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2018.04.11

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愛犬の余命宣告からの日々を考える<後編>

経験豊かな獣医師との出会いがQOLを引き上げた

年齢や病気をきっかけに、愛犬の介助や介護が必要になったとき、ほとんどの飼い主が戸惑ったり、悩んだりしながら、さまざまな問題に向き合うことになります。ニールさんと有子さんも同様で、模索しながらポーとの日々を過ごしたと振り返ります。後編ではお二人がポーをどんな風にサポートしたのかを中心にお伝えします。

#lifestyle

Author :写真=大浦真吾、荻野有子、ニール・ロドリゲス 文=古川 あや

鍼治療と水中運動療法で体調が上向きに

―――前編でDr. Buzbyとの出会いによって、ポーの体調が安定したとうかがいました。具体的にはどのようなアドバイスがあったのでしょうか?

ニールさん:当時のかかりつけの獣医師は、ポーの体調の悪化を腎不全や腫瘍の影響と考え安楽死を提案してきましたが、西洋と東洋の複合医療を行っているDr.Buzbyは血液検査の結果を見て、食事の内容を見直し、サプリを加えることで改善する、安楽死させるような問題ではないと断言しました。食事については、漢方の考え方を取り入れたものでした。

有子さん:先生に言われたとおり食事を変えサプリメントを与えてみると、紫色をしていた舌がみるみるうちに元の色に戻りました。Dr.Buzbyは漢方を使った療法や整体など、さまざまなアプローチから、犬たちに"good quality of life(質の高い生活)"を与えることを重視していましたね。先生と出会い、犬も人間と同じ様にケアや各種セラピーを受けることで寝たきりの生活から抜け出せ、よりよい生活を送れることを知りました。日々弱っていくポーを目の前にして諦めかけていたけれど、Dr.Buzbyに出会ったことで進んでいく道が見えたような気がしました。

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鍼治療中のポー。リラックスして見るからに気持ちよさそうだ

―――この後、NYに戻ったポーは、東洋医学による治療やリハビリを始め、体調が改善したそうですね。具体的にはどんな変化が起きたのでしょうか?

ニールさん:Dr.BuzbyにDr.Alvarezを紹介していただき、NYではAnimal Medical Center(以下AMCNY)に通って、鍼治療や整体、水中運動療法を始めました。中でも鍼治療は効果があったと思っています。食欲も戻りましたし、諦めていた腎不全の数値も安全なレベルまで回復し、2~3カ月維持できました。

有子さん:海が好きなポーには、水中運動も合っていたみたいでした。人間と一緒で寝たきりでいるのではなく、リハビリで体を動かすことで筋肉も維持できたし、いろんな刺激を受けたから、ポーらしく最後まで生きられたんだと思います。旅行中も旅先で施設を探して、水中運動療法は続けるようにしていました。

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水中運動療法(トレッドミル)で運動するポー。筋肉が維持された

もっと早く車椅子を使うべきだった

―――AMCでのリハビリを始めたのが8月。その後、動かなかった足が動くようになり、しばらく安定していたポーも、11月には寝たきりになったそうですね。シニアになると足腰が弱まり、さまざまな場面で介助が必要になってきます。ラブラドール・レトリーバーとピット・ブルミックスのポーは抱えるには大きすぎますが、どんな風にケアしたのでしょうか?

有子さん:足腰が弱った頃、フローリングで滑らないためのグッズをネットで調べて見つけたのが、爪にチューブ状のゴムをはめる「Toe grip」です。加えて、外出時やトイレの場合には、立ち上がったり、歩いたりするのをサポートするハーネスなどを使っていましたが、真上に引っ張り上げるために、無理な体勢をとることが多かったので私たちが腰を痛めてしまいました。カートを手に入れてからは、カートに乗せて移動して、目的地でゆっくり歩かせていましたが、寝たきりの状態になってからは車椅子を使いました。
 実は、車椅子のことはずっと気になっていたんです。でも、かなり大掛かりなもので人目を引いてしまうので、しばらく躊躇していましたが、実際に使いはじめるともっと早く使えばよかったって後悔しました。ポーも車椅子は大好きでしたし。想像ですが、立つことでストレッチもでき体がスッキリするんだと思います。寝たきりにならないように、1日の何時間かは車椅子を使って体を立たせるようにしていたのですが、車椅子に乗ると自分の力で歩いて、しばらくすると気持ちよさそうに居眠りしてました。

ニールさん:実はポーの使った車椅子は、愛犬を亡くした方からお借りしたものなんです。車椅子を作る工房に試乗に行ったらポーも喜んでいたので購入を考えましたが、一台一台手作りとあってすごく高い。いつまで使えるかわからないし、と考え込んでいたら、ちょうどポーと同じぐらいのサイズの子が最近亡くなって、飼い主さんが車椅子を使ってくれる人を探しているからと、工房の人が連絡をとってくれたんです。ポーのあとは、私たちの友人の愛犬が使わせてもらい、今も、アメリカのどこかで活躍しているそうです。

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車椅子で海に入るポー。寄せて引く波に身を任せて気持ち良さそうだったそう

「安楽死」を考えるときとは

―――旅から受ける精神的刺激、そしてニールさんと有子さんの手厚いケアを受け、ポーは余命宣告から360日を生きました。カナダへの旅の途中で、ポーは天国へと旅立ったそうですね。

有子さん:最後の旅に出る頃、ポーの体はどんどん痩せて、あまり長くはないだろうと老犬をたくさん診てきたDr.Alvarezからも伝えられていました。でも、ポーは食べ物をミキサーにかけペースト状にして口元に持っていけば、食べてくれました。食べるということは、生きることを諦めていないということです。先生からは、ポーは強い犬だから、その時を飼い主たちが決めてあげなければ、なかなか死ねないかもしれない、とも言われていました。

ニールさん:キャンセルしてもいいからと、カナダの旅行のあとに安楽死をさせる前提でクリニックに予約を入れていました。だから、正直言うと、ポーの最後の時期を私たちが決めなくてすんだことに安心しました。ポーは自分で決めて、逝ってくれたんだと思います。ポーがいないことはすごく悲しいけど、ポーは精一杯生きたし、僕らもサポートできたと思っています。

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旅先でのフォロワーの人たちや飼い犬との交流はポーも楽しんでいた

―――日本ではあまり一般的ではない安楽死。アメリカでは比較的選択する方が多い印象です。

有子さん:アメリカでは安楽死が身近なこともあって、見知らぬ人から面と向かってどうして安楽死させないんだと責められたこともありました。でも、私たちはポーのその時を決めたくはなかったし、ポーが生きようとしているのを全力でサポートしたいと思っていました。
 でもやはり、安楽死を選ばなくてはならない時もあると思います。愛犬のことを一番よく知っているのは飼い主です。愛犬が天国へ行きたい時は、飼い主さんに絶対に教えてくれます。どうか、他の人たちの言葉に左右されないようにしてほしいと思います。

―――シニア犬の介護をする上で、大切なことはなんだったと思いますか?

有子さん:犬も人間と同じで、信頼できる獣医師を探すことが重要だとつくづく思いました。Dr. BuzbyやDr.Alvarezのように、シニア犬に対しての経験が豊富で親身に相談にのってくれる獣医師に出会えたことで、私たちはそれまでの手探り状態から抜け出すことができました。
 例えば、ポーが壁に向かって歩き続けることがあったんです。最初はなぜだかわからず、方向を変えてあげることしかできませんでしたが、これは痴呆症の症状でした。そして、Dr.BuzbyのアドバイスでNeutricksと言うサプリメントを与え始めたら、1週間後にはその症状はなくなりました。

 あとは、忍耐強く接することも大切だと思います。ニールも私も、ポーの介護を通して本当に忍耐強くなりましたね。時間はかかってもポーに自分の足で歩かせたり、いろいろな工夫をしたり、手間をかけてポーが食事やサプリを摂れるようにしました。

―――老犬や病気の犬のケアをする飼い主さんには、経済的負担が大きいという現実があります。高額治療やリハビリを、金銭的な問題で諦める方もいます。

有子さん:そうですね。私たちも1回のリハビリに2万円ほどかかり、金銭的にはかなり負担で、途中でリハビリや治療にかかった総額を計算するのをやめたんです。でも、リハビリによってポーのQOLはかなり上がったので、貯金が続く限りは......と、なんとか頑張りました。たしかに、経済的事情でリハビリを諦める人も少なくありません。それはAMCNYの先生方も気にしていることです。
 ポーのインスタグラムアカウントには、13万人ものフォロワーがいます。このプラットフォーム(土台)を生かして、リハビリを受けたい飼い主さんを金銭的に救済する基金「The Poh Fund」をクリニックの協力を得て設立しました。ポーグッズを作って販売したり、寄付金などでお金を集めています。私の出産の都合で今は活動を休んでいますが、アメリカに帰ったらまた再開する予定です。

ジャスミンと娘と、新しい冒険の旅に出たい

―――いわばポーの遺産を生かした活動を続けているわけですね。いつかまた犬と暮らす予定はありますか?

有子さん:@pohthedogsbidadventureでフォロワーの方とシェアしてきたシニア犬の介護情報を、より多くの人々に伝えようと立ち上げた「Live Like Poh - Your Senior Pet resource」(プーのように生きよう−シニア犬のための情報源)では、大型犬、老犬や病気の犬など、新しい飼い主探しに苦労しているコも紹介してきました。その中に、インスタグラムのフォロワーの方から情報が寄せられたジャスミンというコがいます。13歳の老犬がシェルターにいて、ひどいケンネル・コフでやせ細り、フォスター家庭を探しているというものでした。そこで私たちがフォスター家庭となり、その後、ニールのお母さんが希望して里親になりました。ニールのお母さんは高齢なので、私たちもジャスミンのお世話をしています。出産で日本に里帰りする前に、ジャスミンと一緒に旅行もしたんですよ。アメリカに帰ったら、子どもとジャスミンとまたアメリカ中を旅したいと思っています。

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ニールさんのお母さんとジャスミンと。ジャスミンは今、14歳だ

―――現在シニア犬や病気の犬のお世話をしている読者に、メッセージをお願いします。

有子さん:まずは、諦めないで、いろんなことを試してもらいたいと思います。獣医師が100人いれば、それぞれ違うことを言うと思います。Dr.Buzbyに出会えたことで、ポーは余命宣告から充実した360日を過ごせました。そして、私たちのような長旅は難しいかもしれませんが、ぜひ旅をしてお互いに思い出づくりをしてほしいと思います。ポーとのたくさんの思い出が、ポーを失った悲しさを和らげてくれています。
 年をとったからと、飼い犬を捨てる人はアメリカにもいます。シェルターに老犬を置いて、子犬をアダプトする人もいるんです。でも、飼った以上、最後まで見届けるのが飼い主の使命だと思います。ポーは力が尽きるまで、彼の人生をまっとうしました。ポーのことがインスタグラムで広まったのは、ポーや私たちの状況に何かしら共感してもらえて、こんな風に自分たちも旅ができたらいいな、こんな風に愛犬も生きられたらいいなと思ってもらえたからだと思っています。

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残された時間をポーと一緒に楽しみ、生き抜きたい

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