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2018.05.23

知っておきたい、がん事情の最前線Q&A<後編>

愛犬ががんになっても、絶望する必要はない

林宝謙治 埼玉動物医療センター院長

現代日本の犬の死因ナンバーワンの、がん。もし愛犬ががんにかかってしまったら、治療についてどのように考えればいいのでしょうか。そして、もしもう治る見込みがなくなっしまったら......? すべての飼い主に知っておいてほしい、がん治療の最新事情や、治療に向き合う心構えを聞きました。前編に引き続き、埼玉動物医療センターの院長であり、日本獣医がん学会獣医腫瘍科Ⅰ種認定医でもある、林宝謙治先生に教えていただきます。

写真=Keaton Nagappa, Ezzolo, FCSCAFEINE / Shutterstock.com、docdog編集部 文=山賀沙耶

#健康

手術、抗がん治療、放射線治療、それぞれのメリットとデメリット

―――がんが疑われる場合、どんな検査をするのですか?

 まず、その腫瘍の診断を確定させるための検査と、その動物がどんな治療に耐えられるかの全身検査をします。がんが疑われるのは高齢のコが多く、体力がないと手術ができない場合もありますし、すごく弱っていると抗がん治療もできないことがあります。

 もう一つは、転移がないかの検査です。例えば口腔内腫瘍が見つかった場合、それは口の中だけなのか、リンパ節にまで入っているのか、その先の肺にまで転移しているのか。それによって、考え方も治療法の選択も違ってきます。遠隔転移といって、全然違うところにまで転移している場合、原則的には手術は選択肢から外れます。

―――がんの治療というと、やはり手術、抗がん剤、放射線が主な選択肢でしょうか?

 そうですね。やはりいちばん多いのは、外科手術です。手術は一発勝負なので、一回で終わり、終わった後には確実に腫瘍がなくなっています

 ただ、全身に転移していると手術してもメリットが少ないですし、手術の治療効果が期待できない腫瘍もあります。例えば、全身のリンパ節が同時多発的に腫れてくる多中心型リンパ腫などは、手術が適用されない代表的な例です。また、脳腫瘍も手術しづらいことが多いです。同じ腫瘍でも、ステージ(どこまでがんが広がっているか)によって手術が有効でない場合もあります。

 がんの種類やステージ、転移の状況によって、治療法の選択肢はさまざま。だから、先にきちんと調べる必要があるのです。

―――抗がん治療というと、副作用のイメージが強いですが......。

 抗がん剤の開発も進んでいて、いい薬も出てきています。ただ、必ず副作用がついて回る治療なのは確かで、副作用が出たときにすぐに病院に来られないなら、かえってかわいそうなことになりかねません。抗がん治療の中でも弱い薬もあるので、昼間に留守番の多いコなら、副作用がほとんど出ないようなやんわりとした治療にするという選択肢もあります。ただ、リスクの低いものは治療効果も下がる場合があるので、獣医師とよく話し合って決める必要があります。

―――放射線治療はどうでしょうか?

 放射線治療が有効ながんもあるのですが、現在の日本ではいちばん治療を受けにくく、お金もかかります。まず、欧米に比べて技術者が少ないため、大学病院に依頼すると1カ月以上先になってしまうことも多く、すぐ受け入れてくれるところを探すと遠方になってしまう。この状況は、おそらくここ10年ぐらいで改善されてくると思います。

 しかも、根本的に治すためには週5回の治療を4週間、20回以上受ける必要があり、1カ月の入院になることも少なくありません。そうやって時間もお金もかかるにもかかわらず、100%効くとは言い切れないのです。また、放射線治療自体に発がん性があり、放射線を当てたところがただれてしまうといった放射線障害のリスクもあります。

 それに、人間と違うのは、放射線治療のたびに麻酔が必要なこと。麻酔によって容体が悪化したり、最悪の場合は亡くなってしまったりということもあり得ます。

―――手術、抗がん治療、放射線治療以外の治療法をとることはありますか?

 当院では、今のところはないです。例えば、免疫治療などはまだ治療効果が証明されておらず、今の段階ではお金をとってできる治療ではないと考えています。ただ、あと10年もすると変わってくると思います。

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痛みによるストレスもかなり軽減可能になった

―――治療法を選択するうえでは、もちろん飼い主の経済的な事情もかかわってきますよね......?

 飼い主さんの希望や経済面も、もちろん考慮します。そもそも検査自体にもかなりお金がかかるので、限られた予算の中で優先順位を決めて検査することもあります。お金だけでなく時間の問題もあって、時間がない飼い主さんだと抗がん治療は難しくなります。このあたりは、人間のがん治療と少し違うところかもしれません。

 ただ、お金や時間がなくてできない治療があるからといって、その人がかわいがっていないということではないと思います。とにかく効く治療をすればいいわけではなくて、その動物の飼育環境もあわせて考えないと。医学的に正しくても、その動物や家族にとって正しくないということもあると思います

―――セカンドオピニオンは取ってもいいのでしょうか?

 やはり街のホームドクターではどうしようもできない場合には、早めに当院のような高度医療が可能な病院に紹介していただけたほうが、手遅れでもうできることがない状況になってから紹介されるより、こちらとしてはやりやすいです。すぐに紹介してくれる先生もいますが、なかなか紹介してくれない場合には飼い主さん側から言い出してもいいと思います。それでも紹介してもらえない場合でも、そういう飼い主さんが難民になってしまわないように、当院では紹介症例以外も受け入れています。

―――治療をする中で、やはり犬にはかなりストレスがかかるのでしょうか?

 手術は痛いとか怖いといったイメージがあると思いますが、それはここ10年でかなり変わってきました。以前は大きな手術をするとすごく痛がってかわいそうでしたが、犬の業界に麻酔科医が少しずつ増えてきて、痛みの管理ができるようになってきています。神経に局所麻酔をすることによって、全身麻酔の量も極端に減らせるし、手術の後も痛がらなくなりました。犬は自分で痛いと言えないからこそ、余計手厚くしてあげないといけないなと考えています。

 また、がんを治して寿命を延ばすことはできなくなっても、とりあえず痛みをとる治療もすごく重要だと思っています。がんの末期は痛みが出ることが多いのですが、当院には麻酔科の獣医師が担当するペインクリニック(疼痛管理外来)もあります。昔なら、最期の2週間は何も食べられなくてずっとヒーヒー鳴いていたような状況でも、今では痛みが取れるので、亡くなる3日前ぐらいまではご飯を食べられたり、散歩に行けたりというケースもあるのです。

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いつか必ず来る愛犬の最期をどう迎えるか

―――安楽死という選択をすることはあるのでしょうか?

 当院の場合、月に何回かは安楽死の処置を実施しています。診断の時点で、延命はできるけれど最終的には治らないとわかるケースはたくさんあります。治療を最大限にしてあげても、痛みや苦しみを取ることができなかったとき、飼い主さんが気にされるのは「このまま痛みや苦しみが続いたら、最期はどうなってしまうんだろう」ということ。だから、「動物の場合は、楽にしてあげるという処置が取れます。それは倫理的にも法的も許されているので、お引き受けできますよ」と私が前向きに話をすると、安心される飼い主さんもいます。

 最後の苦しい時間があまりにも長くなってしまうことで、動物とそのご家族の思い出が辛いものばかりになってしまうことは、避けてあげたい。がんだからとか、治療がちょっと大変そうだからと、安易に安楽死は考えてほしくないですが、痛み・苦しみを取ってあげる究極の治療だとは思っています。「まだ死ねない」というような思いは、動物にはないので。

 ただし、安楽死は非常にデリケートな問題ですし、個々人の考え方がありますので、あくまでも選択肢の一つとして提案しています。

 ちなみに、欧米人は安楽死の判断をするタイミングが早くて、がんと診断されるとまだピンピンしていても安楽死を希望され、処置するケースも多いようです。宗教観の違いもあるみたいですが......。「なぜそんなにがんばって治療するんだい?」という感じで、日本とはかなり温度差があるようですね。

―――「最終的には飼い主さんの納得が大事」という面もありますよね。

 私たちにとって、動物の病気を治すことも大事なんですが、治せなかったときに最期をどうお別れさせてあげるかも、とても大事で。動物医療も高度化すればするほど、命の長さを引っ張ることができてしまうけれど、それが果たしていいことかどうかも、よく考えながら選択をしなければいけません。命の時間は延びたかもしれないけれど、お金ばかりかかって、亡くなったときに飼い主さんが疲れ果てているというのは、あんまりよくないのではと思っています。

 動物病院では、飼い主さんが楽になれることも大切。わがコのようにかわいがっている愛犬ががん告知されているわけなので、飼い主さんも大変な状態のことは多いです。当院では1年半ほど前から、カウンセラー(獣医療ソーシャルワーカー)を月に4回呼んで、待合室で泣いている方や、深刻そうな表情の方がいたら、声をかけてもらっています。診察室の中で担当医には言えないけれどその人になら言えることもあるようで、言うと楽になりますし、それをこちらにもフィードバックしてもらって、一定の効果は出ていると思います。

―――最後に、がんについて飼い主の方々に知っておいてもらいたいことはありますか?

 がんと診断されたら治らないわけではなくて、治るがんもありますし、早期発見すれば治せるケースも多くなってきています。また、治らないがんでも、苦しみや痛みを取ってあげる方法が昔より増えています

 どうしても愛犬は私たちより先に逝ってしまうことがほとんどなので、お別れしなければいけない日はきます。それをあんまりマイナスにとらえてほしくはないんです。15〜16年という犬の寿命の中で、最期をどう終わらせてあげるかも、飼い主さんと一緒に考えていけたらと思います。

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