ろうとすると、「まだ帰りたくない主張」が発動
名残惜しそうに海を見つめるあお
半日遊んで砂だらけのあお。今なら、カラダについた砂なんて、手やタオルでパッパとはらえばすぐ落ちると分かるのだが、この時ははじめての「あお砂だらけ」......新人飼育員ふたりはどうしたらいいか分からず「シャンプーしなきゃダメかな......」と、スマホで検索して見つけた、少し離れたショッピングモール内のドッグサロンに寄って帰宅した......。
海で遊んで、シャンプーされて、帰りのクルマの中では熟睡。翌日もあおはよく寝ていた。
こうしてあおの"はじめての正月休み"は笑顔ではじまり、ダラケ顔で終わった。
翌日のあお。めったにない膝の上寝
あおに贈る「はじめて」はこのあともどんどん増えていく......。
(つづく)
舘川範雄 (たてかわ のりお)
1966年9月19日生まれ。1987年4月から作家活動に入る。
「コサキン」「SMAPxSMAP」「ポンキッキーズ」「スクール革命!」などテレビ、ラジオで多数の番組構成を担当。また関根勤主宰「カンコンキンシアター」の他、オリジナルコメディーやミュージカルの作・演出など、活動は多岐にわたる。
*本連載の1stシーズン【柴犬生活漂流記】は、こちら。
*インスタグラム(ao20150721)で白柴「あお」が毎日、犬の目線で日々の出来事を投稿中!
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